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松永和紀のアグリ話

ワイドショー「とくダネ!」に真摯な努力を見た

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2008年2月20日

 2008年2月12日の朝、夫や子どもを送り出した後に見たフジテレビ系のワイドショー「とくダネ!」に、ちょっと驚いた。中国産の特集だったのだが、これが良いのだ。なぜ、日本がこれほど中国産に依存してしまうのかが、冷静にリポートされていた。中国製冷凍ギョーザ事件を契機に、「中国産は危ない」と扇情的に報じるテレビ番組や週刊誌などが目立っている。だが、よく見ると、「視聴者や読者に受ける情報だけを届ける報道でよいのか?」という疑問を抱えて、少しずつ変えていこうとする報道関係者の真摯(しんし)な努力も見えてくる。

 録画していたわけではないので、記憶を頼りに番組内容を紹介しよう。中国産が外食産業などに深く浸透している現実を紹介し、その理由として、「コスト」「栽培環境」「供給体制」の3点を挙げていた。特に、栽培環境と供給体制については、詳しく説明していたように思う。日本と気候風土が似ているため、日本が欲しい農産物を広い国土で効率良く栽培できること、同じ品質の農産物を大量に供給できることなどが説明された。

 日本企業が栽培指導や残留農薬のチェックなど、かなり踏み込んだ品質管理を現地で行っていることなども紹介された。「中国産が使われるには、なるほどという理由がある」という現実が、きちんと伝えられていた。

 キャスターが「中国製ギョーザ事件を機にいろいろ調べてみると、どれほど日本向けの中国製食品の生産品質管理がしっかりしているかが、逆に分かってくるねえ」という趣旨の発言をしていたので、私はテレビに向かって「その通り!」と思わず叫んだものだ。

 私は朝は、時間があればなるべくワイドショーを見るようにしている。社会が何に関心があるのか、アンテナを張るには絶好だ。

 TBS系の「みのもんたの朝ズバ!」は見ない。白か黒かでばっさばっさと切ってゆくこの番組は、私の許容範囲を超えている。とくダネ!も、日によっては「こんなにあおってどうするの」と思うこともある。ギョーザ事件を初めて報じた08年1月31日の番組作りは、いただけなかった。

 けれど、総じて事象を多角的に見ていこうとする姿勢が強い。ギョーザ事件が発覚して2日目の08年2月1日には、食品表示に関する評論で有名な垣田達哉氏が登場して、野菜の残留農薬と今回の事件が結び付かないことを指摘し、堂々と「中国製品をすべて撤去するなんて、もったいない」と発言していた。

 実は、とくダネ!には以前から注目していた。確か、01年か02年だったと思うが、遺伝子組み換えの特集があった。テレビや週刊誌で「遺伝子組み換えは、いかに危険か」という情報ばかりが流されていた時代だ。だが、番組では遺伝子組み換えのメリットも紹介され、「落ち着いて考えていきましょう」とまとめられていた。

 「世の中、それほど単純じゃない。いろいろと事情があって理由があるから、現在の状況になっている。良いの悪いのと簡単には決めつけられない…」ということを、市民の誰もが感じているはずだ。マスメディアに、これは白、あちらは黒、と言われると、なんだかすっきりするが、後には何も残らない。現実にそぐわない単純二元論は、現実の問題の解決にはつながらないのだ。

 とくダネ!のスタッフは、単純二元論をよしとせず、複雑な現象をきちんと伝え、視聴者が自分自身で考える手掛かりとなる情報を提供しようと、裏側ですさまじい努力をしているのではないか、と思えてならない。

 このところ、テレビ局・ラジオ局の人たちと接する機会が増えた。個々に話すと、多くの人が現在の食の安全に関する報道に、大きな問題意識を抱えていることが分かる。

 思いは、私と同じなのだ。だが、私は一介のフリーライターなので自分で好き勝手に書いたり話したりすることができる。不評であれば、仕事が減るだけのことだ。

 一方、大きな組織にいて視聴率や聴取率を上げることが至上命題とされる中で、中国や農薬や食品添加物など、何かを悪者にして切り捨てる「食の安全報道」のパターンを切り崩すことは非常に難しいようだ。

 食品の品質・安全管理は複雑で、説明は面白くなく時間も要する。そのことと、視聴者や聴取者を楽しませ飽きさせない番組作りの両立は、容易ではない。

 そのはざまで、多くの関係者が苦しんでいる。だが、両立できたときの情報伝達効果は計り知れない。社会を変える力にもつながる。頑張ってほしいと思う。

 そして、情報の受け手も、番組を選別する力をつける必要がある。単純に切り捨てて何も残らない番組ではなく、私たちに問題提起してくれる番組を見よう。

 私は本欄でメディア批判をたびたびしているし、報道の問題を指摘する本も出しているので、メディア批判の急先鋒と目されてしまうけれども、高みの見物をする気などない。私も、多くのテレビ・ラジオ関係者などと同じように、科学的に妥当で、なおかつ楽しんでもらえるものを提供しようと努力する1人である。彼らと同様に苦しみのたうち回りながら、書いていこうと思っている。(サイエンスライター 松永和紀)

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