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松永和紀のアグリ話

ギョーザ事件点描〜そして、私は途方に暮れる

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2008年4月2日

 「食に関するあらゆる問題で、ギョーザを枕詞にするのは止めてくれ!」。食品事業に関わる知人がそう叫んでいるのを聞いて、吹き出してしまった。なるほど、加工食品の原料原産地表示も消費者行政の一元化も食文化の見直しも自給率向上も、すべてギョーザと結びつけて報道され、語られている。かくいう私も、語ってしまったのでした……。でも、よく考えるとギョーザ問題とはかかわりがないから、議論はさっぱり深まらず、関係者の疲弊はますます大きくなっている。現状を点描してみる。

 千葉県警が、被害者宅に残っていた未調理のギョーザから1万9290ppmのメタミドホスを検出したことが2008年3月31日、明らかになった。ということは、ギョーザの重量の2%はメタミドホスだったということ。これはすごい。農薬の原液をギョーザに直接かけないと起こりえない汚染だろう。やっぱり、原因は犯罪以外には考えにくい、と私は思う。いろいろとご批判も受けたが、食品テロという言葉以外のものを私は思いつかない。

 だが、中国がイヤだといって冷凍食品の製造をほかの国に切り替えても、やっぱり犯罪は発生するだろう。国内でも、カレーにヒ素を投げ込んだ人がいたし、店頭で食品に針を忍ばせるような犯罪もひんぱんに起きているのだ。

 東京都は、食品の原料原産地表示について検討していたが、08年3月27日に公表された試案を見る限り、何を目的としているのか、私にはよく分からない。そもそも、原料原産地表示をしても、今回のギョーザ事件と同種の事件を未然に防ぐ効果があるわけではない。

 都は、対象を、一般消費者向けの国産冷凍食品に限り、使用している原材料の割合が上位3位までで、なおかつ割合が5%以上の原材料と、商品名に冠した原材料について、原産地表示を求めるという。

 でも、冷凍食品に限るところにどんな意味があるのか。公表資料では、「調理冷凍食品に対する不信感の高まり」が制度検討の理由として挙げられている。だが、中国製冷凍ギョーザ事件で不安に怯えた人たちは、冷凍だから不信を抱いたわけではない。冷凍食品だけを義務化するのは正当な理由がなく、食品業者に対する公平性に欠ける、と私は思う。

 加工食品の原料原産地に関する情報をウェブサイトなどで率先して公開している生協も、職員が悲鳴を上げ始めたようだ。加工食品の原料調達は、非常にフレキシブルなものだ。現実に柔軟に対応することで仕入れコストを抑えてきた。その一方で、諸外国の食品に比べれば、品質がとてもよい加工食品を作り上げてきた。

 食品が全般に高騰している中でも妥当な価格を維持するには、やっぱりこれからも、ある程度はフレキシブルに対応せざるをえない。だが、公開している情報の刷新が追いつかない。食品は工業製品ではない。そこに、情報公開の難しさがある。

 「間違った情報を提供することになるのでは」という不安や、「ウェブサイトで原料原産地を確認する人などほとんどいないのに」という不満が、生協職員を苛んでいる。

 自給率向上の議論も、不発に終わったようだ。地産地消を気取って近くの直売所で肉や卵を買ったところで自給率向上につながらないことは、本欄読者なら先刻ご承知。飼料のほとんどは輸入物だからだ。

 ギョーザを手作りしたところで、酷な言い方をするようだが、自己満足。以前、なにかの会合で「忙しい主婦が料理をわざわざ手作りするのは、家族に対して『私は、愛情をこんなにあなたがたにかけているのよ』とアピールするためだ」と女性が発言していて、私は「なるほど」と膝を打った。

 料理にはたしかに、そういう側面がある。自分で作った方が口に合うものができるという理由もあるが、実際には主婦は、なかなかに計算高い。手作りギョーザで家庭の味復権を、なんて“おとぎ話”にうつつを抜かしている場合ではない。

 さて、最後に消費者行政の一元化は……。食品表示一つとっても、消費者の選択に資すためのJAS法と、衛生上の危害発生防止を目指す食品衛生法を一つにするのは難しい。「JAS法が農水省、食品衛生法が厚労省で、省の権益争いに…」などとメディアは面白おかしく報じるが、目的のまったく違う法律を一本化してよいものなのか、できるのか。

 思いつくまま、最近の動きを取り上げてみた。漫然とした羅列になったことをお許しいただきたい。ただ、考えれば考えるほど、どう主張したらよいのか、行動したらよいのか、私は分からなくなってくる。そして、肝心のギョーザ事件の原因解明はまったく進まない。

 ほかのジャーナリストのように「こうするべきだ」と威勢の良いことを書きたいが、書けない。中国で製造している企業は、大量の監視カメラを備え付けるなどしているが、原因が分からなければ決め手となる再発防止策が見つかるはずもなく、苦慮している。私はその姿を見聞きしながら、途方に暮れている。(サイエンスライター 松永和紀)

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