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GMOワールド|宗谷 敏

開発企業における品質管理と危機管理〜Syngenta社Bt10の場合

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2005年3月28日

 この2週間で報道量が多かったのは、英・米における二つの出来事である。英国FSEs(農場規模評価)の最終報告書に当たるGM冬播きナタネの環境影響調査結果が公表されたこと並びに米国においてSyngenta社の安全性未承認GMトウモロコシBt10が商業ルートに流されていたことが発覚した件だ。

参照記事
TITLE: Transgenic crops take another knock-Shift in weed species hits bees and butterflies
SOURCE: Nature, by Jim Giles
DATE: March 21, 2005
 FSEs報告では、Bayer社のGM除草剤耐性冬播きナタネは、対照された非組換えナタネに比べ、給餌する雑草類の減少からチョウは最大1/3減少、ハチは半減すると述べている。この生態系に影響があるとする結論は、既に03年10月、春播きナタネでも公表された結果と変わらないが、英国中心にGM反対派やメディアは盛り上がっており、プロGMのBlair首相は苦境に立たされている。
 本件は、関連記事も1月に書いたので詳述しないが、一言だけ。既に栽培面積の75%がGMナタネ、突然変異技法も加えれば95%が除草剤耐性ナタネと伝えられるカナダでは、この種の問題が起きていないのだろうか? 播種時期の問題や周辺他作物の存在の有無など、「GM(ナタネ)は環境に有害!」という短絡的結論に飛びつかず、条件をキチンと切り分けた議論が必要だろう。
 次はSyngenta社(本社はスイス在)のBt10である。事件の概要は、農水省(および厚労省)の3月23日付プレス・リリースにも詳しいので、まずそちらから参照願いたい。
 00年のStarLink事故を教訓として開発メーカー各社は、種子の品質管理(Seed Quality Control)に注力してきた。しかし、残念ながら未承認種子のコンタミは、メーカーを問わず複数回起きている。ただし、それらは試験栽培過程であったり、農家圃場で収穫前に危うく発見されたりで、一般商業流通に乗ってしまったのは、今回がおそらく初めてのケース(StarLinkは飼料としては承認)である。
 Syngenta社は、種子品質管理方法を野外栽培での観察と発現するタンパク質を調べること(一般的な食品・飼料安全性はこれでも確保される)に新たにDNAシーケンス検査を加えたことにより、今回の事故を知るに至る。もし、最初から品質管理マニュアルにDNAを調べる項目があったなら、(いくら少量とはいえ)4年間も気づかなかったという事態は避けられていたはずだ。
 開発メーカー他社はどこまでやっているかは知らないが、前述した通り企業を選ばず未承認種子のコンタミは起きているのだから、関連種子メーカーなどに責任転嫁せずクリティカル・ポイントとして最善の管理方法を採用もしくは義務づけるべきだった。
 無論、種子のピュリティ(純度)が100%ではないことは農業関係者の間では常識だが、それとこれとはまた異なる話だろう。事故が起きた時、予防対策をどこまでやっていたのかは、真っ先に当事者に問われる点だ。Syngenta社がベストを尽くしてきたかどうかは、我が国の某自動車メーカーの場合と同様、社会が厳しく判断すべきだろうし、他社は貴重な教訓とすべきだろう。
 さて、一旦事故が起きてしまったら、当該企業としての対応は危機管理に移る。Syngenta社は、定められた規則に則り、先ず米国の規制当局へ事態を報告した。ここから3月21日の公表までには、約3カ月間の空白がある。米国政府ともども責められても仕方ないところだ。
 しかしここで、Syngenta社は幸運に恵まれた。Bt10と同じ開発ラインにあり、タンパク質も同等なBt11が、米国はもとよりEUや中国、日本も含む主要国で、安全性が確認済みであったという事実である。組み換え遺伝子の挿入部位の違いに由来したBtタンパクの発現量の差から、Bt11が商品化され、Bt10は落とされた。
 米国の規制当局は、異なる挿入部位の周辺遺伝子の構造に変化、いわゆる非意図的な影響がBt10にないかをおそらく3ヵ月かけて慎重に調べた結果、食品、飼料および環境にリスクはなく、よって回収の必要はないと判断したのだろう。3月24日には、珍しくEUもNo Riskを裏書きしている。 英国のNatureに3月16日、まずリークしたのが当事者かどうかは不明だが、ウソを言わない、可能な限り詳細な情報を信頼性の高いメディアに分かり易いメッセージとして出す、というのがこういう場合の鉄則だろう。そして、これらは成功したかに見える。雲霞の如く湧いた一般紙の後追い報道で、整理されたNatureの内容に付け加えられた情報は、ほんのわずかである。
 一方、Syngenta社自身のリリースは、最も訴えたい「実リスクはない」という点に絞ったメッセージを強く打ち出し、対メディア説明用キットと問い合わせ先を添えている。これも見事なまでの常道だ。
 実リスクがなかったのは、いつもそうだとは限らないあるいは長続きはしない幸運に過ぎない。仏の顔は三度までだが、キリストはもっとケチかもしれない。つまり、背後に横たわる問題は根深い。先例に学ぶ姿勢は大切だが、今までそれらが充分活かされてきたとは言い難いのも心配の種だ。
 商業化から10年、「いつも何かが隠されているように思える」という一部からの不信の声は消えない。栽培面積拡大という既成事実に寄りかかることなく、Syngenta社のみならず開発メーカー各社には、もう一度原点に戻って良く考えて頂きたい。
 実は、農業関連分野ではないのだが、筆者の亡父は開発技術者であった。「安全には、コストを掛けすぎるということがない」が、彼の口癖であった。高度経済成長期の民間企業では、無条件に受け容れられる考え方ではなかったようにも感じるが、齢を重ねるにつれ親の意見は重みを増す。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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