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松永和紀のアグリ話

市民に迎合し過ぎたかもしれないGM研究

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2007年11月7日

 独立行政法人農業環境技術研究所主催の公開セミナー「遺伝子組換え作物の栽培と生態影響評価」が3日開かれ、2001年度から行われてきた研究成果が発表された。私は「GMOの日本の生態系への影響をみる実証的な長期研究が必要だ」と本欄でもたびたび書いてきたので関心を持って聞いたのだが、実は反省した。私はこれまで、あまりにも無責任な態度でのほほんと「環境影響研究を」と言い過ぎていた。それが、よく分かった。

 改めて整理すると、GMOの研究には2通りある。食品や飼料として食べる場合の健康影響に関する研究と、栽培した場合の環境、生態系への影響に関する研究だ。

 2000年度に行われた「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」で、市民パネルから「環境影響についての長期的な視点に基づく調査研究が必要だ」と提起され、翌年から農業環境技術研究所(農環研)などでいくつかの研究がスタートした。

 その成果は、報告書などの形で随時明らかにされてきたが、農環研の研究者の一人、芝池博幸さんから「研究成果を市民に返したい」という提案があり、今回の農環研主催のセミナー開催につながったという。コンセンサス会議市民パネルの中から4人も参加し、成果発表を受けて円卓会議も行われた。

 発表された研究成果は次の通り。
(1)遺伝子組み換えダイズとナタネを含む輪作体系が後作、雑草、節足動物、土壌微生物に与える影響
 GMダイズ、ナタネは除草剤のグリホサート耐性であり、栽培時にグリホサートを使用。一方、対照区としては非GMダイズとナタネを使用し、除草は中耕(伸びてきた雑草を畝間に鋤き込んでしまうこと)で行った。
 結果;GM区と非GM区で差が認められなかった。

(2)遺伝子組換えトウモロコシの栽培が後作、雑草、節足動物、土壌微生物に与える影響
 実験に使用したのは、グリホサート耐性の品種。GMトウモロコシを栽培し除草にグリホサートを使う「GM+G区」と、GMトウモロコシを栽培するがグリホサートではなく別の除草剤を使う(アトラジン、アルクロール混用)「GM区」、非GMトウモロコシを栽培し同様にアトラジン、アルクロールを混用して除草する「非GM区」で比較した。
 結果;一部に、GM+G区が有意に異なるものがあった。研究者は「組み換えによって導入された除草剤耐性遺伝子そのものに起因する影響はなく、使用した除草剤の種類による違いが出た」と述べた。

(3)遺伝子組み換え作物の花粉飛散と交雑ー知見の集積から評価・予測へ
 トウモロコシの白色粒品種と黄色粒品種、イネのモチ性品種やウルチ性品種を利用して、GMの交雑の状況を実際のフィールドで模擬的に解析。データを基に、交雑予測モデルを開発した。

(4)作物輸入港で野生化した遺伝子組み換えセイヨウナタネの生育地特性と発生消長
 鹿島港周辺におけるGMナタネ、非GMナタネの分布や開花の推移、個体群の発生消長について調査。
 結果;GMナタネ(除草剤グリホサート耐性やグルホシネート耐性)の生育を確認したが、非GMナタネと生育地嗜好性に差はないと考えられた。さらに、鹿島港周辺の個体は、世代更新により維持されている(自生し繁殖している)のではなく、こぼれ落ち種子に由来する短期的な発生の繰り返しと考えられた。

 市民の疑問に研究者が応える研究を行い、成果を市民に還元するという流れができたのは大きな収穫であり、農環研をはじめとする関係者や市民パネルに大きな敬意を払いたい。

 一方で、「これは大変だ。市民の要望のまま、研究を続けていたら、税金の無駄遣いにもなりかねない」と思ってしまったのも事実だ。そして私も、無責任に研究を要望してきた市民の一人なのである。

 なぜか?
 もともと、日本で承認されているGMOの大部分は、農水省が設置した「生物多様性影響評価検討会」で、さまざまな実験結果や知見を基に「生物多様性には影響しない」という結論が出て認められたものだ。野生生物への影響のほか、土壌微生物や後作で栽培される作物などに影響がないことも、かなりのデータで確認されたうえで承認されている。

 「でも、農業現場という多様な生物相が存在する場での影響を、室内実験などで測りきれるものではないでしょう。長期に植え続けた時にどうなるかも分からないでしょう?」という市民の不安があり、農環研などの研究は始まった。

 いきおい、その実験設計は実際の農業に即したものになる。農業には多様なやり方があるから、もっとも典型的な方法を選び出すしかない。例えば、(2)であれば、除草剤として「アトラジン、アルクロール混用」ではなく、別の除草剤を使ってもよいわけだが、していない。実験には予算や人員の制約があるわけで、農業におけるすべてのパターンをそろえて実験するわけにはいかないのだ。

 そうなると、市民は「あの除草剤を使った場合はどうなるんだ」というような疑問を持たざるを得ない。さらに、「実験の栽培面積が狭すぎる。もっと広い面積でやったら、違う影響が出るはずだ」とか、「そもそも農環研の敷地の中でやっただけでは分からない。全国各地で実験すべきだ」などと思うだろう。

 セイヨウナタネのこぼれ落ち調査にしても、「鹿島港と四日市港で状況がまるで違うから、四日市港で個体群の発生消長調査を」「いやいや、博多港だって違うからこちらも」と、果てしなく広がっていく。

 現場、実情に即した調査や研究であるがゆえに、学術的には散漫になり論文にもなりにくい。一方で、市民の側にも「別のパターン、事例が山ほどあるのに、自分たちの都合の良い部分だけを調査して都合の良い結論を出した」という不満が残るのではないか。今回も、市民パネルからは「試験継続を」「さらなる条件を付加した研究をしてほしい」などの要望が相次いだ。

 今回発表された研究は、良く検討し練り上げられたうえで実験や調査が行われ、貴重な成果が出ている。だが、このまま条件を変えて事例を積み重ねても、あまり意味がないだろう。このような研究の限界を、研究者はみな、分かっている。だから辛いし、現在の研究結果を普遍的な成果につなげようと必死で模索し、果たせないでいるのだと私には思えた。研究者のその苦しさは、残念ながら市民パネルにはさっぱり理解されていなかった。

 あえて言う。市民に迎合した研究をし過ぎているのではないか。そして、繰り返し言う。私も、市民の不安に応える研究を、とナイーブに言い続けた一人である。(次週に続く)(サイエンスライター 松永和紀)

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