ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

怪しい資材のせいで、また出荷自粛と回収が…

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2008年1月23日

 鹿児島県産のカラーピーマンから2004年に失効した農薬が検出され、地域の園芸振興会が出荷を自主的に停止したという。地元の南日本新聞が20日付で報じている。検出されたのは、ピペロニルブトキシドという農薬。取材する限り、どうも原因は、害虫を寄せ付けないなどとして売られ、農薬嫌いの農家などに使われている資材の一商品のようだ。この手の資材の問題点を私は、昨年4月4日付「有機・無農薬栽培に使われる“農薬でない植物保護液”とは?」ジ、12月5日付「「怪しい人」が暗躍する業界で、疑義資材一掃に乗り出した農水省」で書いた。また、同じ問題が起きてしまった。

 南日本新聞によれば、1人の農家が栽培し出荷したカラーピーマンから、ピペロニルブトキシドが0.02ppm検出された(基準は2ppm)。この生産者は、ピペロニルブトキシドを使っておらず、いろいろと調べた結果、「土壌活性剤」に含まれている可能性が高いことが分かった。この生産者のほか、複数の生産者が同じ活性剤を買っていたことも判明し、地元の園芸振興会は19日、自主的にピーマン、キュウリの出荷を停止した。出荷済みの商品は回収する。振興会に加入している農家194戸の調査を行い、安全性が確認され次第、出荷再開するという。

 この話は、3つの視点から考えることができる。1つめは、農薬ではないけれど病害虫を寄せ付けないなどと称して売られる「怪しい資材」のリスク。今回の事例では、まだ資材名が正式に確定していないためここでは書けないが、明らかになれば農業関係者にはかなりインパクトの大きい資材である。4月4日付で書いたこと、「防除したいなら、無責任な資材ではなく、リスクも責任の所在も明確な農薬製品を使うべき」と繰り返すのみだ。

 2つめは、農産物の残留農薬検査が適切に行われ、生産の安全管理につながっている、という事実である。ピペロニルブトキシドは、植物成長調整剤として売られ04年に失効した農薬だ。それほど一般的ではなく、従来のような40農薬程度の分析では、今回のような事例を見つけることは不可能だった。多成分分析をできる生協が分析をしてごく微量のピペロニルブトキシドを検出し、県経済連に連絡したのが発覚の発端だ。生産者にピペロニルブトキシドを使った人はおらず、最初は原因が分からず苦労し、いろいろと検討して資材に行き着いた、と私は聞いている。

 この生協は、「検査で確認した後なので、うちの取り扱っている農産物は安全です」と言うような“トリック”で、商品に付加価値を付ける商売はしていない。あくまでも、品質管理の一貫としての残留農薬検査である。そういう生協の検査が、生産団体や県経済連などとの協力で、怪しい資材のあぶり出しにつながったことは、おおいに評価されていい。

 もう1つは、またしても自主的な出荷停止、回収が行われてしまった、という非常に残念な判断だ。残留していたのは0.02ppmで基準の100分の1。大幅に下回っていて、食品衛生法上はまったく問題ない。

 また、農薬取締法では、この資材を製造販売した業者は罪を問われるが、生産者が知らずに使っていたとなれば、法律違反とはならない。出荷したものをわざわざ回収する必要はまったくない。

 園芸振興会としての出荷自粛の判断については、ちょっと解釈が難しい。おそらく、ピーマンはいわゆる共撰なのだと思う。選果場に集められ、だれが生産したのか分からない形で出荷される。だから園芸振興会は、原因の特定と残留の程度を把握する間は全員の出荷停止を、という気持ちなのだと思う。産地の信頼を守るための必死の方策だ。

 だが、数人の農家以外はこの土壌活性剤を購入していない、使っていないということが真実であるなら、残りの約190戸の農家のピーマンには問題がない。ハウス栽培なのでドリフトもない。活性剤を購入した農家の農産物の出荷を停止するのは当たり前だが、ほかの農家については、出荷を停めても科学的には意味がない。どれほどの損害が生じるのだろうか。

 園芸振興会として、怪しい資材を使っていないか、農薬を適正に使用しているか、全員に再度確認する必要があると思う。が、やっぱり、もったいない事態は避けてほしかった。

 起きたことは情報公開し、食品の取り扱いは科学的に行い、消費者もそれを静かに受け止める、というのはまだ無理なのか? もうそろそろ、移行したい。冷静な判断は、消費者だけでなく産地にも求められているのだと、改めて思う。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。