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松永和紀のアグリ話

味付海苔の防カビ剤残留問題から学ぶべきこと

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2008年5月21日

 「味付海苔から防カビ剤のチアベンダゾール(TBZ)を検出!」。今年3月、いくつかの生協がこんな理由で商品の自主回収を行った。ほかの生協も、扱っている味付海苔を分析し、多くの商品からTBZを検出した。市販品も同様だと推測される。だが、多くの生協やスーパーなどは自主回収しなかった。では、判断の分かれ目はなんだったのか? 専門紙一紙を除きマスメディアが報じていないこの問題を考えてみたい。時代に合わなくなっている食品衛生法の曖昧さを浮き彫りにする極めて興味深い事例だと私は思う。

「生協連合会きらり」の公表資料によれば、顛末は次のとおり。
 味付海苔に対して組合員から「苦い」という苦情があり検査をしたところ、TBZが2.0ppm検出された。そのため、保健所と相談のうえで自主回収し、3月10日付けで組合員に報告した。さらに、別の味付海苔からも2.0ppm検出されたため、これも自主回収した。
 海苔の原藻と調味液を検査したがTBZは検出されず、焼き海苔に調味液を塗るために使うローラー状のスポンジを検査したところTBZが検出された。そして、ロールを抗菌するためTBZで処理されていることがわかった。そのため、同生協はTBZがロールから味付海苔に移ったと判断したという。
 同生協は、「今回の事態で組合員の皆さんにすぐ健康上のご心配をお掛けすることはないと思われます」とし、「今後、安心できる「味付海苔」の製造・供給ができるよう対策していきます」と報告している。(ちなみに、苦味とTBZは関係がない。海苔の中には時々、苦味の強いものがあるようだ)

 TBZのADIは、0.1mg/kg(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議による)。体重50kgの人であれば、毎日5mg食べても健康影響はないということ。2.0ppmの味付海苔であれば2500g食べないと達しない。従って、この味付海苔を食べて健康影響があるとは考えられない。
 同生協の報告を受けて、各地の生協や日本生活協同組合連合会(日本生協連)などがそれぞれ、取り扱い商品を検査しTBZを検出した。
 私が入手した資料では、味付海苔における残留濃度は最大でも2.9ppm。どの商品も健康影響はない。ロール中のTBZは最大で3400ppm。このロールに調味液がつけられ海苔に塗られたのだから、TBZが海苔に移っても不思議ではない。TBZで処理したロールは、海苔業界で広く使われていた。海苔業者は、TBZによる抗菌処理を知らなかったという。
 各地の保健所はこのケースについて、食品衛生法違反ではないと判断している。TBZが意図的に使われたものではないことから、添加物の適用外使用を禁ずる第10条違反には当たらず、有害物質の付着ではあるが人の健康を損なうおそれはなく第6条違反にも該当しない、ということだ。

 だから自主回収しないというのが、日本生協連や多くの生協の判断である。一方、生協連合会きらりや生活クラブ生協、パルシステム生協などは「自主基準違反」などを理由に自主回収し、組合員に報告しウェブサイトでも公表した。日本生協連と各生協はそれぞれ、海苔メーカーに抗菌処理をしていないロールへの取り替えを求めている。

 私は、自主回収しなかった日本生協連や多くの生協の判断は、これはこれでよいと思う。自主基準に照らし合わせて回収する生協も、あっていい。その自主基準は、科学的ではないように思えるけれども、組合員でない私がつべこべ言うことではないだろう。だが、食品全般における製造・流通・販売のプロセス管理において今回のケースが示唆する課題は大きいのに、どの組織もロールの問題に収束させてしまったように見えるところが、残念でしかたがない。

 まず、リスクのトレードオフが懸念される。今はスポンジロールに注目が集まり「無添加ロールで味付海苔製造を」という方針になっているが、その結果、ロールで雑菌が繁殖しやすくなり味付海苔に雑菌が付くおそれもある。トータルのリスクはどう管理されて行くのだろうか?
 さらに、ほかの食品製造においても、さまざまな機械・部品・道具が使われている。多くの食品に調味液が塗られているではないか。それらに使う機械は? 道具は? 抗菌処理されたものも多いだろう。今後どうチェックしていくのか?

 これらの問題は、生協固有のものではなくすべての食品に関わる話であり、どの食品メーカーや流通関連企業も把握すべきだと思う。日本生協連は、各生協から情報を吸い上げまとめ自らでも検査して事態を分析し、情報を広く公開できるはずだ。だが、組合員や食品企業、一般消費者に伝えていない。冷凍ギョーザ問題を機に、日本生協連は品質保証の新たな仕組み作りに着手しているという。積極的な情報公開を望みたいが、まだ無理なのか。

 もう一つ、どうも引っ掛かる。今回のケースでは、意図しない混入であり健康リスクもないとして、食品衛生法には違反しないという判断となり回収は見送られた。そうなると、どうしても思い出す。
 例えば、一昨年明らかになったシジミの除草剤残留。本欄でも、私や斎藤くんの残留農薬分析が取り上げている。上流域で使われた除草剤が下流域に達しシジミに蓄積してしまったのだ。これも、農業者、漁業者共に意図しなかった残留であり、ポジティブリスト制が定める一律基準は超えてしまったものの、健康リスクはない。だが、ポジティブリスト制を規定する食品衛生法第11条違反として、漁業者は操業中止に追い込まれた。

 味付海苔といったい何が違うのだろう?
 ポジティブリスト制において加工食品は、原材料をたどって基準超えのものがないか検討する作業が必要だ。味付海苔においては、海苔は問題なし、調味液も問題なし。ならば、TBZが残留していても、だれの責任も問えない。一方、シジミは……。これでは、漁業者が可哀想すぎる。

 魚介類については、残留基準設定が急ピッチで進められたおり、同様の問題が起きる可能性は小さくなっている。だが、農産物においては、ドリフトによる食品衛生法違反が依然として心配されている。近くの田畑で散布された農薬が風に乗るなどしてかかってしまい、農産物が残留基準を超える場合がある。その農産物の生産者には過失がなく、基準超えであっても健康リスクがない。これは、味付海苔と何がちがうのか?

 さまざまなことを統合して考えていかなければならないのだろう。食品の種類や業種によって不公平な事態が起きることは許されないはずだ。食品の生産や加工技術が進む中で、食品衛生法は時代に合わなくなっている。齟齬を生じている。
 私は、味付海苔問題にまつわるこのような本質的な課題について、何人かの生協職員から情報を提供され教示を受けた。「健康リスクのないものを回収したり捨てる愚を見直しつつ、問題を解決して食品の安全性を高めて行きたい」という思いは、私も彼らも共通である。今回の味付海苔問題から学べることは多い。(サイエンスライター 松永和紀)

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