科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

GMOワールド

欧州リスコミ断層〜驀進する欧州委員会と情報不足の消費者

宗谷 敏

キーワード:

 Bt10騒動の陰に隠された形だが、欧州委員会は既定の手順に従いGMOの認可を着々と進めている。GM作物・食品に関する最新の域内消費者世論調査も公表されたので、今週はEUの追っかけをやっておこう。

 4月18日、欧州委員会は、承認済みの食用・飼料用GMOなどを改めて明示した。これら26品種の内訳は、トウモロコシ12品種、ナタネ6品種、ワタ5品種、ダイズ1品種および抽出残滓2品種である。
 続いて4月26日、これらに対し禁止措置や法的制限を続けている5カ国に対し、欧州委員会は、欧州閣僚理事会に訴え、それらの解除を要求する。5カ国と関連するGMOは、オーストリア(トウモロコシのT25、MON810およびBt176)、ドイツ(Bt176)、ルクセンブルグ(Bt176)、フランス(ナタネのMS1xRF1およびTopas 19/2)およびギリシャ(Topas 19/2)である。
 やる気満々の欧州委員会であるが、GMOの新規認可提案に関しては、依然各国の意見が揃わない。いわば強権発動で昨年ようやく認可を下した先例(04.5.19. Syngenta社のBt11および04.10.26. Monsanto社のNK603)と同じく、相変わらず蝸牛の歩みである。
 Monsanto社の除草剤耐性GMトウモロコシGA21の食用認可を議決する専門委員会は、4月27日、開催されたが合意に失敗した。03年11月の制度改正以来、欧州委員会GMO認可に係わる提案としてはGA21が10番目となる。例によって、この議案は閣僚会議送り(90日以内に議決できなければ、欧州委員会が決定)となる。
 なお、25カ国のポジションは、賛成8カ国(ベルギー、アイルランド、ラトビア、フィンランド、スウェーデン、チェコ、オランダおよび英国)、反対5カ国(オーストリア、フランス、ルクセンブルグ、ポルトガルおよびスロバキア)、会議に不参加のマルタ、ギリシャ及びリトアニアを除く残り9カ国は棄権した。
 そんなことは想定の範囲内だとめげない欧州委員会は、04年11月29日、専門委員会が合意に失敗(賛成8カ国、反対12カ国、棄権5カ国)したMonsanto社の害虫抵抗性GMトウモロコシMon863の飼料用認可の提案を、4月26日、閣僚会議に送付すると発表した。
 そして、98年のモラトリアム以来新たに認可されていないGMOの域内商業栽培についても、来る6月6日に検討される予定と欧州委員会はいう(05.4.22. Reuters)。対象となるのは、DuPont社の子会社Pioneer Hi-Bred International社と、Dow AgroSciences社ユニットのMycogen seeds社との共同開発による害虫抵抗性と除草剤耐性をスタッキングしたGMトウモロコシ1507系統(ブランド名Herculex Iはこの1品種)だ。
 ハッスル、ハッスルの欧州委員会に対し、域内消費者のGMOに対する反応はどうなのだろうか。欧州委員会の委託を受けてEurobarometer社が実施した消費者世論調査は、加盟25カ国25,000人を対象とした大規模な調査であり、4月29日に結果が公表された。
 ヨーロッパ人の10人中4人は、GM作物と食品について良くは知らないと感じている。特にスカンジナビア諸国でこの傾向が高く、フィンランドでは66%、スウェーデンでは49%がGM作物に関する情報が少なすぎると訴えている。
 GMが農業へ使用された場合、環境への影響を懸念しているのは全体の1/4以下であり、水質汚染(47%)や気候変動(45%)に対する懸念よりも低い。国別で高い懸念を示したのはギリシャとオーストリア(共に43%)、次いでキプロス(39%)であり、最も懸念が少なかったのはマルタ(12%)、次いでフィンランド(14%)だった。Greenpeaceなど環境保護グループは、欧州委員会がGM作物の商業化を新たに認可する場合、これらの消費者懸念について認識すべきであると述べている。
一方、米国の南イリノイ大学では、4月30日、英国を対象とした最近の2つの世論調査の結果から、EUの消費者はGM作物受け入れの準備はできていないが、受容に向かっての明白な動きがあるという論評がなされた。英国民の45%は、「決してGM食品を買わないだろう」と答えたが、平均35%が「あまり高価でなければ買う」、そして50%近くは「Non-GM食品と比べて断然低価格なら買う」と回答している。
 また、米国企業がアジア・アフリカでGMOとその経済効果から利潤を上げているのを見て、米国に対する欧州企業の競争願望から、バイテク産業は年10%成長している。1社がGM食品を提供し始めれば、他社がそれにならうのは時間の問題だとも分析されている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)