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松永和紀のアグリ話

マイナス情報が流れる時こそ、リスコミの好機

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2007年9月19日

 組み換えトウモロコシMON863の安全性に関する9月5日付の本欄記事に対して、二人の読者から意見をいただいた。私は、新聞40紙あまりが学術論文を基に「成長や内臓機能に影響か」とでかでかと記事にし、その後に食品安全委員会が論文を検討して「安全性に新たな懸念はない」と結論を出したのに伝えないことを批判した。だが、お二方とも「メディアの責任だけを問うても仕方がない」と言う。一人は、「Greenpeaceが悪質だ」と考え、もう一人は「食品安全委員会が悪い」という意見だった。つまりは、情報を出す側の広報戦略こそが問題だ、というのだ。

 私自身は、いかなる広報戦略であれ、それを見破り読者に誠実に情報を伝えるのが報道機関の責任だと考えているので、今回の“主犯”はやっぱり新聞だと思う。「広報されなかったから気が付かなかった」は言い訳であり、事実そうであったとしても言ってはいけない。

 一方、Greenpeace Japanは、MON863の安全性に疑問を呈する論文が出た後、「即刻回収を」とプレスリリースし、その後の公的機関の動きは伝えない。こちらに対しては、「科学的、倫理的に公正な情報提供を心がけないと、組織としての信用を失いますよ」と申し上げるのみである。

 引っ掛かるのは、食安委の広報だ。このことについて考える前にまず、諸外国の対応を振り返ろう。EFSA(European Food Safety Authority)は論文が出た直後、「新しい論文をこれから評価する」という声明を発表し、6月末には「この論文は、新しい問題を指摘するものではない」とするプレスリリースを出し、その理由を詳しく説明する文書も公表した。

 これとは別にドイツBfR(Bundesinstitut für Risikobewertung、連邦リスク評価研究所)は4月、以前におこなった安全性評価を変えないと発表している。また、FSANZ(Food Standards Australia New Zealand)も同様のファクトシートを7月に公表した。

 フィリピン農務省も4月、MON863の変えないことを明らかにし、これからも認可したGMOについても健康リスクや環境影響をもたらさないようにきちんと監視してゆくことを強調している。

 さて、日本では、論文を海外のメディアが取り上げたのを受け、3月29日の第184回食安委で一人の委員が話題にし、事務局側が「遺伝子組換え食品等専門調査会で検討していくべき」と答える、という形で検討に入った。

 同専門調査会は第47回会合(4月16日)と第51回会合(8月3日)で専門家を呼んで意見を聞き検討し、「ヒトへの悪影響を示唆しているという指摘は妥当でない」とする見解をまとめた。そして、8月30日の第204回食安委が、見解を了承した。

 ところが、積極的な広報はせず、通常の案件と同様に資料と議事録をウェブサイトで公開したのみなのだ。

 なぜ、食安委は動かないのか? ファクトシートを公開するなどの方法をとらないのか?

 共同通信社が6月に配信した「成長や内臓機能に影響か」という記事は、日本経済新聞や産経新聞、地方紙など計41紙に載った。つまり、数百万部という新聞に掲載された。そこには、「日本の食品安全委員会も情報収集している」という一文も入っていた。

 願わくは、食安委にはEFSAやFSANZの動きを待たずに判断できる機関になってほしい。検討開始は迅速だったが、残念ながら「国民の不安にすぐさま応える」という審議にはならなかった。しかし、専門調査会委員は科学的に検討し責任を果たしたのだ。食安委は、不安を抱えているかもしれない数百万人にその見解を伝える努力をすべきだった。

 逆説的だが、遺伝子組み換えに関するマイナスの情報が世間で流れた時こそ、食安委など公的組織にとっての「好機」だと私は思っている。

 組み換えに対する一般市民の関心は、一昨年頃からかなり下がっている。メディアも、飽きたのか市民の関心の低さを読んでいるのか、なかなか取り上げない。だが、「一般市民の理解が深まり不安がなくなった」というわけではないだろう。理解が深まったのであれば、昨年のように、全国でロシア人研究者のトンデモ講演が開かれ全国紙やテレビ局が取り上げる事態になるはずがない。やっぱり、認可されて10年たって、話題の対象として新味がなくなり面白みがない、というのが実情ではないか。

 だからこそ、マイナスの情報に世間が浮き足立ち「遺伝子組み換えってなに?」と改めて思う一瞬こそが、正しい知識、情報を浸透させる絶好のチャンスなのだ。

 さらに、食安委と専門調査会が、どのようにしてリスク評価を行い専門家集団がどんなに真摯な議論をしているかを知らしめる良いきっかけにもなる。

 平時の年度計画に基づいた「リスクコミュニケーション」など、遺伝子組み換えの強固な反対派と、自分の仕事に直接関わる食品関係者ぐらいしか来てくれない。どうして好機を活かし、情報提供と意見交換を進める毅然とした組織の姿を国民に示してくれないのだろう? 昨年のトンデモ騒動の時にこっそりとウェブサイト上のQ&Aで解説してお茶を濁した農水省と厚労省に対して、私はそう思った。不思議だった。今回も、食安委に同じ疑問を抱いた。

 食品安全に関わる多くの事象がある中で、ことさらに取り上げて広報しにくい事情はよく分かる。でも、毅然とした国と組織の姿が、食に対する信頼、安心を生み出すのもまた事実である。 (サイエンスライター 松永和紀)

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