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松永和紀のアグリ話

食品関係者必見、世界的な医学誌に食品添加物の気になる論文

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2007年9月12日

 英国の研究チームが、食品添加物(合成着色料数種と保存料として使われる安息香酸ナトリウム)の子どもへの複合的な影響にも関連する論文をまとめ、6日に医学誌「Lancet」オンライン版で公開された。子どもに摂取させ行動を調べたもので、多動性に影響を与えている可能性があるという。英国FSA(Food Standard Agency)が注意喚起のプレスリリースを出し、海外のマスメディアも大きく取り上げている。研究対象となった着色料の中には日本で使用を認められていないものも含まれており、日本で添加物をすぐに問題視する根拠とはならないが、気になる論文ではある。速報する。

 試験をしたのはSouthampton Universityの研究チームで、FSAの委託を受けて行ったもの。使用した合成着色料は、Sunset yellow (E110)=食用黄色5号、Carmoisine (E122)=日本では認可なし、 Tartrazine (E102)=食用黄色4号、Ponceau 4R(E124)=食用赤色102号,Quinoline yellow=日本で認可なし、Allura red (E129)=食用赤色40号の6種だ。

 この中から、mixA(Sunset yellow、Carmoisine、Tartrazine 、Ponceau 4Rと安息香酸ナトリウム)とmixB(Sunset yellow、Quinoline yellow, Carmoisine, Allura redと安息香酸)の組み合わせについて検討。mixA入りドリンクを飲ませたり、mixB入りドリンクを飲ませたり、あるいはプラセボのドリンクを飲ませたり、というようなことをそれぞれに一定期間行い、親や教師が子どもの行動を観察。学校のクラスルームでの行動観察なども行われた。それらを研究者が集約し解析を行った。

 被験者の子どもは、3歳137人と8歳から9歳130人。与える添加物の量は、この年頃の英国の子どもが日常的な食事で摂取する着色料や安息香酸ナトリウムと同じ程度だと論文には書いてある。もちろん、ADIは超えない量だ。試験自体は、ランダムに割り付けし二重盲検法をとっており、プラセボ対照群と比較してある。観察する親の教育程度なども調べられており、信頼性の高いものであろう。

 結果は、どちらの年代でもmixAとmixBのどちらの摂取でも、プラセボとの比較において多動行動が増加した。ただし、増加の程度は統計学的に有意な差ではない。詳しいことは、Lancetの論文か、英国のCOT(Committee on Toxicity)の声明を参照いただきたい。COTの声明は、素人でも、そして英語圏に生活していない者でも分かりやすい見事な文書。そのうえ食品安全情報blogで、畝山智香子さんが日本語訳を出している。食品事業関係者は必読である。

 食品添加物の複合的な影響については、市民団体などが常々「可能性があるのに調べられていない」と指摘してきた。今回の論文の研究者は、これまでも関連する論文を発表し、実験設計の不備を指摘されていた。今回は、その不備をある程度解消したものだ。

 ただし、専門家によれば行動、つまり人の高次脳機能への影響を調べるのは容易ではなく、個々の添加物でこれまで確認されていなかったから、一足飛びに「複合影響だ、カクテル効果だ」ということにはならないそうだ。もしかしたら、これまで不明だった単独影響が、少し分かってきた、ということなのかもしれない。いずれにせよ、これから活発な議論につながりそうだ。

 FSAも助言を公表。もし子どもに多動の兆候があるなら、実験対象となった着色料を食べさせないことがよい影響をもたらすかもしれない、としている。(安息香酸ナトリウムについては、保存効果のメリットが大きいため、論文もFSAも問題視する記述を一切していない)。一方で、FSAは多動の原因として、遺伝や環境などほかの要素も多いことを付け加えている。EFSA(European Food Safety Authority)も検討に入るようだ。

 さて、私たちにとって大切なことは、この研究結果を日本での添加物使用に対する賛否両論の議論にどう活かしていくか、ということだろう。反対派の識者や市民団体は、複合影響問題を顕在化する好機とするかもしれない。マスメディアがセンセーショナルに取り上げる恐れもある。

 ただし、前述したように実験でとりあげられた着色料の中には、日本で使用を認められていないものが多く、「だから、日本でも着色料を排除すべきだ」という話には直接的には結びつかない。

 さらに、実験で投与されている量がかなり多いことも、個人的には気になる。3歳の子どもにmixAを与える場合、着色料計20mgと安息香酸ナトリウム45mgを摂取させている。mixBは、着色料30mg、安息香酸ナトリウム45mgである。8歳から9歳に対しては、mixAが着色料25mg、安息香酸ナトリウム45mg、mixBが着色料62.5mg、安息香酸45mgである。

 日本でのマーケットバスケット方式による一日摂取量の調査で分かっている摂取量は、これらの数字を大きく下回っている。(日本食品化学研究振興財団のページ「厚生労働省行政情報」参照)

 もちろん、子どもが合成着色料で色をつけられた清涼飲料水を1日何リットルも飲んだり、輸入菓子を何袋も食べるような生活をしていれば、英国並みの量の摂取もあり得るかもしれないが、そんな生活をすれば添加物の影響以前に、肥満や栄養不良など、別の大きな影響が出てくるはずだ。そうしたことも考慮にいれた上で、落ち着いて考えたい。

 英国では、FSAが親向けや企業向けに痒いところに手が届くようなプレスリリースを出し、COTも懇切丁寧な情報提供をした。パニックが広がらないように、事前に十分に準備をし、メディアも冷静に対応したことが伺える。日本でも、英国などでの議論を注視しながら、添加物反対派の扇動に踊らされずしっかりと検討して行きたいものだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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