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GMOワールド

バランスがとれているニューヨーカー

宗谷 敏

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先週は特に大きな動きがなかったので、先々週公表された米国コーネル大学の付属研究機関が、ニューヨーク州民を対象に実施した食品や農業へGM技術使用に対する世論調査について触れておきたい。

参照記事
TITLE:New York Opinion of Biotechnology
SOURCE:The GEO-PIE(Genetically Engineered Organisms-Public Issues) project
DATE: August 28, 2003

このポール(世論調査)で注目したいのは、中西部のような農業生産地帯ではなく、消費地としての役割が高い地域住民がもっぱら対象となっていることである。上記記事から調査論文へのリンクが張られており、アンケート内容や回答者888人のプロフィルに関しても詳細が参照できるが、設問が明快であり、なかなか上手く設計されているように感じられる。
食品・農産物へのGM技術使用に対しては、反対38%、支持33%、どちらとも決めかねている中立が29%であり、GM技術使用のリスクとベネフィット(利益・恩恵)に関しては、リスクの方が高い37%、ベネフィットが潜在的リスクを上回る36%、リスクとベネフィットはほぼ等しい28%となっている。
平均年齢47歳の反対者層は女性の比率が高く、思想的には自由主義的で若年層が多い。科学的ニュースにはあまり関心がなく、GM技術についてもよく知らないか知らされていない。所得・学歴は3つのグループの中では低い。平均年齢50歳の支持者層は男性の方が多く、思想的には穏健主義、GM技術を含む科学的ニュースに関心が高く、学歴・所得はより高い。平均年齢48歳の中立組の男女比はほぼ半々、思想は保守主義的な比率が最も高い。GM技術についても最もよく知らないか知らされていないが、グループの中での平均的学歴は最高である。
ところでわが国においても、今年の2〜3月、農林水産政策研究所の矢部光保環境評価研究室長が、GM食品購入意識調査を含む食品安全性全般に関するインターネットでのポールを実施している(03.07.22、共同通信他)。これに有効回答を寄せた消費者約600人の6割以上が、GM食品の安全性に不安を感じ購入を控えたいと考えている。
もちろん、これら日米の結果を直接比較するのは乱暴な話であるのだが、考えさせられる対比ではある。米国側の結果の読み方はいろいろあるだろうが、論文において分析者も述べている通り、非常にバランスしており、仮にこれらのグループ間で議論が行われれば、かなり有益な結果が期待できると思わせる。
また、国民教育の成果かどうかは分からないが、設問上リスクとベネフィットという考え方がキチンと提示され、かつ回答者側にも理解されており、わが国において支配的なゼロリスク症候群に基づく感情的反対論は大勢を占める余地がない。こういう彼我の差にはいろいろな原因が存在すると思われるが、ネガティブなニュースのみを大きく取り上げ、GM反対・推進という単純な対立的構図を描いて世論を煽ってきたメディアの反省と成熟に、先ずは期待したい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)