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松永和紀のアグリ話

ギョーザ事件は、食品テロではないか

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2008年2月6日

 中国産ギョーザ事件は5日に、メタミドホスとは異なる農薬が2007年6月製造の商品から高濃度で検出されて、より一層「犯罪」の可能性が高くなった。ちまたでは「輸入食品のわずか1割しか検査していない。検疫の強化を」などといわれているが、私は違うと思う。これは恐らく、「食品テロに、国や企業、生協は、どう立ち向かうか」という問題である。報道はいつもの通り、暴走しているものが多い。引きずられ迎合し、無意味な対策を講じる食品企業や生協も出てきているのが見え、心配だ。

 問題が発覚した30日夜、某新聞社のデスクから電話がかかってきたので、私は言った。「これは、原材料の残留農薬が原因となるレベルの汚染ではない。過失か故意の投入と考えた方がいい」。食品産業にかかわり、農薬についてある程度の知識があり、ADIやLD50などの数値について検討する人なら、誰でも同じことを言ったはずだ。

 ところが、多くのマスメディアはそうではなく、中国で農薬を散布する光景を繰り返し流し、一部の評論家が、中国の農業現場でいかに農薬が乱用されているかを話した。化学物質の毒性影響を検討するときに「量」を考えることの重要性を知らないのだ。

 メディアは、なにか事件があると、自分たちは高みに立って関係者をつるし上げ、「安全の生協ブランドが揺らいでいる」などと扇情的に報じる。だが、「JTや日本生協連のような最高レベルの生産管理を行う企業・組織でも防げなかった深刻な事態」ととらえるのが、科学的な姿勢ではないか。

 残念ながら、センセーショナルで感情的な報道は、対策を間違った方向に誘導してしまう。例えば、「輸入食品186万件のうち、わずか1割しかチェックしておらず、残りは素通り。加工食品に至っては、全く検査されていない。輸入検疫の強化を」という報道が、いまだにまかり通っている。これはおかしい。

 もし、日本で青酸カリが食品に混入する事件が発生し、日本で生産される食品のすべてに青酸カリが含まれている可能性があるように海外のメディアに書かれてしまったら、日本人は怒るだろう。「なぜ、すべての食品に青酸カリが含まれていないか、検査しない?」と言われたら、「そんなバカな」と笑い出すだろう。ところが、同じ論法をメディアは中国に適用してしまっているのだ。

 たとえ、検査を100%にしたところで、今回のような事案を水際でストップさせるのはまず無理だ。言うまでもなく、検査100%といってもサンプリングすることには変わりなく、1ロット1万袋中に10袋程度というような、犯罪や特殊な事故に起因する偏在した汚染は、まず見つけられない。検疫所職員の増員や、検査数の増加、加工食品の残留農薬検査などは、今回のような犯罪やイレギュラーな事故防止には役に立たない。

 食品企業や一部生協の「安全宣言」も問題だ。企業には今、「扱っている商品は安全だという証明書を出してくれ」という要望が流通から殺到している。天洋食品とは無関係な中国の企業・工場で作られている食品に対してだ。

 実際に、私が行くスーパーの冷凍食品売り場には「店頭に並んでいる冷凍食品はすべて、安全性が確認されたものですので、安心してお召し上がりください」という紙が既に張ってある。食べたり分析したりしない限り、個々の商品の安全性など確認できるわけもないのに、どうしてこのような無責任で非科学的な安全宣言をしてしまうのか?

 リスク管理についてまともに考えている企業なら、安全宣言など出せるはずがない。1つずつすべての毒性物質(農薬だけではない)について検査しない限り、安全性など確認できないからだ。だが、そんなことをしたら食べるものがなくなる。

 分からないのに「安全だ」と宣言するのは、企業倫理に反するだろう。だが、それをメディアが、世間が強いている。

 結局、日本人はぬるま湯に浸かって「安全な食品を供給されるのが当然の権利」と思い込んでいるから、自らは何の努力もすることなく誰かを非難し、誰かに「安全です」と言われるだけで安心している。中国産は危険といい「だから安全な国産を」と言うが、国産にだって、犯罪や過失の汚染の可能性はあるのだ。誰も「これは100%安全」などと言うことはできない。

 生協やJTが、以前からあった苦情に適切に対応できなかったのは、犯罪などを全く想定していなかったからだ。ある意味、平和ぼけ。だが、それは、生協やJTを責め立てるメディアも、消費者も私自身も同じである。食品の安全管理における犯罪対策など、考えてもみなかった。

 ある生協職員が、「国内の生産者に対してもこれから、農薬の保管をしっかりと再確認するように伝えたい」と話していた。これだけギョーザ問題が騒がれると、国内で便乗犯や模倣犯が出てくるおそれもある。農家の納屋から農薬が盗まれて、国内の製造工場で食品に混入される可能性もゼロとは言えないから、注意喚起するという。こういう取り組みの積み重ねが、問題を事前に防止する現実的な対策だ。

 食品テロ対策について、ウェブサイトで調べてみた。WHOは、02年に「Terrorist Threats to Food」というガイダンスを出している。FDAも、Food Defense and Terrorismというページを設置。昨年10月には、食品製造・加工業者や販売店などそれぞれに向けて、パンフレットを発行している。食品企業向けを見ると、生産方法や施設の管理などの注意点が説明されているし、組織として常日ごろから発生に備えて準備をしておくことの重要性や、雇用において気をつけるべき点も記されている。

 消費者向けに出された注意喚起には、「どんな食品も包装・容器を注意深く調べて、おかしなものは買うな、食べるな」と書いてある。

 ここまでFDAが指導しても、米国ではさまざまな事故や事件が起きている。日本の企業や生協、消費者は、こんなに厳しいスタンスでは食品安全管理を検討してこなかった。そのつけが、今回ってきたとは言えないか? 日本の消費者が、FDAの指摘するポイント「包装・容器に要注意」を知っていたら、今回の事件の一部は防げた。その事実も見つめるべきではないか。

 「中国産は危険」とか「厚労省はザルだ」などと偉そうに言っているメディアに引きずられてはならない。テロ対策は、中国政府との協力関係の構築から、生産・流通における監視カメラの設置まで多岐にわたるはず。視野を広げて、抜本的な食品テロ対策に乗り出す時だ。(サイエンスライター 松永和紀)

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