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松永和紀のアグリ話

加工食品原料の原産地表示は、消費者の利益に結びつかない?

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2008年3月19日

 東京都が、冷凍食品の主要原材料の原産地表示を条例で義務づけることを検討する。石原慎太郎都知事が2008年3月14日の会見で明らかにした。中国製冷凍ギョーザの中毒事件を受け、消費者の不安に応え選択に役立つ情報を提供するという。一見、消費者の利益になるように思える。消費者団体も、加工食品の原料原産地名表示を求めて、JAS法を所管する農水省に積極的に働きかけている。だが、私はおおいに疑問がある。加工食品原料の原産地表示は、必ずしも消費者の利益に結びつかないのではないか。

 現状では加工食品の原産地表示は、干しシイタケなど加工度の少ない20品目に限られている。たしかに、その他の加工品の原料原産地を知りたいと考える消費者は多いだろう。中国産はリスクが高いと考え避けようとする気持ちもよく分かる。

 だが、原料原産地名の表示を義務化したら、数々のデメリットが生じる。そのことを、消費者もきちんと見つめるべきではないか。私は、個人的に信頼する企業関係者や生協職員などに尋ねてみた。義務化に賛成する人は今のところいない。取材から浮かび上がってきたデメリットは次の通りだ。

(1)食品の生産コストが上昇する
 加工食品を安定した価格で製造するために、企業は複数の原産地を確保しその時々の価格に応じて使い分け、あるいは組み合わせて使っている。
 原料原産地名の表示が義務化され、原産地を固定化せざるを得なくなると、価格の上昇や低下に即座に対応できなくなり、結果的に生産コストは上昇するだろう。

(2)食品の品質が不安定になる
 原料は納入ロットによって品質が異なる場合が多い。農産物の場合、気候や病害虫の発生状況などによってぶれがでて当たり前だ。加工食品の品質を安定させるために、ロットごとに配合割合を変える場合もある。ところが、表示が義務化されていると、包装やシールに印刷されている原産地にしばられることになる。臨機応変の調節がしにくくなる。

(3)包装コストが上がる
 価格や品質の変動に合わせて原産地を変え、そのたびに包装やシール等、作り替えていたら、これも確実にコスト上昇につながる

(4)他国から、非関税障壁とみなされる可能性がある
 加工食品原料の原産地表示までしている国はなく、もし日本が義務化すれば、一般の輸入食品はとても対応できない。結果的に、輸入食品が減るだろう。非関税障壁として大きな批判を受ける可能性がある。

(5)感情的なチャイナフリーを助長する
 今、原産地表示を義務化すれば、言うまでもなく中国産排除に直結するだろう。消費者やマスメディアは、犯罪や特殊な事故に起因する汚染と残留農薬汚染を区別することもできず、一緒くたにして騒いでいるのが実情だからだ。だが、食料自給率が39%しかない日本にとっては、中国も大切な貿易相手国だと私は思う。毅然とした改善策を求めつつも友好な関係を取り結ぶことが重要だ。感情的な中国たたきや排除は政治的にも経済的にもよくない。そして、世界に日本が子どもっぽい国であることを露呈してしまう。

 新聞によれば、食品メーカーは「膨大な量の表示をしなければならず、包装が表示だらけになる」などと言っているらしいが、そんなことは枝葉末節の話だろう。

 消費者団体は、農水省のヒヤリングに対して「コストアップ分を、消費者も負担する」と言ったらしい。果たしてそうだろうか。安い加工食品を求めざるを得ない消費者も増えてきているのではないか。原料原産地表示の義務化でしか、消費者の選択権が保証されないならまだしも、選択肢はいくらでもあるのだ。企業や生協などが自主的な判断で原産地に関する情報を提供し、こだわる人はしかるべきコストを個人で負担して、きちんと原産地が明らかになっている食品を買えば十分ではないか。

 消費者団体の幹部はもしかして、安売りスーパーに行かざるを得ない消費者、とことん疲弊している地方の消費者の現状をご存知ないのだろうか。

 中毒患者を出したギョーザの汚染は、千葉県警の調べでは皮が3580ppm、具が3160ppmだったという。これだけの高濃度、かつ局所的な汚染は、やっぱり犯罪の可能性がもっとも高い。私は、稀な犯罪や特殊な事故を基に、「中国産はリスクが高いから避けるべき」と判断をするのは、合理的とは言い難いと思う。

 でも、そういう考えの人もいていい。だからこそ、企業はわざわざ「中国産は使っていません」と店頭で表示したり、「国産原料使用」などと宣伝したりしている。中国を避けたい人が代わりに買えばよい食品は、店頭や生協にいくらでもあるのだ。

 東京都が原産地表示を条例で義務化した時の影響は非常に大きい。都内の消費量は莫大であり、どの食品メーカーも対応せざるを得ないからだ。知事は「まず、冷凍食品から」と言っており、加工食品全般への適用に向け先鞭を付けることになる。

 都は、店頭での掲示やウェブサイトでの情報提供などさまざまな方策を検討し、消費生活対策審議会で審議するという。都内に住むリッチな消費者の感覚での議論になりはしないか、非常に心配だ。

 まず、表示の義務化で発生するメリットとデメリットを、さまざまな関係者から情報収集し整理して明確にし、普通の消費者に知らせてほしい。そこから始めても決して遅くはない。ましてや、中国嫌いの知事の個人的な感情に振り回されるべきではないはずだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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