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松永和紀のアグリ話

みそも人工調味料? はちみつ報道の怪

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2007年5月16日

 どうもよく分からない。「純粋はちみつ」に混ぜもの、というニュース。どの新聞も「はちみつに人工甘味料の混入が疑われる」と書いている。でも、よく読むと混入の疑いがかかっているのは異性化液糖や水あめ。これらは主に、トウモロコシのでんぷんを酵素で分解してぶどう糖や果糖にしたもので、人工とは言い難い。もちろん、混入が本質的な問題であり言葉の使い方で非難するつもりもないのだが、どうにも気になる。なぜ人工甘味料と書くのだろう?

 G-searchの新聞データベースで、5月14、15日に混入記事がどのように書かれているか調べてみた。最初に報道したのは読売新聞14日付朝刊。特ダネらしく、1面と社会面で大展開だ。異性化液糖を「でんぷんなどを原料とする人工甘味料」と説明。水あめに関する説明はない。

 その後、各社が夕刊や翌日の朝刊で追っかけている。朝日新聞は、「でんぷんなどの人工甘味料や水あめなどが加えられたり、混入したり?」と変な表現。毎日新聞は「人工甘味料や水あめなどを加えた商品」と書き、異性化液糖には触れていないが、記事全体から判断する限り、人工甘味料は異性化液糖を意味するようだ。産経新聞も、毎日新聞とほぼ同様で、「人工甘味料などが混入されている疑い」と書きつつも、異性化液糖という名称は出していない。

 そこで、「人工甘味料」と書かれてしまう異性化液糖について考えてみたい。

 日本スターチ・糖化工業会資料によれば、トウモロコシから作られるコーンスターチ等の精製でんぷんを酵素で分解して作る。でんぷんは、ぶどう糖(glucose)が多数重合した物質なので、酵素でその結合を加水分解してぶどう糖にし、さらに別の酵素で果糖(fructose)に変えて作るのだ。

 果糖とぶどう糖の含有割合によって名称が異なり、果糖分42%のものを「ぶどう糖果糖液糖」、果糖分55%を「果糖ぶどう糖液糖」、果糖分90%を「高果糖液糖」と呼ぶ。これらをまとめて異性化液糖と総称している。

 果糖は砂糖(sucrose、ぶどう糖と果糖が結合したもの)に比べて甘く、ぶどう糖は甘さは弱いがさわやかな味。従って、ぶどう糖と果糖の割合を変えたものを使い分けることで、食味を向上させる。

 ちなみに、水あめはでんぷんを加水分解して完全なぶどう糖にする手前、ぶどう糖や麦芽糖(maltose、ぶどう糖が2分子結合したもの)、デキストリン(ぶどう糖が数分子結合したもの)などの混合物だ。

 これらの過程で使われる酵素もごく一般的なもの。こうして作られる糖類を「人工」とは呼べないだろう。異性化液糖を人工甘味料と称するなら、みそやしょう油も人工調味料である。米麦やダイズ(含まれるのはでんぷんやたんぱく質など)を、微生物が生産する酵素で分解してアミノ酸や糖類、その他の風味につながる微量成分にしているのだから。

 もともと、食品における人工や天然という言葉は、恣意的に使われることが多い。法的な定義から言えば、異性化液糖も水あめも、れっきとした食品である。

 さらに付け加えれば、国際規格におけるはちみつの規定は「基本的に果糖とブドウ糖を主とする数種類の糖類からなり、それに加えて有機酸や酵素やはちみつの採取時に由来する固形粒子のような他の物質から構成されている」だという(社団法人日本養蜂はちみつ協会より)。

 つまり、今回の問題は今のところ、はちみつにもともと含まれる成分と同じ食品を混ぜていた疑いがある、という話だ。

 もちろん、「だったら混ぜてもいいじゃないか」ということにはならない。はちみつ業界を擁護するつもりも全くない。しかし、「人工甘味料を混ぜた疑い」と書く記事が与える過剰なまがまがしさには、ぜひ気付いていただきたい。これは原稿を書く上での意図的なテクニックなのか、それとも知らないのか? 15日には、農水省からプレスリリースが出た。落ち着いた書きぶりで、もちろん人工甘味料というような定義のはっきりしない言葉は使っていない。「調査、分析を行い、その結果によってはしかるべき措置をします」という内容だ。

 同省は、異性化液糖や水あめなどについては炭素安定同位体比による分析を行う(はちみつはC3植物の花みつ由来、異性化液糖や水あめなど追加する糖類は主にC4植物のトウモロコシ由来なので、区別できるという)。しかし、担当者によれば、さまざまな混入の可能性を考えて各種の検査をするそうだ。

 例えば、糖類の数百倍の甘みを持つ食品添加物が混ぜられることは恐らくないと思うが、可能性はゼロとはいえない。何が混入されているのか、どの程度の量の混入なのか、ともかく分析結果を待ちたい。 (サイエンスライター 松永和紀)

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