ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

“技術屋さん”が取り組む中国産冷凍野菜のレベルアップ

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2007年10月10日

 先週の本欄で、中国産食品の安全性について、残留農薬分析の専門家の話を紹介した。今週は、中国産冷凍野菜の品質向上と安全確保を目指して、日本の食品メーカーなどが3年前に設立した「輸入冷凍野菜品質安全協議会」(凍菜協)の活動に注目した。い。

 協議会設立のきっかけは、2002年の輸入冷凍ホウレンソウの残留農薬問題。当初は、各社個別に対処していたが、業界として連携して取り組むことになり、04年5月に6社が参加してスタートした。現在はニチレイ、日本水産、味の素冷凍食品、マルハ・ニチロホールディング、ライフフーズなど19社が加わっている。

 ただし、どんな企業でも参加できるわけではなく、品質管理実務と法遵守の指導を行う部署が組織内にあり、中国で着実に実行していることが求められている。つまり、品物を右から左に動かすような商社は参加できない。“技術屋さん”たちが、どのようなシステム、技術により中国産冷凍野菜をより良いものにしてゆくか検討し具体化する連携の場が凍菜協なのだ。現在では、日本に輸入される中国産冷凍野菜のうち凍菜協の加盟企業が扱うものが5割以上を占めるという。

 主な取り組みを説明しよう。(1)中国側との交流 先週解説した通り、中国で日本向けに野菜を栽培し冷凍野菜として輸出することを認められている企業・業者は限られている。凍菜協は、これらの企業・業者や国家質量監督検験検疫総局などと普段から、情報提供や意見交換を密接に行っている。また、年1回、中国土畜○出口商会(○=しんにょうに井という漢字)と共に「日中冷凍野菜品質安全会議」を開催している。

(2)ポジティブリスト制対応 制度が検討されている段階では、基準値案について中国の実情と照らし合わせながら検討し、より合理的な基準設定を求める意見を厚労省に提出するなどした。制度が確定した後は、中国でセミナーを開くなどして情報を提供。今年8月の第3回日中冷凍野菜品質安全会議では、凍菜協がこれまでの違反事例を解説した。

 この時に使われた資料を見たが、「商品需要が増えたために、工場管理外の産地の原料を使用してしまった」「国内向けの畑と日本向けの畑の区分が十分でなく、国内向けの農産品が日本向けに混入」などと、極めて具体的に違反事例を指摘。栽培品目や栽培者について詳しい調査とリスク分析を行い、ハイリスクの場合には取引を中止した事例もあることを伝えるなど、厳しい姿勢が目立つ内容だ。

(3)現地管理の強化支援
 05年に「日本向け冷凍野菜の残留農薬管理に関する要求ガイドライン」を策定した。内容は、次のように多岐にわたる。
・圃場などの選定(管理や履歴、土壌調査、水源調査など)
・農業資材の選定(種子や種苗、機器、農薬、肥料など)
・農薬管理(購入や製剤の品質確認、保管や廃棄、使用履歴の記録、環境汚染防止対策)
・収穫・輸送(原料検査など)
・加工(半製品検査、在庫保管)
・残留農薬検査
・トレーサビリティ
・その他(監査体制、連絡体制、品質保証体系)

 今年はさらに、GAPやIPM(総合的病害虫管理)の考え方を取り入れ、検査の精度管理なども追加して「新ガイドライン」を作った。

(4)検査分析技術の支援
 中国側企業は、農産物を自ら検査し違反を防ぐ仕組みも構築している。残留農薬検査は日進月歩なので、日本から企業ラボへの技術支援は欠かせない。野菜ジュースに農薬を添加した試料を作りラボに測定させ、技能を評価する「外部精度管理」も行い、さらなるレベルアップを目指してもらっている。今夏の安全会議では、凍菜協が結果を1時間にわたって詳しく解説し改善を求めた。

 凍菜協のさまざまな活動について、関係者数人から話を聞いたが、どの人からも技術者らしい合理的な判断と共に中国側に対する敬意が感じられて、私はとてもよい印象を受けた。

 活動内容も真摯である。例えば、残留農薬分析の技能を評価する外部精度管理は、技能のレベルを確認するもので、直接的にビジネスに結びつくものではない。にもかかわらず費用がかかり参加者も神経をすり減らす。できれば、試験設計をする側も試験を受ける側もしたくないはずだ。実際に、日本の食品メーカーでも、外部精度管理まではいっていないところが多い。

 だが、凍菜協は実施し中国企業も参加した。つまり、凍菜協と付き合う中国企業は、日本の大企業並みの品質管理を求められ、努力を続けているということ。この事実こそが、関係する人々の姿勢の本質を物語っていると私は思う。

 なのに「中国産は危ない」と言われるのでは、中国側もやりきれない。実際に、「何が何でも日本に輸出して儲けなければ」という雰囲気は、もうないそうだ。売り先は世界中、いくらでもある。

 「だからこそ、まじめに付き合って良い関係を構築し、適切な価格で高品質の冷凍野菜を供給し続けてもらわねば—-」。凍菜協関係者の話の端々から、そういった意思が強く感じられた。

 残念ながら、凍菜協に加盟している各企業にはこの数カ月、取引先から「安全証明書を出せ」という要望がかなり来たという。例によって「検査結果を」ということ。本欄で何度も書いているように、農場から食卓までのリスク管理が重要なのであって、一部の食品の検査結果を見たところで意味はない。

 だが、未だに検査結果に頼り客に説明する流通業者や生協などが後を絶たない。マスメディアも科学的根拠のない中国バッシングに走り、その影響を受けてか中国産食品を避ける消費者を「中国産離れが起きている」と報じる。これでは、懸命に努力する日中双方の企業も品質向上を目指す技術者たちも報われない。私たち日本人は、同じことをいったい何回繰り返せば、学べるのだろう。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。