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松永和紀のアグリ話

赤福、吉兆問題に見る品質保証部の重要性

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2007年10月31日

 とうとう食の不正は有名料亭、吉兆まで。そんな声が多いが、私はそうは思わない。不二屋、ミートホープ、石屋製菓、赤福、吉兆……。みんな似ているではないか。オーナー企業、同族経営(吉兆は分社化してかなり複雑のようだが)。風通しが悪く、安全性や法令に関する新しい情報が入らず、社内で“バトル”が展開されてこなかったのだろうなあ、と私は想像する。食品業界は今、過渡期。まともな企業は、中で社員同士が激しく議論し問題点を指摘し改善している。昨今の不祥事は、それをしていない企業が、内部告発によって旧態依然の体質を白日の下にさらされているとは考えられないか。

 そう思うのは、私が日ごろから、品質保証部の社員の苦労を聞くことが多いからだろう。品質保証部は、文字通り製品の品質や機能を保証するために、組織の体制や運営管理の方法、責任分担の確立、法令順守の徹底からCSRまで、幅広く担当する部署だ。

 所属する社員たちは、組織における食の安全と品質管理の要である。そして、彼らの“敵”は往々にして社内にいるようだ。

 企業で、商品を開発したり製造する現場にいる人たちは、法律や通知、規範などに関する知識が意外に薄い。また、宣伝・広報部署などは、食の安全や機能に関して、科学的根拠のないトンデモ説、体験談などに飛びつくきらいがあり、無邪気に自社の製品を「よい」と主張してしまう。

 彼らに、良い商品を作りたい、売りたい、という気分が先立つのは、まあ当たり前のこと。それくらいのめり込まないと、オリジナルの商品開発や販売に結びついていかないだろう。

 だが、食品製造や加工、保管などの技術は複雑化、細分化している。関係する法律が増えているし、食品衛生法をはじめとして改正が行われ、重要通知も出されている。

 うっかり法令に抵触するだけでなく、時には故意に法を犯す部署や社員も出てくる。どれほど社員教育を厳しくしても、すべての社員がモラルを保てるわけではない。

 誰かが社内で、第三者に近い目を持って、しっかりと「それは、法令を順守しているか」「それは、科学的に根拠があるのか」と検証する必要がある。そのシビアな仕事をしているのが、品質保証部だ。組織の中で同僚と戦っている。企業だけではなく生協でも品質保証部が、取り扱う食品や製造業者、組織内の動きにも目を光らせている。

 残念ながら、品質保証部を煙たがる雰囲気の企業や生協もあるという。直接的に利益を生み出す部署ではない。いかにも大衆受けしそうな広告に「それはダメ」と指摘しなければならない憎まれ役。ほかの部署に、作業の変更や煩雑な管理を要求する場合もある。嫌がられても、続けなければならない。チェックするには、日ごろから広く情報収集を重ねなければならない。

 苦労の多い仕事だ。だが、プライドを持って、科学と法令順守を基盤に働く品質保証部の人たちは魅力的だ。私は、彼らから多くのことを教わってきたし、これからも敬意を払って付き合い続けるだろう。

 問題を起こした企業の中で、不二家には品質保証部があり、ISO9001の認証も受けていた。だが、各工場との間で指揮命令系統に混乱があり、「衛生管理、品質管理が経験と勘に依存しており、その適正さを客観的に担保する社内体制が構築されていなかった」と信頼回復対策会議の最終報告書には記述されている。

 石屋製菓や赤福に「適正さを客観的に担保する」ために、公然と戦える部署はあったのか。なかったから、内部告発につながったのか。

 今回明らかになった船場吉兆の不正はさらに、石屋製菓や赤福どころではない深刻さをはらんでいる。日本で屈指の高級料亭が絡むからではない。報道を見る限り、食のリスク管理を全くしていなかったようにしか思えない。

 毎日新聞10月30日付の朝刊によれば、問題となった福岡の売り場の販売責任者であるパート従業員は、賞味・消費期限切れの商品と期限内の商品を区別せず、一括して在庫として書き入れるずさんな帳簿を作り、毎日賞味期限を書いたラベルを張り替えていたという。

 食品は、日がたてば品質は低下するし、微生物が付着し、その後の管理が悪ければ、わずかな時間で増殖する。いつ作られ、その後どのような管理がなされていたかは、極めて重要な情報だ。その情報が、記録されていなかった。

 帳簿は、時折来る本社の社員も目を通すはず。これが本当なら、船場吉兆という組織自体が、食のリスク管理という概念を持っていなかったと疑われても仕方がない。にわかには信じられず、誤報ではないか、とすら思えるほどの話だ。読売新聞30日付夕刊も、賞味期限と消費期限の違いを知らず、売り場には賞味期限の表示を張る器具しかなかった、と伝えている。

 在庫の管理、売り方などを客観的にチェックする「目」がなかったのは確実だ。この船場吉兆の不正問題も、表面化のきっかけは9月に福岡市にあった匿名の通報だったという。

 今、一連の虚偽や不正を基に「食品業界は猛省を」とか「食品には裏がある」などと、十把ひとからげの総括をしてしまう識者やメディアが増えてきている。

 残念で仕方がない。批判するのは簡単だ。確かに不正は幾つも露見した。だが、そんな言い方では、今まで真摯(しんし)な努力をしてきた人たちが、意欲を失ってしまう。品質保証部に限らず多くの食品製造や流通にかかわる人たちが、組織の中で議論し、内部告発よりももっと勇気のある戦いをして、胸を張って製品を売っている。彼らの努力のおかげで、食品の品質や安全性は、昔に比べ飛躍的に向上した。私は、そのことを忘れたくないし、今以上に頑張ってほしいのだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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