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GMOワールド

BASFも存外オモシロイのでは・・・

宗谷 敏

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 カナダにおける2003年度のGMナタネの作付け比率は68%と言われている。しかし、除草剤耐性ナタネの比率は?という質問をすると答えは90%に達する。この差が意味するところは、遺伝子組み換えを行うことなしに除草剤耐性を与えられた種子が販売され、22%のシェアを占めているということになる。

 それは、化学薬品処理などにより起こした突然変異と選抜育種の利用によりイミダゾリノン系除草剤に対する耐性を有し、クリアフィールドシステムと名付けられている。クリアフィールド(以下CFと略記)は、ドイツのBASF社のパイプラインであり、北米ではダウアグロサイエンス社により販売されている。

 つまりカナダの除草剤耐性ナタネ種子の市場は、遺伝子組み換えによるグリフォサート耐性を持つモンサント社のラウンドアップレディー(RR)及びグリフォシネート耐性を持つバイエル社のリバティリンク(LL)、そして非遺伝子組み換えのCFと三つ巴の争いなのだ。

 そのBASFは、5月24〜26日ベルリンで開催された世界種子会議において、今後10年のプラントバイオ工学のプログラム拡大に7億ユーロ(約940億円)を投資すると発表した。4年以内に、既に北米で実績のあるナタネをヨーロッパでも導入する計画であるという。

参照記事
TITLE:Non-GM super crops on way
SOURCE: FWi
DATE: May 25,2004

 しかし注目されるのは、それに先立ち05/06年にEU域内の適切な国にCFヒマワリを導入すると言っていることである。油糧作物としては北・南米のダイズのイメージが強いが、東欧を含めヨーロッパではむしろヒマワリやナタネが主役なのだ。

 これら二作物以外にも、CFシステムのソフトコムギ、コメ、トウモロコシなどが試験栽培を経て商業化可能な位置にラインアップされている。ただし、ソフトコムギであるデュラムコムギは3年で利用可能であるが、ヨーロッパへの導入は当面行わないと述べている。

 96年にGM作物が商業化され、90年代後半化学品、農薬、医薬品大手メーカーがアグリバイオに相次いで進出したとき、BASFは完全に出遅れた。米国において広くダイズに適用されていたイミダゾリノンは、GMダイズに組み合わせられるグルフォサートに押され劇的にシェアを失っていった。農薬ビジネスはもう駄目だとBASFの幹部が悲鳴を上げていたのもこの頃である。

 しかし、気を取り直したBASFは99年にスウェーデンの種苗会社スバレブベイブル社の株式を取得、同社との合弁でBASFプラントサイエンス社を設立しプラントバイオ事業に本格参入した。その後00年に入ってからの追い上げは急ピッチである。

 00年3月:米国アメリカンホームプロダクツ社から農薬事業を
       買収
 00年7月:米国ダウアグロサイエンスとCFトウモロコシのライセ
       ンシング合意
 01年7月:トウモロコシゲノム研究のため米国にBASFアグジェ
       ネンティックス社設立
 01年12月:ダウアグロサイエンスとCFナタネの世界的販売ライ
       セン<シング合意  02年10月:カナダアドバンダシード社とCFナタネのライセンシン        グ合意  03年3月:ドイツバイエル社から殺虫剤・殺菌剤製品を買収        (01年、アベンティスクロップサイエンス社の買収        を巡りBASFとバイエルが争った。結果的にバイエ        ル社が獲得したが独禁法を避けるためにBASFにこ        れら製品を売却)  03年6月:ハイブリッドヒマワリ種子を保有する米国マイコゲ        ンシード社とCFヒマワリ種子の販売協定締結        (ダウからの販売が可能)  モンサントの隆盛の一因は明らかに「種子を制する者は世界を制す」という教科書に忠実だった結果である。こうして並べてみるとBASFもこの文法に従いつつ、ドイツ企業らしい緻密な戦略に裏打ちされた事業展開ぶりが伺える。さらに英国におけるオメガ-3系脂肪酸産出植物研究への資金提供も行い、押さえるべきところを押さえている。  GMOと性能面で競合していかなければならないのは当然として、CFシステムの利点は、同じ除草剤耐性穀物でもGMOに課せられる全ての規制を免除されていることだ。最近、ますます強化される輸出先国の安全性審査に苦しむGM開発メーカーからすれば、それは反則だと言いたいところだろう。そして、EUでは案外ダークホースになるかもしれない・・・  ところで、車好きな方は同じドイツのBMWがBayerische Motoren Werke(バイエル原動機製造会社)の略だとご存じだろう。ではBASFはなんの略称だろうか?BASFジャパンのホームページによれば、バーディシェ・アニリン・ウント・ソーダ・ファブリク社がルーツで、1865年合成染料とその原料メーカーとして誕生したそうである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)