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松永和紀のアグリ話

保存料メーカーの情報提供に、企業の「心」を見た

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2008年7月23日

 保存料などの研究開発や販売も行っている総合化学薬品メーカー「上野製薬」のウェブサイトを、ぜひ見て欲しい。保存料の解説ページが設けられている。「保存料はこんなに安全なのだから安心して食べて」というレベルに止まっていない。食品のリスクや保存性に関わるさまざまな要因を消費者に総合的に理解してもらい、企業として食品の保存性向上に寄与してゆきたい、という理念が感じられる。企業の手によるこんな情報提供を待っていた。

 私は常々、添加物メーカーや食品企業の方々に「添加物に対する消費者の誤解の根源には、業界の添加物に関する情報提供の不足がある。もっとしっかりと情報提供した方がいい」と言ってきた。努力している企業は多い。日本食品化学研究振興財団の情報提供は素晴らしい。だが、専門家向け。一般人を対象とした情報提供が不足しているのだ。消費者向けに日本食品添加物協会がさまざまな資料やウェブサイトを作っていて、これはこれでよいのだが、大人がもっとしっかりと知りたいと思った時に、手軽に参考にできる集約された資料が少ない。

 だから、何十年も前に主張され現在は否定されているような「サッカリンに発がん性」とか「うまみ調味料で中華料理店症候群」などの説が、たびたび蒸し返される事態が起きる。

 保存料も、安全性評価が十分になされたうえで使われているのだが、危険だという誤解が世間には多い。本欄の多幸之介が斬る食の問題●ヤマザキパンはなぜカビないかも、興味深く拝読した。本当は、保存料バッシングに、私も読者の一人として怒らなければならないのだが、長村洋一先生の軽妙な書きぶりに笑ってしまう。「あなたの台所がパン工場より汚い」に爆笑。「この著者は私などより、はるかにメディアや一般市民からは正義の人と位置づけられている」に、またまた大爆笑。

 “この著者”は、「買ってはいけない」で名を馳せ、最近もこのFood Scienceを運営している日経BPの別のウェブサイトで、科学ジャーナリストとして堂々の論陣を張っている。うーん、同じ科学ライティング畑で働く私としては、ちょっと複雑な心境だ。まあ、この著者と長村先生のどちらが“本物の正義の人”かは、本欄読者には説明するまでもないだろう。

 おっと話がそれてしまった。本題に戻ろう。上野製薬のウェブサイトでは、保存料の安全性や有用性などさまざまな情報が、分かりやすく提供されている。代表的な保存料であるしらこたん白やソルビン酸については、イラストなども用いた平易な解説のほか、詳細資料も提供されている。

 詳細資料では、使用量限度などが明記され、参考にした学術論文も明らかにされており、リスク評価と管理の科学的根拠をたどっていけるようになっている。「食品添加物は、国の認可を受けているから安全です」という論法ではなく、科学的にリスクを理解してもらおうという姿勢が見える。

 さらに私が評価したいのは、「ウエノの目指す食の安全」というコーナーである。「腐敗と食中毒の違い」「消費期限および賞味期限について」など、食品の保存性を巡るさまざまな状況を、多角的に分析している。

 「食品の保存性に影響する要因」「塩分や糖分が食品保存に果たす役割」では、保存料のほか水分量、PH、加熱などが食品保存とどのような関係にあるのかを解説しており、食品メーカーが総合的に保存性向上を目指していることが分かる。

 だから、コンビニのおにぎりや弁当は、衛生管理が厳しい工場で作られ、保存料無添加でもPH調整剤やグリシンなどほかの添加物が使われ、冷蔵流通販売されているのだ。「保存料無添加だからよい」ではなく「保存料が入っているからいい」でもない。食品の保存性をどのような手法や化学物質を使っていかに高めていくか、細部を見つめ総合的に評価する「目」を、作り手側も消費する側も持つべきなのだ。

 同社のウェブサイトからは、「多くの人に“目”を持ってもらいたい」という社員の願いが感じられる。保存料の製造販売だけに止まらず、設備の衛生化や包装技術開発も手がける同社の企業姿勢がくっきりと浮かび上がる。そこがいい。啓蒙ではなく、企業のビジネスをしっかりと社会の利益に結びつけようとしている姿が見えるところがいいのだ。

 聞けば、同社のさまざまな部署の社員が知恵を出し議論し合い、約1年かけてコンテンツを作成したという。本欄読者におなじみの研究者たちにも見せアドバイスしてもらい、ウェブサイトはできあがった。さらに、紙のパンフレットも作成し、5月から配布している。イラストを多用した入門編であり、もっと詳しく知りたい人に対してはウェブサイトを案内している。

 食品企業や添加物企業のこんな情報提供が増えたらいい、と願う。消費者は、リスクの考え方に最初はとまどう。だが、企業が、自社の利益と社会の利益を重ねて行こうとするまじめさは、肌で感じ取れる。それが企業に対する信頼に結びつき、「難しいリスクの話も、少しずつ勉強しなければ」と思い始めてくれるのではないか。

 この説得力は、ライターのような第三者には真似できない。ライターは、うまく分かりやすく書けるだろう。でも、他者には伝えられない「心」が当事者、すなわち社員の産み出す言葉の中にはある。

 食のリスク管理は複雑だ。広告代理店などが絡んだきれいごとの広報・広告戦略では表現しきれない。だからこそ、企業の心をしっかりと、さまざまなやり方で伝えてほしい。それが結局は、消費者を変えて行く力になるのではないか。(サイエンスライター 松永和紀)

上野製薬のパンフレットの取り寄せは、食品事業統括本部の荒井さん(s_arai@ueno-fc.co.jp)へ連絡を。

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