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EUをWTO訴訟、遂に踏み切った米国

宗谷 敏

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ブッシュ政権は、1998年以来EUが行ってきたGM食品のモラトリアム(実質的に輸入禁止規制となる)により、年間約3億ドルの不利益を被ったとしてWTOに提訴した。

EUとしてはモラトリアム解除に向け進行中だったが、その交換条件である表示強化やトレーサビリティを含む規制案にも米国は不快である。昨年8月のザンビアなど、アフリカ諸国がGM不分別の食糧援助を拒否した騒動も、その遠因はEUのGM食品拒否の姿勢にあるとの遺恨も根深い。
1月に予定されていたWTO提訴が、イラク戦へのEU諸国からのサポートに気を遣い流れたのは記事の通り。しかし、選挙を控えたブッシュ政権にとって、農業州選出議員らによる議会の圧力は無視しえないものとなったのは想像に難くない。GM食品受け入れを渋るアジア、アフリカ圏諸国への牽制も当然あるだろう。
同じ米国・EU間でかつて争われた牛成長ホルモン訴訟と同様、SPS協定(衛生および食物検疫措置の適用に関する協定)に照らせば、EU側はGM食品にはヘルスリスクが存在するという科学的証拠を提示しなくてはならない。この点において米国の勝訴は堅いのだろうが、その反動としてグローバリゼーションもしくはその象徴としてのWTOに対する反感も一挙に噴出し、「苦い勝利」に終わる懸念もある。(宗谷 敏=GMOウォッチャー)