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松永和紀のアグリ話

残留農薬分析の第一人者に聞く中国産食品の実態

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2007年10月3日

 中国・青島で日本向け食品の分析を行っている「青島中検誠誉食品検測有限公司」の技術顧問、佐藤元昭さんに先週、久しぶりにお目にkaかった。京都生協主催の「連続講座たべるたいせつ」の第1回「ほんとはどうなの?! 輸入食品の安全性」で、講演されたのだ。佐藤さんは、同公司の前身の研究所が2003年に日本企業や検査機関などの共同出資で設立された時から、技術指導をしている。この5、6年の中国産農産物の残留農薬に関する実態を、恐らく日本で最もよく知る人物。佐藤さんが語ってくれた中国の最新事情をご紹介したい。

 佐藤さんに関して真っ先に思い出すのは、冷凍ホウレンソウの残留農薬問題が明らかになった02年当時の取り組み。財団法人雑賀技術研究所の食品化学部長を務め、大量の中国産農産物の分析を指揮していた。そして、同年2月から8月までの分析データを、10月にあった日本農薬学会残留農薬分析研究会で早くも発表したのだ。

 学会発表をきちんと行い、研究成果を社会に還元するとともに宣伝にもつなげるのが、当時の同研究所の流儀だったという。その時の講演要旨によれば、基準違反はクロルピリホスが多いが、これは、ホウレンソウのクロルピリホスの残留基準が0.01ppmで、ほかの作物に比べて非常に低いという特殊な事情による。重要なのは基準違反の件数ではなく、日本で農薬として使用を認められていない物質数種が比較的多く検出されている実態にあった。このデータが、3年後のポジティブリスト制施行にもつながった。佐藤さんの目は、科学的なデータを通して本質を見つめているのだ。

 その佐藤さんによれば、現在の中国は来年の北京オリンピックや2010年の上海万博を控え、高度経済成長の波に乗っている。だが、自由主義的経済体制にあまりにも急激に移行しつつあるため、多くの人々が自由主義の裏付けとなる「責任」に対してまだ自覚が薄く、激しい競争に生き残るためのコスト削減策として粗悪品を作ったり未承認薬物を使ってしまったりするという。

 さらに、行政の態勢も不十分だ。「国家質量監督検験検疫総局」(AQSIQ)が各省や自治区などに計35の直属局(CIQ)を設置し目を光らせているが、「衛生部」(日本の厚労省に当たるもの)、農業部(同じく農水省に当たるもの)は地方に直轄の組織がない。そのため、北京中央政府の指導と取り締まりが地方にまでなかなか浸透しないという。

 中国政府はこの2年ほどの間に非常に厳しい法律を作り、高額の罰金を科したり悪質な違反者を死刑にしたりして規制を強めている。だが、混乱は続いている。

 このような中国内の動きと、日本向けの食品の実情は全く異なり、分けて考えるべきだというのが佐藤さんの指摘だ。

 日本向けの規制は特別に厳しい。中国側にとっても、日本への輸出は重要な産業。冷凍ホウレンソウのように基準違反が続発して輸出ストップをかけられる“失態”は、もう2度と演じたくない。そのため、ホウレンソウをはじめとする冷凍野菜の日本向け輸出工場は登録制となっており、登録条件には「農薬の購入や使用、管理等の記帳」「残留農薬分析機器を備え検査結果を記録すること」「20ha以上の農地を持っていること」などが定められている。

 また、日本向けの主要な野菜(サヤエンドウやネギ、ホウレンソウ、ショウガなど23種類の作物)に対しては、農薬の重点検査が行われている。茶葉も、10農薬が重点的に検査されている。さらに、ポジティブリスト制対応もかなり綿密に行われており、佐藤さんもたびたび中国側に招かれて講演したそうだ。

 例えば、山東出入境検験検疫局(CIQ)は、日本のポジティブリスト制やEUの新制度に積極的に対応する内容を記した「通達」をわざわざ出した。農薬等の使用・残留実態を把握することや、計測技術水準を日本の技術に合わせることなどを求めている。

 中国の役人の一部には、一律基準(0.01ppm)に対して「緑色関税障壁」と反発する人もいる。だが、大部分の人たちは、日本に対応できるように努力している、と佐藤さんは見る。

 中国側のこうした対策の結果、「青島中検誠誉食品検測有限公司」が検査した日本向け食品の日本基準に対する違反割合は低い。年間3000件以上を検査しているが、現在の違反率は0.1%前後であり、そのかなりの割合を一律基準違反が占めているという。

 中国政府は安全な農産物の輸出を主要産業として育成していく方針であり、日本向けだけでなく農業全体のレベルアップを目指して、さまざまな施策を講じつつある。佐藤さんはこう言う。

 「今の中国の状況は、東京オリンピック直前の日本の姿によく似ている。日本は40年かけて今の姿になりました。でも、中国は共産党一党独裁から来る強い指導力と高い行動力がありますから、この5年から10年で追いつくでしょう。日本農業も、早く守りから攻めへと転換しなければ、大変なことになるのですが……」

 ある日本のテレビ局が最近、同公司でまる一日取材して帰ったが、番組には数秒しか映らなかったそうだ。FAPAS能力検証試験で好成績を収めるなど検査機関として優秀な同公司が、3000検体以上も検査して違反率が0.1%しかない、という事実は、「中国産食品の恐怖」をあおりたい側には都合が悪かったらしい。

 だが、京都生協は佐藤さんを招き、本音の話を聞いた。「真実を知らなければ。伝えなければ」という気持ちは、メディアよりもむしろ生協の方が強いというのが現実である。同生協は、講演内容を近々、ウェブサイトで公開する予定だ。(サイエンスライター 松永和紀)

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