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GMOワールド|宗谷 敏

EU司法の玉虫色判決でモンサント社らと伊政府が共に勝利宣言

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2003年9月16日

 先週は、北米、南米、ヨーロッパ及び国連で、興味深い動きがあった。いずれのトピックも、背景や経緯まで含めて述べると長めになってしまうのだが、許されたい。

任意か、義務か? カナダのGM食品表示案が合意
 足かけ4年の検討期間を要したカナダのGM食品表示案は、官民合同で構成するCGSB(The Canadian General Standards Board)における投票の結果、任意表示を実施することで9月8日、ようやく合意された。しかし、あくまで表示義務化を求めて、投票前にCGSBから降りてしまったり、反対投票を行ったりした消費者グループは、反発を強めている。
 世論調査によれば、カナダ国民の95%がGM食品に表示を望んだ(00.04.01, CBC)。対策を迫られた農務・農産食品省が資金を提供し、政府、産業界及び消費者の50以上のグループから代表者が参加するCGSBにおいて、99年11月以降11回に及んで検討がなされた。しかし、この官製のCGSBは、当初から任意表示の可能性について産業界グループの意見を聴取する傾向が強く、義務表示を求める消費者グループ代表との間で内部摩擦が続いていた。
 具体的な任意表示制度が公表されるのはまだ先のことらしいが、カナダ産業界の関係者から聞いた話では、意図せざる混入の閾値を日本と同じ5%とし、科学的証明を前提条件としたNon-GM表示も許される。ナタネ油などの高度に精製された製品に対しては、表示に何らかの妥協も成立した模様である。小麦と共にカナダの主要農産物であるナタネは、03年の全作付面積に占めるGM品種の割合が、既に68%(業界推定)に達している。
参照記事
TITLE:Consensus reached on voluntary Standard for labelling of Genetically Engineered Foods
SOURCE:Canada News Wire
DATE: Sept. 8, 2003

1カ月後の逆転裁定! ブラジルのGMダイズ訴訟
 ブラジルでは、CTNBio(国家バイオ技術安全委員会)がモンサント社のGMダイズに対して科学的な安全性を98年に承認したことに抗議して、消費者団体の消費者保護研究所(IDEC :The Institute of Consumer Defense)や環境保護団体グリーンピースなどが、GMダイズの作付けと販売禁止を求める訴訟を起こした。CTNBioがモンサント社に便宜を図った結果、環境安全性が十分に確認されていなかったというのが、その主張である。
 この理由に加えて、輸出先のGM拒否を懸念した政治的判断により、ブラジル政府は00年からGMダイズの作付けと販売に禁止令を公布した。にもかかわらず、南部ではGMダイズの違法作付けが横行し、困った政府は今年3月、作付け禁止のまま販売のみを来年の4月まで限定して許すという苦肉の策に出た。
 そして、長々審理が続いていた連邦裁判所では、女性判事が今年の8月12日、GMダイズの作付け及び販売禁止令を暫定的に解除すべきであるという判断を示した(03.08.12, Reuters)。ところが、1カ月後の9月9日、男性判事2名がこれを覆し、禁止令を支持する裁定を下したのである。この司法判断は、立法や行政の今後にどのような影響を与えるのだろうか?
 10月のダイズ播種最盛期を控えて、ルーラ政権はGMダイズの作付け及び販売禁止令を継続するか、解除するかの決断を迫られている。GMダイズに対するロイヤルティーを支払わないブラジルの違法作付けにより、不公正な貿易競争を強いられているという米国農家の抗議に、モンサント社は輸出業者からのロイヤルティー徴収に乗り出した。時として複雑怪奇な混沌のGMOワールド、その「ねじれ」の縮図のような国が、今のブラジルである。
参照記事
TITLE:Brazilian court reimposes ban on transgenic soy
SOURCE:Reuters News Service
DATE: Sept. 10, 2003

原告と被告双方が勝利宣言? 欧州裁判所の玉虫色判決
 EUの司法機関である欧州裁判所(ECJ :European Court of Justice、在ルクセンブルグ)が、9月9日、GMトウモロコシを巡る係争に裁決を下した。ところが、原告側(モンサント社等)と被告側(イタリア政府)の双方が勝利宣言を出し、各メディアの論調も勝敗を巡って混乱している。果たしてこれは、ヨーロッパ流大岡裁きなのか?
 00年8月4日、イタリアはモンサント社とシンジェンタ社(及びパイオニアハイブレッド社)のGMトウモロコシの組み換えられた遺伝子により発現したBtタンパク質が、トウモロコシ粉など製品に微量残存していたため、在来製品と実質的に同等と結論したEUの安全性承認には疑義があるとして、GMトウモロコシを含む製品に暫定的禁止措置を課した。
 これらのGMトウモロコシ(Mon 810及びBt11)は、EUがGMモラトリアム(安全性審査を凍結し新規に行わないこと)を出す98年以前に、EUの安全性認可を受けていた。英国とフランスがこれらGMトウモロコシを在来品種と実質的に同等と認め、英国がこれらを原料とする製品も在来製品と実質的に同等であると、EU委員会に届け受理された。
 当時の制度では、EU加盟の一国が実質的同等性を確認し、それをEU委員会が受理した場合には、それ以上の安全性審査は課せられず、EU全域内での販売が許可される。したがって、イタリアにおいてGMトウモロコシや製品を販売することは合法的であり、イタリアの措置はEU全体法違反だとして、開発メーカー側はイタリア政府を告訴していた。
 そして、今回の裁決の概要を整理してみると、
(1)組み換えられたタンパク質の微量の発現は、実質的同等性に依拠する安全性評価を覆すことにはならず、モンサント社などはこれらのGMトウモロコシを、新たにEUの安全性承認を必要とせず、EU域内において商業化できる(原告有利)。
(2)しかしながら、その予防的措置が法廷により合法的であると判断されるなら、イタリアにはそれらの製品の自国内での販売を、一時的に限定したり禁止したりすることが許される(被告有利)。
(3)ではあるが、それが認められるためにはイタリアが、仮想のリスクや仮定による憶測ではなく、健康や環境にリスクがあるという確実な根拠に基づく証拠を提出しなければならない(原告有利)。
(4)にもかかわらず、予防原則を反映している予防措置条項は、完全なリスク評価が不可能であるとしても、リスクが明白になるまで待つことなしに、保護的処置がとられることを可能にする(被告有利)。
 いやはや、お見事!という他はない。原告と被告双方が勝利宣言を出したのも、メディアが困惑したのも、もっともなことだ。極言すれば、実質的同等性(に基づく安全性評価)vs.予防原則(を反映する保護的措置)という難しい命題になるのだが、よりポイントをどこに置くのか、いわば匙加減一つで、どちらにでも解釈できる玉虫色の名判決(?)である。
参照記事
TITLE:Italy can temporarily ban GM foods but must provide sound evidence of the dangers
SOURCE:EurActiv
DATE: Sept. 9, 2003

君臨すれども統治せず? カルタヘナ議定書が発効
 国連の生物多様性条約カルタヘナ(バイオセーフティー)議定書が、9月11日発効した。この議定書第18条第2項によれば、食料・飼料もしくは加工用のダイズやトウモロコシ等いわゆるコモディティの輸出入に当たっては、「LMO(GMO)を含む可能性がある」こと及び「環境放出の意図はない」ことを記した書面の添付が義務付けられている。
 しかし、同じ条項に「詳細要件を発効日以後2年以内に決定する」とあるため、今現在直ちに貿易上の手続きに対し何らかの影響を及ぼすものではない。第1回開催が来春マレーシアにおいて予定されている締約国会議により、この条項にかかわる具体的事項も詰めていくことになる。
 一時は柔軟姿勢を示しかけた米国や、オーストラリアなどの主要国が議定書の批准を見送っており、概念的に対立せざるをえないWTOとの関係も不透明なままである。第20条の情報管理を一元化するバイオセーフティー・クリヤリングハウス・システムも構想自体は良いのだが、現実的に各国の利害や権益が生臭く絡み合うと運営は難しかろう。発効しても実効に至るまでには、クリアすべき課題も多い。
 わが国では、田中真紀子元外務大臣が、国会における就任演説で本条約を批准すると明言した。これを受けた関連省庁の本条約にかかわる国内担保法である「『遺伝子組み換え生物等の規制による生物多様性の確保法』が今年6月に成立。11月中に施行細則を公示予定、その段階で議定書を締結。日本に対して効力が生じる来年2月に法が施行される」(03.09.09、朝日新聞)とのことである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)
参照記事
TITLE:Biodiversity treaty called disastrous
SOURCE:The Scientist, by Ted Agres
DATE: Sept. 10, 2003

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