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松永和紀のアグリ話

「AERA」が実施中の生協アンケートを、全公開!

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2007年7月4日

 「7月いっぱい休載させて」と編集部に頼んでいたのだが、驚くべき資料を3日、入手したので、急遽書かせてもらうことにした。週刊誌「AERA」が6月29日付で全国主要生協に送ったアンケートである。「北海道のミートホープ社による偽装を受けて全国の主要生協(事業連合)に緊急アンケートを実施しております」とある。締め切りは今日、4日である。多くの生協が苦慮している。質問作成者が食品生産管理の現場を知らなすぎるのだ。答えようのない質問がずらりと並んでいる。これはいったい何を取材しようとしているのか?

 質問状には「生協といってもそれぞれに特徴があり、商品基準も異なることでしょう。消費者がより『安全・安心』な食を手に入れるために選択材料の1つになればと考えております」とある。以下、質問をすべて並べてみる。かなり数が多いが、お付き合いいただきたい。ところどころにある括弧書きは、私の科学的、かつ冷静(?)なツッコミ。本当は全質問につっこみたいところだが、冗長になるので自重します。

質問項目
(1)名称、記入者名、連絡先、住所等、組合員数等
(2)取り扱う商品数。日本生活協同組合連合会の開発商品の割合やオリジナル開発商品数、割合も
(3)店舗数
(4)配送・注文システム

<農産物(穀類、野菜、果物など)>
(5)完全無農薬の商品は全体のざっと何割でしょうか
(農水省が定める「特別栽培農産物に係るガイドライン」によれば、「無農薬」の用語は残留農薬がないとの誤認を与えかねないので表示禁止事項。生協も当然、無農薬という言葉は使わない。したがって、コンプライアンスを重んじる生協の回答は、「ゼロ」以外にない)

(6)減農薬の商品は全体のざっと何割でしょうか
(これも同じく、ガイドラインに基づけば「減農薬」表示は禁止。それに、病害虫の発生状況は日々異なり、「先月は農薬をそれほど使わずにできたけれど、今月は虫が多くて難しい」と変動するのが農業。割合を把握するのは困難だ)

(7)化学肥料をどの程度使っていますか
(化学肥料を使うことと食の安全がどのように関連するのか、科学的根拠を教えてほしい)

(8)農薬や化学肥料について抜き打ち検査をしていますか

(9)使用している農薬や化学肥料をカタログに表示していますか
(記載するのは無理。栽培している場所や周辺で栽培されている作物などによっても病害虫の発生状況はまったく異なり、農家はそれぞれ必要な防除をしているからだ。例えば、キュウリの全生産者にそれぞれ農薬や化学肥料の使用状況を尋ねてカタログに記載する、というようなことを全商品について行っていたら、たぶんカタログは1冊数百ページになってしまう。それに、カタログは収穫のかなり前に印刷される。カタログ決定後の病害虫の被害によっても農薬の使用状況は変わる。できないことを尋ねる意味はなに?)

(10)カタログに産地表示はしていますか

(11)遺伝子組み換え商品を取り扱っていますか
(遺伝子組み換え商品って、なに? 誠実な生協であれば、「遺伝子組み換えは扱っていない」とは絶対に言わない。たとえ「遺伝子組み換えでない」と表示する豆腐やコーンスターチなどしか売っていないとしても、原料原産地での意図しない混入の可能性までゼロにはできないからだ。法的には、意図しない混入があっても5%以内であれば「遺伝子組み換えでない」という表示が認められている)

<畜産物(牛肉、豚肉、鶏肉、卵など>
(12)使用する飼料で禁止しているものはありますか
(13)生産業者の指定はしていますか
(14)生産履歴はさかのぼれますか
(15)使用する飼料や畜産の生産環境など、抜き打ち検査はしていますか
(16)カタログに生産業者を表示していますか

<水産物(魚介類、水産加工品など)>
(17)抗菌性物質を飼料に加えている養殖魚を扱っていますか
(18)漁獲後、退色防止剤や鮮度保持剤など添加物や薬剤を使った魚介類や水産加工品を扱っていますか
(食品添加物や動物用医薬品に使用基準があるのを知らないのかも。法律違反をしてはいけないのは当たり前。扱うとか扱わないとかの問題ではない)

(19)生産業者の指定はしていますか
(20)カタログに産地や生産業者の表示をしていますか
(21)使用する飼料や生育環境など、抜き打ち検査はしていますか

<加工食品>
(22)化学調味料を使用した食品を扱っていますか
(食の安全とどんな関係があるのか? チャイニーズレストランシンドロームは、学術的には完全否定されている)

(23)化学調味料について、カタログに表示していますか
(24)食品添加物を使用した食品を扱っていますか
(上白糖もコーンスターチも豆腐もこんにゃくも、食品添加物なしにはできない。何を尋ねたいのだ?)

(25)製造を他社に委託している商品について、原材料指定の段階で検査をしていますか
(26)製造を他社に委託している商品について、製造工場を検査していますか
(27)製造を他社に委託している商品について、DNA鑑定をしていますか

<ミートホープ社について>
(28)今回、問題になっているミートホープ社の原材料を使った日生協連の「牛肉コロッケ」を扱っていましたか
(29)現在、扱っている商品の中で、ミートホープ社の原材料を使った商品はありますか
(30)過去に、ミートホープ社の原材料を使った商品はありましたか
(31)今回のミートホープ社の件を受けて、反省や教訓とすべきところはありますか。あれば、自由記述でご記入ください

<その他>
(32)安全・安心を追求するため、他の生協と比べて、もっとも力を入れている点があれば、その内容を自由記述で教えてください(例;農薬、食品添加物、遺伝子組み換え、環境ホルモンなど)

 この内容で、「安全・安心な食を手に入れるための選択材料の一つ」とは、おこがましいにもほどがある。この質問を作った人は、食の安全に関してステレオタイプの古い知識しか持ち合わせていないようだ。例えば、高温多湿な気候の中で発生しやすいリスクの高いカビ毒を抑えるための農薬使用とか、食中毒を防止するための保存料というようなリスク管理の概念を知らないのかもしれない。

 尊敬する食生活ジャーナリストの佐藤達夫さんに情報提供したら、さっそく電話がかかってきた。「ミートホープ社のしたことは犯罪だよ。犯罪と農薬や食品添加物を同列に扱って議論してはいけない」。「それに、生協は商品一点一点について安全安心への努力をし、苦労を重ねている。それに対して、『他の生協と比べて力を入れている点』なんて大雑把な質問は、無茶だし失礼」。本当にその通りである。

 やっかいなのは、回答する生協側が真摯であればあるほど、答えられない質問が多いことだ。ある有名な生協は、店舗数など正確に回答できる項目以外は白紙のまま、AERA編集部に返送した。別の生協は「無視しよう」と組織内で検討中。安全のためのリスク管理に懸命に取り組んでいる生協ほど怒っている、そして毅然とした態度をとろうとしている、と私には思える。しかし、逆に質問者の無知を利用して「うちは、遺伝子組み換え原料を使っていない。だから安心」などと巧妙に宣伝に努める生協も現れるかもしれない。

 私に最初にアンケートの存在を教えてくれた生協職員は、こうメールに書いてきた。「まともなアンケートの主旨も挨拶もない失礼な文章で、設問項目も多く、しかも締め切りは明日らしい。アンタらは一体何様だ、と(^^ 無視したら無視したで一覧か何かで「不誠実な生協」として晒されるんでしょうね」

 私が、非常識な「アンケート締め切り前の質問全公開」に踏み切ったことに、異論もあろう。批判は甘んじて受けるつもりだ。私は、同業者の取材手法にとやかく注文をつけるべきでないと思っている。試行錯誤の取材で多くの人たちに迷惑をかけることがあっても、良い記事を目指すべきなのだ。だから、通常は完成した製品(記事やテレビ番組など)しか論評しない。

 しかし、このアンケートのレベルはいくらなんでも低すぎて、良い記事は望むべくもない。食品企業の不正を許したのは生協だけでない。古い知識で表面的な「安全・安心」をもてはやし、リスク管理に努める生協をあ然とさせるこのようなマスメディアも、企業を増長させる役割を担っている、としか私には思えないのだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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