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松永和紀のアグリ話

グレインショックが畜産物価格に与える影響は?

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2007年5月23日

 「飼料価格高騰等の畜産をめぐる状況変化への理解醸成のための中央推進協議会」という長い名前の会合が2007年5月22日、開かれた。農林水産省が設置したもので、冒頭から畜産部長が「グレインショックが起きている」とセンセーショナルな問題提起をした。傍聴して分かった。これは、「飼料穀物の国際価格が急上昇しているので国内畜産が大変なのですが、飼料の国産化も容易ではなく、だから国民の皆さん、これから負担増を我慢してね、と言いたいけれど、国が率先してはなかなか言いにくいので、各界代表を集めて協議会の形にして、発言していただくことにしました」的会合だったのだ。

 オイルショックならぬグレインショックとは、豪州の干ばつによるコムギの不作、米国でのバイオ燃料需要増によるトウモロコシ高騰と今年のトウモロコシ作付け増、それに伴うダイズなどの作付け減や高騰などを指しての言葉らしい。配布された協議会設置要領には「畜産をめぐる状況や飼料価格高騰による畜産や国民の食生活への影響等について関係者はもとより広く消費者の理解を醸成するため…」とあり、部長は「急遽、立ち上げました」と説明した。

 畜産振興課長によれば、畜産は農業産出額の30%、計2兆5548億円を占めている。しかし、飼料の自給率は低く、粗飼料(牛や羊など草食性家畜が食べる乾草や牧草、イネワラなど)で76%、濃厚飼料(穀類やダイズ油をとった後の残さ、魚粉など)は10%しかない(2003年度)。そのため、海外の穀物価格の上昇が日本の畜産物価格へと大きく影響する。

 配合飼料には価格安定制度があり、穀物の国際価格や海上輸送費などが上がり配合飼料価格が跳ね上がる場合には、基金から補てんをして実際に農家が支払う金額を下げ、農家や消費者の急な負担増を避けている。

 基金は、「通常補てん基金」(配合飼料メーカーと畜産経営者が積み立て)と「異常補てん基金」(国と配合飼料メーカーが積立金を半分ずつ負担)の2段階になっているが、昨年10月期から12月期以降は3期連続して通常補てんを発動。今年1月期から3月期は約3年ぶりに異常補てんも発動されている。

 同省は今後の対策として、飼料国産化と、畜産農家の規模拡大や効率経営による生産性上昇を図っていくという。国産飼料というのは、イネ発酵粗飼料(飼料用イネを比較的若いうちに、茎や葉、籾も一緒に切断し、発酵させた飼料)の生産推進や耕作放棄地などでの放牧、食品残さの飼料化(エコフィード)などである。

 15年度には粗飼料の国産率を100%、濃厚飼料は国産14%にまで引き上げるとする目標を設定している。

 これらの説明の後、意見交換となった。生産者代表が「コスト上昇をこちらで吸収するのはもう限界。消費者に負担をお願いせざるを得ないような状況にあることが分かるような資料があれば……」と農水省に要望。畜産企画課長が、前提条件によって変動があり確定するものではないとの含みを持たせながらも「次回の会合で、分かりやすく事実関係を示すようにしたい」と発言した。なるほど、これを農水省は言いたかったのだ。たぶん。

 飼料の国産化も容易ではない。森林で繁殖牛の放牧をして子牛を生産しているという生産者は「放牧といえども、草のタネをまいたりする必要があり、割合にコストはかかる。肥育農家が喜ぶ子牛の育成は難しいし」と、率直だった。エコフィードに関しては、飼料関係者が「配合飼料は養分バランスを考えなければならず、エコフィードを30%、40%と使えるわけではない」などと説明した。

 興味深かったのは、飼料米(穀物としてのコメを飼料とするもの)について、同省が「トウモロコシ価格と比較すると、トウモロコシが高騰している現在でも、飼料米の価格が5.5倍と大きな格差がある」と説明したのに対して、日本養鶏協会理事が「現在、試験をしているが、頭から無理というような圧倒的な差があるとは感じていない。現在の卵代に消費者が少し上乗せして払ってくれれば…」という趣旨の発言をしたことだ。

 それぞれの思惑が垣間見えて、私にとってはなかなか面白い傍聴だった。「食料」V.S.「燃料」の構図を強調し消費者の理解を得たい、という農水省の戦略は理解できる。

 消費者だって、トウモロコシ価格がこの1年あまりで1.5倍から2倍にもなっている状況で、飼料価格の上昇分を自分たちが負担せずにすむはずがないとは思っているはずだ。ただし、飼料の国産化まで視野に入っている消費者はまだ非常に少ない。私は講演で時々「日本はコメの国ではないかもしれませんよ」と話す。日本のコメの年間消費量は約900万t、トウモロコシの消費量は約1600万tで、94%は米国からの輸入だ(05年)。ほとんどが飼料やコーンスターチ、工業用のりなどになっている。食料の需給を考える上での基礎知識なのだが、消費者には驚かれる。

 だから、農水省の戦略は分かる。でも、踊らされたくはない。同省畜産部や畜産業界は口が裂けても言えないことだが、やっぱり「肉の消費量を少し減らそう」ということを真剣に考える必要があるのではないか。なにせ、牛肉1kgを生産するのに飼料11kg(トウモロコシ換算)、豚肉1kgには飼料7kg(同)が必要なのだから。

 が、消費者があまりにも知らなさすぎる。協議会でも残念ながら、一部の消費者団体代表者の農業や畜産に関する知識不足が目立った。消費者が奮起して学ばないと、このままではやっぱり踊らされてしまう。 (サイエンスライター 松永和紀)

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