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GMOワールド

予想外の高反収〜Btトウモロコシの地下実験栽培

宗谷 敏

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 製薬用GM植物の食品用穀物への混入を避けるためGURTs(遺伝子利用制限技術)など植物側からのブレークスルーは、なかなか実用化されない。一方、環境側からでは究極の囲い込みとも言える地下での栽培実験について、昨年6月に紹介した。今週は、その続報である。

 インディアナ州の新技術開発基金の助成を受けて、このプロジェクトを立案したのは、Doug Ausenbaugh氏である。同氏はベンチャー企業であるControlled Pharming Ventures LLCを立ち上げ、地元にあるPurdue大学からも全面的協力を取り付けている。

 グループは、60エーカーの地下採石場跡地に実験栽培施設を建設し、昨年秋に始めてヨーロッパコーンボーラーに耐性を持つBtトウモロコシの試験栽培を行った。その結果、エーカー当たりに換算して平均337ブッシェルという高反収を達成したという。同じ1エーカー当たりの比較では、研究者が温室で栽培した場合は267ブッシェル、トウモロコシの全米平均反収は142ブッシェルである。

参照記事
TITLE:Underground crops could be future of ’pharming’
SOURCE:Purdue News, by Jennifer Cutraro
DATE: April 20, 2005

参照記事
TITLE:Cave Pharming Yields Big Crops
SOURCE:Wired News
DATE: April 22, 2005

 この結果には、実験を行ったPurdue大学の研究者自身も驚きと興奮を隠さない。実験の目的はあくまで製薬植物の囲い込み栽培であり、反収を上げることなど考えてもいなかったからである。筆者も、昨年このプロジェクトを紹介した時は高額な設備コストに疑問を呈しておいたが、これが事実なら実用化に一歩近づいたのかもしれない。

 日光の代わりを努める光源、地下の湿度や低温、二酸化炭素の排気など、当初この実験のクリアすべき課題は少なくなかったはずである。LED(発光ダイオード)の利用や断熱に効果的でかつ内部に反射を起こす素材の壁など、1つひとつ解決していったチームの努力には敬意を表したい。

 今春以後は、ダイズ、タバコ、アルファルファなどを試験栽培するためのパイロット施設も増設される。さらにエネルギーコスト削減を目的に、植物の葉や茎をリサイクル利用するバイオマス技術も考えられる。完全にコントロールされた環境下では害虫の発生もなく、農薬は一切不要だから果物や野菜の有機栽培にも応用可能と、Ausenbaugh氏の夢は膨らむ。

 参照記事の写真で見る限り、洞窟内にコンピューター制御された温室を建てたように見えるが、規模を拡大していった場合、効果や採算性がどうなるのか、筆者にとってまだ疑問が残る。ただし、野外で製薬用GM植物を栽培した場合、植物の性質上いくら離しても交雑のリスクはゼロにはならない。その点においては、限りなくゼロリスクに近いこのシステムは十分魅力的であり、先週書いたミズーリ州で製薬イネ栽培を目論むVentria Bioscience社なども無関心ではいられないだろう。

 利用できる地下の面積は現状限られるだろうから、Wired Newsにあるように、まさに21世紀の米国農業革命!となるかどうかは分からない。しかし、もしそうなれば、害虫抵抗性や除草剤耐性というGM技術も地下ではお役ご免という訳で、ターゲットである製薬植物栽培を志向する開発メーカーならずとも、今後が気になる展開である。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)