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GMOワールド

「夜明け前が最も暗い」?〜英国の消費者GM世論調査

宗谷 敏

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 先週のタイのフォローアップから始めよう。やはりバランスがキーワードのGMOワールド、退潮気味などと評したが、反対派も必死であり黙って死んではいない。ヨーロッパからの思わぬ干渉もあり、アジア・アフリカ諸国は今やGMOを巡る米国・EUの代理戦争の当事者もしくは戦場と化している。

 先週お伝えした01年からのGM野外栽培試験モラトリアム(禁止)を解くという全国バイオテクノロジー政策委員会の意向を受けたタクシン首相の発言は、野党やグリーンピースなど反対派からの猛反発を招き、首相は宣言の一部修正を余儀なくされた。
参照記事1
TITLE: Larger Battle Ahead for Anti-GMO Activists
SOURCE: IPS, by Sonny Inbaraj
DATE: Sep. 1, 2004
 先へ進むには全国学術研究委員会を組織し、その決定に従うという妥協案である。グリーンピースはこの首相の譲歩に一定の評価を与えたが、一方でこの委員会の構成がバイオ開発多国籍企業の関係者で占められることを懸念し、市民メンバーを加えることを要求している。しかしながら、科学技術大臣は大学などの科学者や学者のみにメンバーを限定する意向であるという。
 さて、先週は、04年7月27日、タイのグリーンピースがGMパパイアを見つけたと発表したことにも触れた。断っておくが、収穫前のたった1個である。しかし、フランス(04.09.03, The Nation)やドイツの一部輸入業者が、タイからのパパイアやフルーツカクテルなど製品の輸入にストップをかけ、輸出業者にGMO検査を要求しているという。
参照記事2
TITLE: German firm cancels Thai fruit salad over GMO fears
SOURCE: AFP
DATE: Sep. 3, 2004
 安全性というよりは規制上の問題(未承認)であることは容易に察せられるが、それにしても過剰な反応であり、タイ側は「鳥インフルエンザ以上の影響の早さ!」と驚きながら証明書発行に向けて対処している。タクシン首相は、「パパイアはタイの主要輸出品目ではない」と強気の姿勢を崩さない(04.09.05, The Nation)が、GMOが国内農業政策のみならず国際貿易問題に密接に結びついていることを実感したであろう。
 ところで、It’s always darkest before the dawn.(夜明け前が最も暗い)は名言であるが、04年9月1日の英国メディアは、02年と比較して消費者GM食品受け入れが悪化している世論調査の結果について一斉に報じた。
参照記事3
TITLE: Worried consumers “shun GM foods”
SOURCE: BBC
DATE: Sep. 1, 2004
 消費者系雑誌により実施されたポールの概要は以下の通りである。
・私は食品生産へのGM原料の使用について懸念する:61%(02年56%)
・私はGM食品とGM成分を避けようとする:58%(02年45%)
・私は食品製造業者がGM成分を取り除いたことに満足している:33%(02年28%)
・あなたはGM農産物が英国で栽培されるべきだと思うか?(YESの%):26%(02年32%)
・私は長期の健康影響について知見が十分ではないことを心配している:73%
・私はGMの環境影響について知見が十分であると思わない:64%
・私はGMの食品安全性に対する影響について知見が十分であると思わない:64%
・私は知らないうちにGM食品を食べているかもしれないことを心配する:61%
・私は小売り業者や製造業者が非GM動物飼料由来製品を購入すべきだと思う:68%
 EU域内における米国のカウンターパートとして、英国(政府)ほどGM受け入れ政策を熱心に推進してきた国はない。しかし、03年10月のFSEs(英国学士院GM作物環境影響調査報告書)公表に代表されるように、莫大な予算をかけたそのほとんどが空回りし、裏目、裏目に出ているのは不幸な巡り合わせとしか言いようがない。
 この消費者懸念増加の背景にしても、03年6月から7月にかけて国をあげて実施されたGMOに関するナショナルディベートの失敗に主因を求めるのが妥当だろう。筆者は、この失敗からの教訓は「マスを対象としたリスクコミュニケーションの限界」だと考えている。
 予算や人手など手間暇がかかっても、問題に特化した専門家を加えた小規模のイベントを頻繁かつ地道に実施していく以外に、GMOなどのリスコミを成功させる方法はない。リスコミについて検討中と伝えられる我が国の食品安全委員会も、ここのところは良く研究していただきたいものである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)