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松永和紀のアグリ話

危機管理できていないのはマスメディア

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2007年8月22日

 「白い恋人」で有名な石屋製菓の一連の話と、この春に起きた不二家の問題、なんだかよく似ている。ブランドにあぐらをかいた品質管理のお粗末さに、「なぜ不二家を教訓にしなかった」という声が出ている。が、メディアも偉そうなことは言えない。不二家の騒動で「信頼回復対策会議」にさんざん批判されたにもかかわらず、学んでいないことを今回露呈してしまった。またもや、大腸菌群と大腸菌を混同して報道しているのだ。

 今年3月に出された不二家の「信頼回復対策会議」最終報告書は、「マスコミ報道に多くの問題があった」と指摘。法律などの無理解・誤解などによるものの具体例として、大腸菌群を大腸菌と間違えて「大腸菌検出」と多数のメディアが報道したことを挙げている。

 報告書はこう説明する。
 「細菌検査における大腸菌群は汚染指標として検査されるものであって、大腸菌を検査しているものではない。このため大腸菌群が陽性だからといって汚染とは無関係のこともあり得るもので、大腸菌は必ずしも存在しない」

 今回、石屋製菓の社告や札幌市の報道発表資料を読む限り、同社製のアイスクリーム類から検出されたのは大腸菌群だった。大腸菌と確定するまでの試験は行っていないようだ(アイスクリーム類は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令が定める成分規格で、大腸菌群陰性と決まっているので、札幌市は大腸菌の有無を問わず食品衛生法違反と判断している)。

 だが、かなりの数の新聞がまたもや、「大腸菌検出」と書いてしまった。私がざっと調べる限り、15日の時事通信、16日の毎日新聞、フジサンケイビジネスアイ、日本農業新聞、18日の中日新聞、19日の京都新聞などある。なんといっても一番驚いたのは、18日付の日本経済新聞朝刊の一面下の「春秋」に、堂々と「大腸菌検出」とあったことだ。土曜日の朝、自宅で思わず「あっ」と叫んで、持っていた日経新聞を落っことしそうになった。本当に。企業の驕りを戒める内容が、あまりにも空しすぎた。

 不二家の「信頼回復対策会議」が批判したのは、TBSの番組「朝ズバッ」だけでなく、マスメディア全体が対象だった。だが、新聞記者の多くは、報告書を読まなかったのだろう。「そりゃあ、全員が読んでるわけない。間違える記者もいるよ」。そう言われるかもしれない。だが、私が大腸菌群と大腸菌の間違いにこだわるのは、新聞社が組織としてかなりの“動脈硬化”を起こしている象徴だからだ。

 新聞記事は、記者個人が作るわけではない。もちろん、もとの原稿は取材した記者が書くが、その後にデスクが手を加え整理部記者が原稿を受け取って見出しを付け、校閲記者が目を通す。印刷されるまでに何十人もの人々が目を通し、間違いも指摘する。

 つまり、新聞紙面に「大腸菌検出」と載っているということは、取材した末端の記者からその日の紙面に最終的な責任を持つ局長クラスのお偉いさんまで、印刷前の紙面に目を通したすべての人々が間違いに気付かなかった証拠なのだ。

 私が新聞記者時代、校閲記者の机には、間違えやすい言葉を書いた紙が貼ってあったりしたものだ。不二家の報告書が出てわずか4カ月あまりなのだから、組織として反省し、間違えないように記憶にとどめておいてもよさそうなもの。だが、学べない、直らない。

 こういう話を食品事業に携わるある人にしたら、「マスメディアが、一番危機管理できていないんですよ」と言われた。まったくその通り。食品企業なら、味付けを間違えて、とてつもなくまずい商品をうっかり売り出してしまった、というようなものだろうか。自主回収し、新聞にお詫びの社告を出し、企業存亡の危機になるかもしれない。

 だが、新聞自身が間違えても、お詫びは数行。たかだか大腸菌群と大腸菌程度の間違いなら、お詫びを出す新聞もないだろう。私は「たかだか」などとは思わないが、抗議が来ない限り、間違いがあっても知らん顔するのが新聞だ。でも、食品関係者なら気付く。「4カ月前にあれほど批判されたのに、また同じことをしている」とあきれ、抗議するのもバカバカしく面倒くさく、「新聞ももうダメだね」とつぶやくはずだ。

 おそらく、テレビも同じような間違いをしているのだろう。ニュースやワイドショーをいちいちチェックするわけではないので詳細は不明だが、フジテレビ系列朝の「とくダネ!」では、キャスター2人が「大腸球菌」と連呼していたくらいだ。
 4カ月あまり経って不二家は、信頼回復の兆しが見え始めただろうか。石屋製菓はいつ? 新聞は、テレビは? メディアは、自身の危機に気付いているのだろうか。(サイエンスライター 松永和紀)

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