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GMOワールド

北海道で既に商業栽培されていた遺伝子組み換えダイズ

宗谷 敏

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 以前から噂はあった。北海道では既にGMダイズが栽培されている・・・しかし、日本モンサントに照会してみても事実関係は確認できず、この話は噂の領域に止まっていた。そして、2004年10月1日付け毎日新聞北海道地方版に、この事実を初めて確認したスクープ記事が掲載された。

 ことの発端は、04年9月5日、札幌で開催された公開シンポジウム「北海道農業の未来を考える〜新たな農業技術の持つ可能性〜」。パネリストとして参加した夕張郡西南農場の宮井能雅氏が、ラウンドアップ・レディー・ダイズを栽培した経験があると発言。これを伝え聞いた毎日新聞筑井直樹記者が地道で行き届いた取材を経て「遺伝子組み換え大豆 長沼の農家、本格栽培へ」という記事にしたものである。
 記事によると、宮井氏は98年に米国Monsanto社の販売代理店から並行輸入により種子300キロを直接購入(日本モンサントが把握していなかったことはこれで頷ける)、4.6ヘクタールに作付けし、空知管内の民間業者に卸し販売した。10アール当たりの収量は180キロだったというから、収穫量は単純計算で8トン強になる。
 米国の種子販売代理店とは、収穫したダイズは全量出荷(農家の自家採種禁止)、指定された除草剤を使用、Monsanto社の査察を受け入れるなどの契約(米国農家との契約書がそのまま準用されたものと推測される)が結ばれた。翌99年にも栽培したが、反収で25%、収益も4割減ったため、2年で栽培を打ち切った。
 宮井氏はこれらの結果は予想通りだったとした上で、その後、品種改良が進み北海道の気候に適した品種が開発されたので来年からは本格的商業栽培を開始したい意向という。これに対し、GM栽培規制(現在はガイドライン、条例化を検討中)を考えている北海道庁は、困惑の色を隠せず中止を要請する方針という。
参照記事
TITLE: 組み換え大豆を商用栽培へ 北海道は中止要請の方針
SOURCE: 共同通信
DATE: 2004年10月1日

 98、99年は宮井氏自身試験栽培のつもりかもしれないが、既に一般商業ルートへ流れており、その意味からは商業栽培とも言えるだろう。日本モンサントのみならず、交付金を出したであろう農水省も道庁もこの事態を全く把握していなかった。では、当時の法規制上なにか問題があったかと言えば、おそらくそれはないと考えられる。
 ラウンドアップ・レディー・ダイズは、96年に農水省が栽培と飼料安全性を、厚生省(当時)が食品安全性を各々確認しており、栽培・出荷になんらの問題もない。では、来年宮井氏が商業栽培しようとすると、どのような規制をクリアしなければならないのか?
 GM種子輸入に当たっては、04年2月19日施行のカルタヘナ法の適用を受ける。ラウンドアップ・レディー・ダイズは現在同法に基づく承認を申請中であるが、経過措置の適用を受けられるので輸入は可能である。栽培に関しても、農水省からの混乱を招かないように近隣農家などへ十分に情報提供して欲しいという02年11月21日発出の要請文はあるが、法規制ではない。一方、北海道のガイドラインが条例化された場合は法的規制となる。
 しかしながら、栽培中のラウンドアップ・レディー・ダイズに除草剤ラウンドアップを散布すると03年3月10日施行の改正農薬取締法では農薬使用基準違反となる。これはダイズへの栽培期間中の使用がラウンドアップについて未承認なためである(ちなみに98、99年当時は行政指導のみ)。
 出荷・販売に当たっては、01年4月1日施行のJAS法品質表示基準の対象となり、遺伝子組み換えダイズであるという義務表示が必要になる(分別生産流通管理)ハズだが、農水省のQ&Aでは国産ダイズは「GMが商業栽培されていない」ため、現在のところ表示は免除されている。一方、全農や全集連はGMダイズを扱わない方針なので、独自の販路開拓も必要になるだろう。
 宮井氏の西南農場は、ダイズだけで20ヘクタールを栽培する大規模農場である。米国ダイズのGM作付けは80%を超えている現在、農業生産者として当然これに無関心ではいられないだろう。EU諸国も含め世界の農業国政府は、GMのメリットも理解しているからこそ、非GM・有機との面倒な共存の方法やルールの確立を必死に模索している。
 国内の農業現場からGMと非GM双方に需要がある場合、説明責任を一切放棄し風評被害だけを過剰に恐れて片方を禁止したり過剰に規制したりするのは、国、地方を問わず行政としてはあまりにイージーゴーイングな行き方である。
 消費者の選ぶ権利は認められて当然だが、農家の植える権利もまた尊重されるべきだろう。宮井氏のような研究熱心な気鋭の営農者を挫き、農業技術の進歩発展を圧殺するのが果たして国益に叶ったことなのか。この国の農業の将来を真剣に考えるなら、宮井氏が投じた一石は大きくそして重い。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)