科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

GMOワールド

東欧EU加盟はGMOの「トロイの木馬」か?

宗谷 敏

キーワード:

 2月14日付「ガーディアン」は、来る5月にEUへ加盟する中・東欧圏等諸国のGMO事情に触れている。上流社会の男性(現EU諸国)が集うバレンタインデーの合コンに、手作りチョコレート(農産物)を捧げていそいそ参加する東欧娘。しかし、「そのチョコGMO混じってないだろうな、ちゃんと調べたか?」と懐疑的な環境保護主義男たち・・・

参照記事
TITLE:EU races to thwart influx of GM food from east
SOURCE: Guardian, by Paul Brown, environment corresponden
DATE: Feb. 14, 2004

 04年5月1日からEUへの新加盟が予定されているのは、エストニア、キプロス、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、マルタ、ラトビア及びリトアニアの10カ国であり、ブルガリアとルーマニアは07年からの加盟となる。

 EU側は、新規加盟国に農業面からはCAP(共通農業政策)に対する適応性などの評価と共に、表示などEUの新規GMO規則を保証できうるだけの国内規制制度を整備することも要求してきた。しかし、この制度面での法律的条件はクリアしても施行が困難ではないかというのが記事の問題提起である。

 というのは、新規加盟国のいくつかが過去GMO作物を栽培してきたにもかかわらず、近隣作物への風媒などに関してチェックしたりモニターしたりする検査設備が不完全だったり、存在すらしていなかったりするからだ。

 例えばポーランドである。現EU圏への有機農産物の売り込みに燃えるこの農業国は、過去にGMOを栽培してきた。しかし、検査設備は全くない。新規加盟国のいくつかにおいてもこの事情は同じである。

 環境保護主義グループが実施した調査では、これら諸国のいくつかのサンプルからEUのGM表示閾値を超えるGMO混入が発見されている。しかし、これらの懸念に対するEUの報道官のコメントは楽観的である。

 承認済みのGM成分を0.9%(未承認GMの場合は0.5%)以上含むすべての製品に表示が要求されるが、製品をチェックするための検査設備や専門的知識を持たない国は、それら可能な他国や研究施設と契約することができるので、5月1日までに問題は解決されている筈だというのである。

 しかし環境派の心配は止まらない。さらに東方のウクライナは97年からEUでは未承認のGMジャガイモが栽培されている。ルーマニアも大規模なGM栽培が行われており、隣接するセルビアは気が気ではない。ブルガリアもGM栽培国である。

 チェコと共にハンガリーは検査設備が完備している数少ない国である。そして、ハンガリーはGMフリー政策を強力に推進してきており、EU諸国へのGMフリー種子の供給源となっている。ハンガリーの種子産業をGM種子の混入から守るのはデリケートな問題となってくる。

 環境保護主義グループは、EU諸国にGM製品を持ち込むために東欧ブロックを「トロイの木馬」として利用したとバイオ開発企業を非難する。しかし、開発企業側は度々変更された規制の様々な局面で、常に合法的に商業化を進めてきたためこの批判を取り合わない。

 以上が記事概要で、省略したがカルタヘナ議定書に言及した部分も当然ある。常々指摘されていることだが、EUは立派な制度を作るが実行可能性については案外無頓着である。

 農業国としての関心は特に環境面にあるのだが、EU委員会が03年7月23日公表したGMと在来・有機との共存に係わるガイドライン(2003/556/EC)も、どちらかといえば思念的色彩が濃い。新参国も含めてEU加盟諸国のGMOを巡る悩みは当分続きそうだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)