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GMOワールド|宗谷 敏

「ああ言えばこうやる?今週は『ドラえもん』ワールド?」

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2003年10月20日

 先週圧倒的な報道量だったのは、10月16日に英国で公表されたGM作物の試験栽培環境影響報告書の関連であった。もちろんこの学士院報告書がEU諸国に今後与える影響は小さくない。しかし、ここではGMOワールド地図という複雑なジグソーパズルの中で、EUのGMO政策や米国の対立関係という大きい部分にはめ込むべき一片として扱えば、という見方を示してみたい。

 ところで筆者は、GMOワールドの主役たちに「ドラえもん」のキャラを重ねるのが好きである。正邪の判断には直接かかわらず、ニュートラルな新技術をポケットから次々に取り出してみせるドラえもん(開発メーカー)、口喧嘩が達者なひねくれ者スネ夫(EU)、頭はちょっとだが腕力(財力)に優れ、すぐ手を出すジャイアン(米国)、心情的にはスネ夫と組みたくても裏切られたり、ジャイアンが恐かったりするのび太(日本など)、誰に気があるのかよく分からない静香(国連)。これらも念頭に置いて以下を読まれたい。
 米国のEU提訴にWTOパネルが設置されて以来、EUが攻勢に出たのはマーゴット・ウォルストロームEU環境委員(スウェーデン)の10月13日の発言である。「米国のバイテク企業はGM作物の利益についてウソをつこうとしており、それをヨーロッパに押しつけようとしている。しかし、我々はそれを受け入れない」
 女史のさらに過激な本音発言は続く。「飢餓問題の解決どころか、彼らの目的は途上国世界ではなく株主の飢餓を解決することだ」しかし、これらは公式な場での発言ではなかったため、批判されたバイテク企業側も一応反論した(10月14日、Financial Times)だけで、大きな外交問題にはなっていない。これをスネ夫の先制口撃とみる。
参照記事
TITLE:EU commissioner accuses US firms of trying to lie over GM crops: report
SOURCE:EU Business (AFP)
DATE: Oct. 13, 2003

 先週はモンサント社のニュースへの露出度も高かった。10月14日のコムギを中心とする穀物ビジネスをヨーロッパから撤退させるとの発表は、一般には驚きを、GM反対派からは喜びを伴って広く報道された。同日、本拠地の米国では、バイエル社との間で争われていた特許権を巡る複数の係争が和解に達したことも公表され、こちらも耳目を集めた。
 さらに10月17日には、USDAが最近12年間のGM作物試験栽培にかかわる開発メーカーの違反事例115件(申請7,400件の1.6%)を公表した。内容はBt作物に規定された待避ゾーンを守らなかったなど軽微なものがほとんどだったというが、うち44回はモンサント社と関連企業(企業別で最多ではあるが、申請2,500件の1.8%)にかかわるものであり、ただし33回は自主申告に基づくものだったという。
 これらの陰に隠れた形だが、栄養失調に苦しむアフリカをはじめとする途上国を助けるためのプロジェクトに対し、ビタミンAを強化したトウモロコシなどの開発を進めるために技術供与を行うという10月14日付けモンサント社のPRニュースにも注目したい。
 モンサント社のヨーロッパから部分的撤退とアフリカへの重点シフトは、GMO推進のキーメッセージに餓飢救済を選び、その直後にアフリカを訪れたブッシュ政権の政策と、相変わらず見事に軌を一にしている。
 そして広告塔のトウモロコシは、さすがのグリーンピースも、一時的に批判を控えようかと迷ったビタミンA強化GMコメであるゴールデンライスと同じコンセプト。これは、ジャイアンが繰り出す左ジャブ。
参照記事
TITLE:Monsanto donates research to help develop provitamin A enhanced maize for Africa
SOURCE:PRNewswire-FirstCall
DATE: May. 14, 2000

 次の記事は、おそらく世界一の金持ちであるマイクロソフトのビル・ゲーツ氏が自分と妻の名前を冠したビル&メリンダ・ゲーツ財団(本部シアトル)についてである。同財団は開発途上国の貧しい人々を救うためにビタミンやミネラルを強化したり、反収と耐病性を改善したりする農作物研究に2500万ドル(27億3400万円)を寄付すると発表した。
 10年計画で栄養が強化される予定の作物は、マメ類、コムギ、キャッサバイモ、トウモロコシ、コメ及びサツマイモなどである。寄付金を受ける複数研究組織のうちの二つが、前掲のモンサント社から技術供与される組織と重複していることは、ここで改めて断るまでもないだろう。ジャイアンの右ストレート炸裂!
 ゲーツ財団は99年8月の発足時点で基金総額171億ドル(当時のレートで1兆8000億円)と言われ、今までもエイズやマラリアの撲滅やマイノリティ(少数民族)への奨学金支給など健康と教育関連事業ヘ寄付を行ってきた。記事は「これは貧しい国々にGM食品を受け入れさせるためのトロイの木馬だ」というGM反対派からの批判も載せている辛口の英国ガーディアン紙のもの。
参照記事
TITLE: $25m Gates gift to GM project under fire
SOURCE:Guardian
DATE: May. 15, 2000

 さて、冒頭の英国学士院のGM作物環境影響調査報告書であるが、3年をかけて3種類の除草剤耐性作物に関し調査している。例の通りというべきか結論は割れており、ナタネとサトウダイコンは、慣行農法よりむしろ野生生物に悪影響を与えると述べている。
 しかし、除草剤耐性トウモロコシのみは、逆に環境影響性が少ないとの結論が出された。ただし、この試験で対照とされた除草剤がアトラジンであったため、マイケル・ミーチャー前環境大臣などのGM反対派からは、実験は無効でやり直すべきだという批判の声もある。アトラジンは、トウモロコシ用に米国などでも人気の高い除草剤だが、EUは最近発ガンのリスクを理由に禁止を決定したためである。
参照記事
TITLE: GM tests show wildlife danger
SOURCE:BBC
DATE: May. 16, 2000

 ここで少し後戻りして10月9日、全米コーン生産者協会(NCGA :National Corn Growers Association) が出したリリースにも注目したい。要点は、除草剤耐性GMトウモロコシと非GMハイブリッドトウモロコシとの家畜への比較飼養試験の結果、飼料効率や生産された畜肉、乳、卵などには全く差異がないという内容である。
 記事は日本におけるGMトウモロコシの飼養実験の結果にも触れている。実は、00年のスターリンク事件の時、日本はかなり熱心にニワトリ、ブタ、ウシに対するGMトウモロコシ飼養試験を行い組み換え成分移行の有無を調査した経緯があり、そのフォローアップの研究らしい。今後この分野は、各国の関心を集めると考えられる。
参照記事
TITLE: Biotech Feed Studies Indicate Performance Levels Remain the Same
SOURCE:National Corn Growers Association (NCGA)
DATE: May. 9, 2000

 モラトリアムが解禁されても、04年1月に周辺特許(35Sプロモーター)が切れても、消費者のGM食品への不安が根深いEU諸国において、GM作物の商業栽培が一気に花開くとは、とても思えない。
 しかし、途上国では主要食品のトウモロコシも、先進国では飼料作物に分類され、EU域内でもスペインで小規模ながらGMトウモロコシの商業栽培が既に行われている。そして、EUの鬼のGM食品表示制度は飼料にも表示を義務づけているものの、畜産製品である肉、乳、卵などは表示対象外である。
 さらに上記英国におけるGM作物試験栽培の結果、環境安全性に一応合格点が与えられているのは除草剤耐性GMトウモロコシなのだ。もう一歩踏み込めば、莫大な経済的利益が見込まれるため米国も虎視眈々のバイオファーミング(農産物をワクチンなど製薬に利用すること)にも、トウモロコシは利用される。
 これらの不思議な暗合(?)から、モラトリアム解禁後のEU政府が描くGM作物商業化のシナリオが浮かび上がってくる。しかし、国レベルでも中央政府と地方自治体が世界のあちこちで摩擦を起こしているように、加盟国がこのシナリオに乗るかどうかは、今後各国別に細かく見ていかなければならないだろう。
 そう言えば「ドラえもん」にはもう一人脇役がいた。ウーン、思いもかけないところが調和していたり、奇妙にバランスしていたりするGMOワールド、それでも今週の話はちょっと「出来杉」、というオチでご勘弁を。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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