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GMOワールド|宗谷 敏

読み物としてなら面白いが〜Jeffrey M. Smith著「偽りの種子」

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2005年4月11日

 最近の外電には、Jeffrey M. Smith氏の著書“Seeds of Deception”への言及や引用が目立つ。同書は、「偽りの種子」という邦題で、社団法人の家の光協会から訳書(野村有美子・丸田素子共訳、税別1600円)も発売されているので、取り寄せて読んでみた。内容にいろいろ気になるところがあり、この書の背景を少し調べてみたら「驚愕の真実!?」が。

 同書は、「遺伝子組み換え食品をめぐるアメリカの嘘と陰謀」という副題が示す通り、今や下火となってしまった遺伝子組み換え食品の食品安全性疑惑に係わる神話の数々を、実は裏はこうであったと、主にGM反対派の証言(だけ)を基に列挙した書物である。出版元のYes! Booksが公表している宣伝ホームページは下記だ。
参照記事1
TITLE: Welcome to Seeds of Deception
SOURCE: Yes! Books, Fairfield, Iowa
DATE: 2004
 そ上に上がっているのは、Arpad Pusztaiの組み換えジャガイモ事件(98年)、Monsanto社の組み換えウシ成長ホルモン(rbGH)関連(80年代〜)、昭和電工トリプトファン事件(89年)、オオカバマダラ事件(99年)、StarLink事件(00年)、メキシコのトウモロコシGM交雑事件(01年)などに、FDAのスキャンダルも絡めて、よくも集めたとほとほと感心する品揃えだ。
 Pusztai氏やメキシコのトウモロコシ事件のIgnacio Chapela氏の記述では、Smith氏はあたかも鞄持ちとしてその場に居合わせたような生き生きした筆致で、まさに小説仕立てである。これら全てが事実かどうかは知らないが、かくも裏事情?に詳しいJeffrey M. Smith氏とはいったい何者なのだろうか?
 前掲のホームページや、訳書の著者経歴には「GM食品に関する活動を、非営利団体および政治団体に所属しながら積極的に行う」「〜その後GMO検知研究所のマーケティング担当副社長を務める」などとある。なるほど、周辺情報に乏しい一般消費者が本書を読んで、フランケンフード神話に毒され恐怖心を抱けば、結果的にGMO検査の受託も増えるだろう。なかなか賢いマッチポンプ・ビジネスだとこちらにも感心した。
 ところで、Jeffrey M. Smith氏の人となりに興味を抱いたのは、筆者一人ではなかったらしい。ニュージーランドのInstitute of Liberal ValuesというNGOのサイトには、下記の通り実に詳細なSmith氏に関する調査結果が公表されている。なかなか興味深い内容である。
参照記事2
TITLE: GE and TM
SOURCE: Institute of Liberal Values, by Jim Peron
DATE: 2004
 ヒントはIowa州Fairfieldにあった。ここは、米国でも力のあるヒンズーカルトの一派で、遺伝子組み換え食品に反対するMaharishiの本拠地だ。Maharishiが経営する大学では、空中浮遊術やヘルメットを装着した超越(TM:Transcendental Mediation)瞑想を学生たちに教えており、つい最近も一般紙がこの問題を取り上げている。
参照記事3
TITLE: Maharishi U. curriculum includes study of meditation
SOURCE: St. Louis Post-Dispatch, by Tina Hesman
DATE: March 25, 2005
 力と資金のあるカルト集団の例に漏れずMaharishiも政治活動を行っており、その政党名をNatural Law Party(NLP)と称する。そしてSmith氏が関係した政治団体とはNLPであり、氏はNLPから下院議員選に立候補している。また、Smith氏が勤務したGMO検知研究所とはGenetic ID社であり、同社の創設者で技術系要職にあるJohn Fagan博士は、Maharishi大学にも奉職している。
 Fagan博士は、何度も来日しているが、96年初来日した時の記者会見で「GMOの危険から身を守るために集合意識を高めなければならない。それはMaharishiの超越瞑想プログラムを実践することで実現される」と述べ、居並ぶ記者たちの度肝を抜いた(筆者は録画ビデオを所有している)。97年、さんが出版から出版された博士の著書「遺伝子汚染?意識のテクノロジーが地球を救う」も、遺伝子組み換え食品の危険性とは名前を借りただけで、実体はMaharishi思想の啓蒙書だ。
 当時、安田節子氏が代表を務めていた「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」で広報部門を担当していた「自然法則フォーラム」(後に「自然フォーラム」と改称)が、Maharishiの日本支部だったことも、知る人の間では有名な話である。なお、フォーラム側がキャンペーンのGM反対運動に見切りをつけたのか、キャンペーン側がさすがにマズいと切ったのかは知らぬが、現在では両者に表向きの関係はない。
 Smith氏の居住地、これ1冊しか本を出版していないYes! Books、Maharishi総本部、Maharishi大学、Genetic ID社はすべてIowa州Fairfieldに存在する。出版社の良心は、売れればいいということではないはずだ。Yes! Booksから版権を取り、出版に踏み切った翻訳出版元は、こういう背景をキチンと調べられたのだろうか?
 翻訳書にはご丁寧にも用語解説が付けられており概ね正しいのだが、「ラウンドアップ、ラウンドアップレディー」の項目であたかもターミネーター技術が使用されているように記載されている点などは、明らかに誤りである。せっかく解説を付すなら、正確を心がけていただきたい。
 さらに、Smith氏であるが、約1年前、フィリピンでBtコーン栽培農家がBt毒素に曝露したという騒ぎがあった。あの騒ぎは、血液サンプル分析を依頼されたノルウェーのTerje Traavik氏が、良く確認しないまま「ことの重大性に鑑み」Btが怪しいというリリースを出してしまい騒ぎになった(その後Traavikはトーンダウン)。なんとこのリリースの共同仕掛け人こそ、誰あろうJeffrey Smith氏である。
 Smith氏は述べる。「これまで述べてきたようなことを、読者のみなさんがいままで一度も聞いたことがなかったとしても不思議ではない。なぜなら世界中のメディアはバイオテクノロジー擁護派の攻撃によって抑えられてきたからである。この傾向は特にアメリカにおいて顕著である」
 しかし、氏の言論の自由さえも保証されている言論統制国家でもない社会において、これは氏の妄想の産物であり、大多数のメディアに対して失礼だろう。なぜメディアが氏の述べているようなことを書かないかといえば、それは信頼性の高いメディアが、思い込みと伝聞やそれに基づくだけの憶測を、確たる証拠もなしには決して記事にしないからである。
 GMOワールドは「ダヴィンチ・コード」の世界とは違うのだ。「遺伝子組み換え食品をめぐるアメリカの嘘と陰謀」が、もしも超越瞑想とやらが産みだした「遺伝子組み換え食品をめぐるカルトの妄想と金銭的野望」だったというのであれば、まったくシャレにもならないだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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