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松永和紀のアグリ話

「中国産の毒」と伝える「倫理欠如」を改めて見つめたい

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2007年8月29日

 「中国」という言葉には、不思議な魔力があるらしい。それに「毒」が加われば最強だ。「中国産の毒」報道が、いまだに週刊誌をにぎわせる。特集すると、売れ行きがよいのか、読者の反応がいいのか。でも、「中国産」とひとくくりにしてレッテルを張るのは、日本に食料を供給してくれる隣人に対してやっぱり失礼ではないのか。

 「中国」という言葉の魔力については、個人的に何度も驚かされている。遺伝子組み換えについて講演した時、「遺伝子をいじるなんて、なんだか気味が悪い」という反応しかなかった会場が、中国に言及することでがらりと変わる経験を何度かしている。

 「中国でも今、遺伝子組み換えの研究が盛ん。うかうかしていたら、日本は追いつかれ追い抜かれる」と話すと、「そりゃ大変だ。国内の先生方にしっかり研究してもらわないと」と多くの人が言いだすのだ。

 「アメリカやEUに、研究で後れを取っていますよ」と言っても、「勝手にすれば」という反応なのだが、中国には負けたくないらしい。

 隣国であり、歴史的経緯もある。そんな反応になる人がいるのも分からないでもない。でも、「中国の研究開発が目覚ましいというのはウソではないんだけど、まずかったかなあ。聴き手の劣情を刺激して、遺伝子組み換え推進派にしちゃったかな?」などと反省したりする。

 なので、メディアが「中国産の毒」報道に走っているのを見ると、「おぬし、読者の劣情につけこんで、売れ行きを伸ばす算段だな。情けないやつじゃのう」などと思うわけです。

 本欄の読者ならよくお分かりの通り、中国産食品もピンからキリまで。広い国、所得も教育レベルも大きな格差のある国なのだから、さまざまなレベルの食品があるはず。衛生状態が悪い店、粗悪品を作る工場もあって当たり前。

 そんな事例を持ち出して「中国産は危ない」は的外れだ。日本に輸入されているものの大多数がピンであることは、疑いようもない。取引している商社や企業、生協などは、何度も視察して質の高い食品を製造できる業者を選んで取引し、指導を繰り返している。

 実際に、中国産食品の食品衛生法違反の割合は、昨年の件数を見る限り、ほかの諸外国に比べて多い、というわけではない。(厚労省・輸入食品監視業務ホームページ参照)

 もちろん、質の悪いものをゼロにすることはできない。時折紛れ込んで輸入されることもあるだろう。人にはミスがあり、悪人だっているのだから。

 だが、斎藤くんがお書きの通り、リスクについて理解できていればかなりの心配が軽減される。残念ながら、報道にはリスクのリの字もなく、摂取量も明らかにされず、「毒」という表現ばかりだ。

 欧米にレッテルを張られてつらい思いをしたのが、数十年前の日本人だったのに、と思うと、やりきれない。日本製の電化製品やカメラなども「安かろう悪かろう」と一緒くたに粗悪品扱いされた歴史があったのだ。屈辱的な思いをした企業人も多かっただろう。それを乗り越え「今」がある。

 日本の食生活は、中国産食品を抜きにしてはあり得ない。安価で安定供給してくれる国があることは、本当にありがたい。歴史を顧みて、安易なレッテルを張らずに隣国と付き合い、正すべきは正してもらい、感謝もしたい、と私は思うのだ。

 だが、メディアの方々からは、そんな私は「甘ちゃん」に見えるらしい。話をしても反応はない。各種の報道に、半ばぼやき、半ば怒り、特に新聞社系の週刊誌の報道の悪質さに辟易していたころ、コープ九州事業連合の方が、この7月の上海視察の内部リポートを送ってくださった。

 こんな記述があった。

 「急速な生産・消費規模の拡大の中、食品生産を担う零細企業が全国各地に散らばっているため、政府の地方に対する指導・監視等のコントロールが利かない現状があるようだ。また、中国では、食糧が不足し、食の質よりも量の確保が求められた時代が長く続いたためか、公衆衛生や食品の安全という概念に対する国民意識は希薄なようであり、視察した上海の自由市場等でそう感じた」

 一方で、こう記す。

 「今回、視察・点検を行った上海と寧波の3工場は、工場内の製造管理・衛生管理レベルについては、おおむね申し分のないものであった。3メーカー中、2メーカーは日中の合弁企業であり、現地スタッフに日本人を配置して管理しているメーカーもある。また、日生協商品の製造を行っている関係から、コープ商品を製造する日本のメーカーと同じ管理基準を求められているため、日本国内のメーカー以上に高い衛生レベルを実現している点もある」

 この「幅」が、中国ではないか。リポートは、信頼できる相手とのパートナーシップを重視し、「『中国の商品』という漠然とした概念から、『中国の○○メーカーの商品』という信頼関係性の構築が必要である」とまとめる。

 その上でリポートは最後に、黄桃缶詰工場のことを記すのだ。地方からの季節労働者が日給45元(720円)という平均賃金で働き、色や形を厳密に選別し、規格を合わせるために黄桃をナイフで整形するような作業も行う。柔らかい黄桃を扱うため、ほとんどが手作業。ここで作られた缶詰が、日本で1缶100円以下で売られている。

 このくだりは、個人的な感想を一切交えず事実が羅列してあった。それだけに逆に、筆者の思いが十分に伝わるように思えた。コープ九州ばかりでなく、中国の企業と取引があるほかの生協やメーカーの方々からも、同じような話を聞く。この事実の重みを見ずして、「中国産の毒」と伝えることの「倫理欠如」を、やっぱり改めて見つめたい、と私は思う。 (サイエンスライター 松永和紀)

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