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松永和紀のアグリ話

無意味な検査で安心して、どうするの?

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2008年2月13日

 検査、検査、至るところで検査をしている。私から見れば、「食の安全」とはまったく無関係で、無意味な検査が多い。儲かるのは、検査機関と試薬メーカーばかりだろう。なのに、なんとなくそれで食の安全が守られているような気分に世間はなっている。私は怖い。中国製食品が、ではない。パニックに陥り思考停止状態で、だれかを非難して安心しているこの社会が恐ろしくて不安で仕方がない。

 もちろん、天洋食品製の検査は必要だ。いつ製造されたどんな食品に問題があるのかきちんと調べることは、今回の問題の原因究明につながる。製造されたほかの食品も汚染されているのに気が付いていない、という可能性もある。中国権益総局は2008年2月13日、故意の混入の可能性を否定した。ならばなおさら、1つひとつの食品を綿密に調べることが必要だろう。

 だが、ほかの中国産の検査になにか意味があるのか?

 前回も書いたことだが、もし、日本で作られた食品に青酸カリが混ぜられていたことがわかった時に、「日本産の食品には青酸カリが入っているかもしれないから、全部調べろ」と外国から言われたら、どうするか? 青酸カリ入り食品は、「青酸コーラ事件」「グリコ・森永事件」で実際に日本に登場したものである。あるいは、和歌山ヒ素カレー事件を契機に、日本の食品にヒ素が含まれていないか検査すると言われたら、どうするか? 「一部の犯罪者の行動を、すべての日本人にあてはめて考えるな」と怒るのか、「無駄はおよしなさい」と言うのか。

 しかも、前回も書いたことだが、検査はサンプリングして調べるしかなく、検査=安全、ではない。なのに、流通が食品企業に「検査をして証明書を出せ」と命じる。生協が率先して、検査を実施している。

 仲間内で「そのうちに、国産までみんな検査しろ、ということになるんじゃないの」と笑っていたら、実際にその動きが出てきた。国産加工品のメタミドホス残留量を測定する愚。これは笑うしかない。

 笑い事でないのは、厚労省の輸入検疫体制強化の動きだ。役人は、食品衛生監視員を増やし加工食品を検査したところで、犯罪や過失による高濃度で局所的な汚染を見つけることは難しく、輸入食品全体のリスク管理にもほとんど貢献しないことなど、はなから分かっている。でも、なにも言わずに、政治家などのスタンドプレーに付き合うのだ。

 これまで、検査を担当してきた職員は激務にあえいできた。ギョーザ事件を奇貨として、検疫所を増員しようと役人たちはもくろんでいるのではないか。

 私も、検疫所で苦労しているあの人、この人の顔を思い浮かべては、食品衛生監視員をもう少し増やしてもよいのでは、と思う。しかし、どさくさに紛れて、では困るのだ。増員したり検査数を増やすコストは、どこから捻出されるのか。検討され、明らかにされる必要がある。

 昨今話題の消費者庁も似たようなもの。結局は、公務員削減で余るであろう職員を、新しい組織に持って行こうとしているだけではないか。

 欧州食品安全庁(EFSA)が02年にできた時に公表された文書や質疑応答などを、ある保健所職員の方が改めて送って下さった。「我が国の食品安全委員会は、欧州食品安全庁を参考に(まねて)作ったのですが、権限がはっきりしない。消費庁も同様になるのではないか。国の役人のポスト作りでは?」と言う。

 EFSAの設立準備文書に書かれている理念は立派だ。そして、設立して6年目、食品に発生しているさまざまな危害や不安に対して、実際に理念に沿って行動していることがはっきりと分かる。科学者の責任が、見事に果たされている。

 それに引き替え、食品安全委員会は……。そして、「作る、作る」と言われるばかりで、内容がさっぱり見えてこない消費者庁はどうなるのか。

 警戒感が必要だと思う。省庁は、さまざまな出来事に乗じて増員や権益拡大を狙うのではないか。その動きを、慎重に見て行きたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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