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北米で荒ぶるスイスの巨人〜Syngenta社の特許権侵害訴訟

宗谷 敏

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 ヨーロッパコーンボーラー(アワノメイガの幼虫)は、米国トウモロコシ産業に毎年何十億ドルという損失を与えてきた。これに抵抗性を有するBtトウモロコシは、1997年Monsantoにより市場に導入されるや米国農家から絶大な支持を集め、今や米国産トウモロコシの約4分の1を占めるに至っている。先週は、その特許権を巡る係争が耳目を集めた。

参照記事1
TITLE: Jury finds for Monsanto, Dow AgroSciences in patent case
SOURCE: Agriculture Online
DATE: Dec. 15, 2004
 スイスのバーゼルに本拠を置くSyngenta社は、これらのBtトウモロコシを生産することに、いくつかの合衆国特許を所有しており、その特許権を侵害されたとして複数の有力な種子ディーラーを告訴した。Syngenta社の要求は、他社のBtトウモロコシ販売を阻止するために損害賠償金と禁止命令措置を求めるものだ。訴えられた企業群には、Dow AgroSciences社、Mycogen Seeds社(Dow AgroSciences社の系列)、Monsanto社、Pioneer Hi-Bred社(DuPont社の子会社)などが含まれる。
 このうちPioneer Hi-Bred社とは、デラウェア州連邦地方裁判所で裁判が開始される直前に、両社から和解が発表された。この結果、Pioneer Hi-Bred社は、ブランドであるHerculex と YieldGard に、Syngenta社からの特許に関する商業利用許可証を獲得した。この和解では、逆にPioneer社 が02年に Syngenta社 に対して起こした遺伝子試料不正使用に関するクレームも同時に解決された。
 裁判は、Syngenta社が主張する3つの合衆国特許について審理されたが、裁判長は、2つのケースについては特許権侵害の事実はないとしSyngenta社の訴えを予審で退けた。残る1つのケースのみが陪審の票決に委ねられたが、12月14日下された陪審の結論は「特許の主題は実際に Syngenta社 によって発明されたものではない」という理由から特許権侵害には当たらないというものだった。Syngenta社は直ちに控訴を決定した。
 この係争の裏には、開発メーカー間の熾烈な種子販売戦争がある。既にハイブリッドトウモロコシGM種子の開発・販売は、スタッキングなどにより除草剤耐性を併せ持たせたり、害虫抵抗性を複数にしたりして、ダブル、トリプルのトレイトを持つ品種に進化して来ている。
 これらを1から開発していたのでは間に合わないから、既存技術の組み合わせということになる。しかし、当然そこには開発各社の知的所有権が入り乱れて存在し、しかもこの業界は目まぐるしくM&Aを繰り返してきた結果、「昨日の友は今日の敵」状態だから話は非常にやっかいだ。
 先のPioneer Hi-Bred社とSyngenta社のように、特許論争から使用許可契約という解決を見る場合もあるが、植物バイテクはまだ歴史も浅く、重要な技術の多くが依然として特許権の拘束を受ける。それが、新製品の商業化や中小企業の参入を困難にしているとの指摘(04.11.29, The New Journal)さえあるのだ。
参照記事2
TITLE: Syngenta renames corn traits
SOURCE: Farm Industry News, by Karen McMahon
DATE: Dec. 1, 2004
 Syngenta社 は、05年から、改名新ブランドAgrisureの一部で、コーンボーラーに抵抗性のある自社のBt11に 除草剤耐性を付与することを目論んで、GA21 glyphosateの使用権をBayer CropScienceから獲得した。これに異議を唱えてMonsanto社は、直ちに訴訟を起こした。これが実現すれば、Agrisure系統 はMonsanto社のRoundup Ready系統と、米国市場で真っ向から競合することになるからだ。
 Syngenta社は、ヨーロッパでのGM作物試験栽培をすべて中止し、全部のバイテク研究機能を米国へ移すと公表している(04.11.29, Die Weltなど)。共にアグリバイオを第一に志向するSyngenta社とMonsanto社との確執は、04年5月17日付の拙稿でも触れたが、数々の前哨戦を経て、S・M戦争北米ラウンドは、いよいよ来年から本格化する様相を呈してきた。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)