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EUのGM食品・飼料新表示制度がスタート

宗谷 敏

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 EUの改正GM食品・飼料表示制度とトレーサビリティに関する制度は、いよいよ4月18日から実行に移された。これらの制度は、2003年9月22日の規則(Regulation)(EC) No 1829/2003及び(EC) No 1830/2003に基づくもので、加盟各国に対しすべての内容が拘束力を持ち、加盟国はこれらを直接適用しなければならない。

 従来のGM食品表示制度との比較においては、閾値が1%から0.9%へ下げられ、植物油や大豆レシチンのような組み換えられたDNAやタンパクが残存しない製品にも表示義務が生じる。また、家畜用飼料にも新たに表示が課せられる。ただし、肉、牛乳、卵のような畜産製品には表示義務がない。

参照記事
TITLE: Nations to Enforce Biotech Food Labeling
SOURCE:AP, by Paul Geitner
DATE: April 16, 2004

 制度上問題となるのは、現在検証が困難な植物油などDNAやタンパクが残存しない製品への不正表示をどのように防ぐかという点である。トレーサビリティはこのために導入されており、農場から食卓まで証拠書類を積み上げることにより、制度の実効性を担保しようとしている。

 ここまでは理解できるのだが、この実施のために要するコストの問題は一切無視されている。我が国でもトレーサビリティ論は大流行であるが、対象とする産物の性質や流通形態を考慮せず、万能な追跡方法の如く考えるのは間違いである。

 牛には当然適用出来るし、豚にも可能だろう。しかし、鶏になるとかなり難しくなる。そして、バルクで流通される穀物にまでトレーサビリティを当てはめようとするのは、現在のところ暴論に近い。これは、例えば大量均質なものを効率良く輸送させることが目的である米国の穀物の流通形態を考えてみれば一目瞭然である。

 ただし、それはあくまで困難なのであり不可能ではない。流通コストさえかければ実現させることもできるだろう。そしてすべての消費者にそのコストを負担する覚悟があって、はじめて穀物のトレーサビリティは議論のテーブルに載る。なお、安全と安心は違う論も同じ。いつまで続くか分からない飽食の時代を背景に、際限のない安心を求めすぎる余りコスト増を招き、結果的に家計を気にする人たちにしわ寄せが行くようなことは避けるべきである。

 EUがここまで詰めたかといえば、そこは疑問である。実は、EUとしては別にそんなことをいちいち詰めなくてもいい立場にある。なぜかと言えば、高コストをかけてトレーサビリティを実施しなくても、たとえそれが理由で輸入が止まっても、代替も含め域内のみで農産物の自給自足が充分可能だからである。ここが自給率の低い日本とは決定的に違う。「EUがこうやったのだから、日本もこうすべき」という理論は、そこを理解していない。

 仮に、日本で基幹食品原料でもある植物油やそれが入った製品すべてにGM表示させたらどうなるだろうか。GM表示だらけになって、逆に消費者の選択権は失われかねない。組み換えDNAやタンパクが残存しないことから品質は変わらないのに、Non-GM油に走る流通業や食品メーカーも当然あるだろう。

 しかも、検証ができないから不正表示を取り締まるために、それがトレーサビリティになるのかどうか知らないが、国は予算を投じて何か方法を考え、実行しなくてはならなくなる。我が国のGM食品表示制度は、安全性のためではなく消費者選択のために行うとハッキリ謳っている。

 既存の食品と同程度に安全であることを政府として検証しているので、このような表示の理由になる。しかし、メディアや世間はそうはとらない。その結果、普通のモノにNon-GMという付加価値がついて、原料調達に余分なコストを支払わせられている。

 どのような表示であれ、それは必ずコストを伴う。表示制度の導入に当たっては、リスクや選択権に見合った制度とコスト負担に留めるべきである。EUとは対照的にカナダ政府は、4月15日GM食品に対し閾値を日本と同じ5%とする任意表示制度をひっそりと決めた。

参照記事
TITLE: Voluntary standard for labeling of genetically engineered foods becomes national standard
SOURCE:Canada NewsWire
DATE: April 15, 2004(GMOウオッチャー 宗谷 敏)