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松永和紀のアグリ話

「食品偽装から騒ぎ」は、消費者のためにならない

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2007年11月28日

 これでもか、これでもか、と「食品偽装」が表面化している。そのたびに、マスメディアは「何を食べてよいのか分からない」と怒る消費者の声を伝える。ウソはいけない。だが、ウソだからといって食品が危ないわけではない。一連の騒ぎの中で、まじめな食品企業まで疲弊してゆく姿を見るにつけ、メディアと消費者による「から騒ぎの罪」を考えざるを得ない。

 例えば、2007年11月27日に明らかになったマクドナルドの問題。話は二つある。サラダの調理日時貼り替え/賞味期限切れシェイクミックスとヨーグルトの使用—-である。

 そもそも、マクドナルドの商品には期限に関する法的な表示義務はない。表示義務は、あらかじめ容器に入れられたり包装されたりしているものが対象で、マクドナルドの商品は原則として、注文を受けてから入れたり包んだりするからだ。

 調理日のシールを貼っているのは、自社ルールに過ぎない。さらに同社は、プレスリリースで「保存試験でも製造日から7日後でも大腸菌が陰性であることが検証されている」と説明する。

 これだけではあまりにも言葉足らずで、「じゃあ、サルモネラ菌は? ウェルシュ菌は?」などと突っ込みたくなるが、保存性について大腸菌だけ検査しているはずもない。つまりは、「食品としてのリスクが増大していないことは、きちんと科学的に確かめている」と言いたいのであろう。

 結局、サラダの日付貼り替えは、景品表示法に抵触するかしないか、という問題に帰結する。

 シェイクミックスとヨーグルトの使用については、賞味期限切れであっても、科学的に安全性や品質上問題がないことを確かめたうえでのことなら法的には問題ない。賞味期限切れが短期間なら、期限内のものとほとんど差がないはずだ。

 今回の場合は、おそらく科学的に確認したうえで使用したわけではないだろうから、しかるべき行政指導が行われるのだろうが、「賞味期限切れ食品の使用=危ない食品の提供」ではないことは、十分に消費者に伝えられるべきだと思う。

 本欄では何度も書いていることだが、「ウソはいけない」のだ。だが、マックの問題にしても産地偽装にしても、佐賀牛を但馬牛に、ブロイラーを地鶏にしていた船場吉兆の問題も、食品の安全性とはまず関係がない。

 一方で、船場吉兆の期限改ざんになると、怪しい。消費期限を17日も超過した食品の一般生菌数はどれほどだっただろうか。こうしたことを、きちんと分けて判断し論ずるべきなのだが、残念ながら最近の世間の論調は「消費者を裏切るな」一辺倒である。

 先日、年間売り上げ100億円規模の企業を訪ねて、賞味期限の設定方法や生産管理について詳しく聞いた。

 もっとも印象的だったのは、うっかりミスを意図的な偽装と誤解されないために、「うっかり」をゼロにするというすさまじい努力が行われている、ということだった。

 この企業には、300を超えるアイテムがある。それぞれに包装し賞味期限を印字していかなければならない。商品の特性により当然、賞味期限は異なり、製造商品を切り替えるごとに人の手で日付を入力する。したがって、勘違いなどによる入力ミスを防がなければならない。さらに、印字する機械が不調になると、印字にかすれが起きたり、あるいは印字漏れも起きる場合がある。

 このような人による、あるいは機械による「うっかり」でさえ、流通や消費者は問題視する。そのため、この企業では最終製品の表示をチェックする専従者を製造ラインの最後に置いて確認。さらに、箱詰め段階でも、もう一度確かめる仕組みにしていた。

 この企業の近くにある食品企業で以前、重量を間違って表示してしまううっかりミスが起きたという。間違えたのはわずか20パック。どのスーパーで売られたのかもはっきりしていた。そのため、スーパーでの店頭掲示で消費者に伝えようとした。

 だが、スーパーは許さなかった。社告を要求し、この企業は20パックのために数千万円かけて新聞に社告を打ったという。地方の中小企業にとってこの負担がどれほど大きいかは、言うまでもない。

 私が訪ねた企業の社長は、「こうした事例を知っているので神経質にならざるをえない」と話してくれた。表示を確認する専従者の人件費は、年間1000万円以上、売り上げの0.1%にも上る。努力して「うっかり」を減らすことはできてもゼロにはできないことも、社長はよく分かっている。でも、たった一度のうっかりが偽装と誤解される事態になったら、企業の存続すら危うい。

 これが、食品企業の置かれている現実である。一部の「不届き者」のせいで社会がから騒ぎを引き起こしている、と私には思える。社告を掲載する新聞社だけが、がっぽり儲かっている。

 食品に対する消費者の低価格志向は顕著だ。にもかかわらず、不毛のコストは増大するばかり。中小企業は持ちこたえられるのだろうか。神経質になっている流通への書類提出などに労力を割かれ、生産面での安全管理が疎かになったりしないだろうか。

 から騒ぎによる食品業界の疲弊は、最終的には消費者の不利益につながる。だが、そのことにまだ消費者は気付いていない。(サイエンスライター 松永和紀)

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