ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

「怪しい人」が暗躍する業界で、疑義資材一掃に乗り出した農水省

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2007年12月5日

 少し前の話だが、農業資材「アグリクール」が無登録農薬に該当することが判明したとして農林水産省が製造・販売企業に立ち入り検査を行い、プレスリリースした。アグリクールは「自生植物からつくられた農植物保護液」という触れ込みで、販売代理店のウェブサイトには「農薬ではありません」と大書してあったが、農水省は認めなかった。だが、これは氷山の一角だ。問題のある農業資材はごまんとある。

 アグリクールには、日本では登録がないが諸外国では使われている農薬成分アバメクチンの主成分であるアベルメクチンB1aが0.2%含まれていた。そのため、農水省は「一定程度の病害虫の防除効果を有すると判断でき、無登録農薬に該当する」と判断した。

 アグリクールについては、2007年4月の日本農薬学会で千葉大園芸学部の本山直樹教授が「アバメクチンが検出された」とする分析結果を発表。本欄07年4月4日付 でも紹介している。

 この時は、農水省が動き出す気配はなかった。農薬取締法には、農薬の定義として虫やウイルスなどの「防除に用いる」などとする文言がある。そのため、「防除目的でなければ農薬の定義にあてはまらず、農薬取締法の対象外となる」などとする意見もあり、どうもルールが明確になっていなかった。そのために、「有機リン剤を希釈して販売しても、農薬でないと大書し『効きません』と言って売れば、農薬取締法違反とはならない」という解釈すら、ささやかれていた。

 アグリクール問題は、有機栽培に問題ある資材が使われていた、という点で話題となっている。だが、今回注目すべきは、農水省がこうした「あやしい資材」に対してルールをはっきりさせたことだ。地方農政局などに対して指導のための「取扱手順」を通知し、その内容を公表した。つまり、問題のある資材の一掃に向けて、農水省がとうとう本気になったということだ。

 文書は、07年11月22日に出されており、農水省・農薬コーナーで公表されている。

 まず、「農薬と表示していない場合でも、何らかの形で農作物等への使用が推奨され、かつ、農薬としての効能効果を標榜しているか、若しくは、成分からみて農薬に該当し得るものは、疑義資材として取り扱うこととする」とした。

 さらに、疑義資材の特定として、次のように書かれている。
(1)病害虫の防除効果は明示していないものの「虫がよりつかない」等、当該効果を暗示する表現が、容器、包装、添付文書並びにチラシ、パンフレット、刊行物、インターネット等の広告宣伝物あるいは演述によって表示説明されている場合
(2)容器又は被包の意匠及び携帯が市販されている農薬と同じ印象を与える場合
(3)使用方法として対象病害虫、使用時期、使用回数、希釈倍率等の農薬の用法用量とみなされる表記がなされている場合
(4)その他の情報提供により、農薬の有効成分が含まれる疑いがある場合

 (1)については別添の「表示説明に係る判断基準」で、効能効果を標榜しているとみなす具体例が示されている。例えば、「病害虫が発生しない」「○○病等に期待」「忌避効果」「植物の成長を促進」「植物の生理活動性を促進」等々、ダメだ。さらに、「害虫防除で知られる○○(成分)を原料とし、これに有用成分を添加」「○○○という古い自然科学書をみると、虫を殺し植物が病気に強くなるという」「生産者○○○○の談」等も、農薬としての効能効果の暗示とみなされる。

 こうした文言はこれまで、農業資材宣伝の常套句だった。また、効果を暗示する表現を口で言ってもだめだ、と明記された点も大きい。容器や添付文書などに何も書かれていなくても、セールスマンが「虫に効きますよ」と言い、口コミで広まっていくのが、この手の資材の常だったからだ。

 本山教授は、1996年に「天然・植物抽出液『夢草』から化学合成農薬成分を検出した」として学会誌に発表し、それ以来、この手の資材の問題点を追求してきた。やっと農水省が腰を上げ、業者による農薬取締法逃れの手練手管に対して一定の網をかけたのだ。農水省は、こうした疑義資材の情報収集のため、農薬コーナーに「農薬目安箱」も設置している。

 夢草については、個人的に興味深い思い出がある。02年ごろの話だ。本山教授が「90年代に夢草を販売していた人が別名で活動している」と言う。その名前を聞いて、私は口あんぐりとなった。2000年ごろに食品リサイクルに関する計画を取材し雑誌で活動を紹介した、まさにその人だったのだ。仮にA氏としておこう。

 A氏を取材した時には、写真撮影を断られた。怪しい。だが当時はそれでも、疑わなかった。なぜならば、しかるべき財団が設立した研究所の主任研究員という肩書きだったからだ。話を聞いて雑誌で紹介した。

 だが、その話はよくよく考えてみれば大風呂敷過ぎて実体がない。そこで、もう一度話を聞きに行き「詐欺師かもしれない」と思った。その後は「活動が進展した」などと連絡をもらっても取材には行かなかった。

 本山教授に話を聞かされて「やっぱり私はだまされた。宣伝に荷担してしまった」と頭を抱えたものだ。まだ新聞記者を辞めたばかりで、浅い取材に終始していた頃だ。肩書きにごまかされ、フリーのライターとしての覚悟ができていなかった。A氏がその後、食品リサイクルで活躍している、という話は聞かない。

 昔の恥をさらしたが、結局何を書きたいかというと、この手のことをする人は似たような分野で結局同じようなことをするもんだ、という私の印象である。農業関係者はどうも特に、この手の人たちにつけ込まれやすい。

 もうだまされるのはやめよう。つけこまれないようにしよう。農家や有機農業関係者はアグリクールについて「問題のある資材をつかまされた」と被害者意識を持つのではなく、「製造元や成分、リスクがはっきり説明されない資材は、今後は使わない」と決意すべきなのだ。

 「自然の抽出物で、なんだかよく分からないけれど虫や病原菌に効く」なんてものは、そう簡単には転がっていない。当たり前だ。そんなものがあれば、「なにかよい化合物はないか」とちまなこになって探している農薬企業が、とっくの昔に研究しているはずだ。

 防除したいなら、無責任な資材ではなく、リスクも責任の所在も明確な農薬製品を使う。これが、農家や有機関係者の、消費者に対する責任の取り方ではないか。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。