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GMOワールド|宗谷 敏

スクープのつもりが〜Independent紙のMon863報道

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2005年5月30日

 英国のIndependent紙5月22日付日曜版は、Monsanto社のGMトウモロコシであるMon863に関し、ネズミに健康危害があったという同社の秘密研究が暴かれたと騒ぎ立てた。大スクープのはずだが、1週間経っても、他の有力海外メディアはほとんど静かなままである。それはなぜか?

 Independent紙の主張は、Mon863の飼養試験を行ったネズミの一部に腎臓の縮小や血球異常が認められたという1,139ページにわたるMonsanto社の企業秘密報告書の存在が明らかになったというものである。

 最初にMon863について簡単に復習しておこう。MON863は鞘翅(コウチュウ)目害虫抵抗性トウモロコシと称され、コーンルートワーム(根切り虫)に対し有効なBt毒素Cry3Bb1が組み込まれている。03年から米国とカナダで商業栽培が行われており、日本、韓国、台湾、フィリピン、ロシア及びメキシコなどの国々で輸入と食物使用が公認されている。

 それでは、問題のEUでの認可状況はどうなっているのか?Mon863は、単体及びMon810(ヨーロッパコーンボウラーに有効なBt毒素Cry1Abを組み込み)をスタッキング(掛け合わせ)したハイブリッドの2系統がドイツから申請されている(現在の一部報道の混乱振りの一因はこの部分にもあると思われるが、そのことは後述する)。

 これらの申請に関する安全性評価はEFSA(欧州食品安全庁)に依頼されたが、実は、この段階で、今回問題にされているRat Studyのデータは既に注目されていた。フランスのバイオテクノロジー委員会から、ネズミのオスに白血球の増加や腎臓の縮小が、メスには網赤血球の減少が認められると、EFSAに対し安全性に疑義が提出されたからである(04.07.06.農水省国際政策課のページ「海外農業情報」フランス編参照)。なお、米国においても遅れて04年11月16日、環境保護団体がこれを問題にした(04.12.01. 「ニッポン消費者新聞」)という。

 このフランスの主張も踏まえたEFSA GMOパネルの検討結果は、04年4月19日に公表されており、Mon863単体に対して肯定的結論を与えている。この結論に従いEFSAは、同年4月20日、Mon863単体に関しては域内販売を認める判断を下した

 しかしながら、Mon863×Mon810ハイブリッド系統については、意見が分かれた。掛け合わせの場合、Mon863とMon810の安全性が確認されていれば、通常安全性審査は不要である。しかし、Mon863×Mon810については、慎重を期してRat Studyを含めさらに検討が必要という意見が出されて、合意に達することが出来なかった。

 このEFSAからの答申を受けて、05年5月17日、Mon863単体の認可に係わるEU加盟国専門家の食品・飼料委員会が開催されたが、合意に失敗したのは先週の拙稿でお伝えした通りである。

 この投票で注目されるのは、疑義を提出したはずのフランス自身が賛成に回っていることだ。このことは、フランスから提出されたRat Studyへの疑義が、既に解決済みであることを示唆している。つまり、Mon863単体については、EFSAにおいてこの問題はクリヤーしているのだ。

 しかし、もしIndependent紙のいうMonsanto社の1,139ページ企業秘密報告書をEFSAがレビューしておらず、そこに何らかの新しいデータや知見が含まれているなら、話はまた別の展開を見せるだろう。

 では、この点はどうか?Monsanto社の反論は、飼養試験の結果は、重要でない統計上の相違を反映するだけであり、問題となっているRat Studyを含むすべての必要とされるデータをEFSAに提出し、EFSAはこれらの研究をレビューしてから肯定的意見を公表したというものだ。

 安全性審査のために政府機関に提出される開発企業の情報は、知的財産権が含まれる場合には一般に開示されない。英国Monsanto社のサイトには、1,139ページ報告書はこれに相当するとの説明がある。ただし、本社サイトにはRat Studyのサマリーが公表されている。

 一方、EFSAも混乱を回避するため5月24日リリースを出し、そこには、Independent紙のいう1,139ページ報告書は、GMOパネルによりレビューされたとハッキリ書かれている。

 欧州裁判所に対しMonsanto社に報告書を公開するよう官民からの圧力があると相変わらず意気軒昂なIndependent紙だが、論点を公開問題ヘとシフトさせてはいるものの、これでは約1年周回遅れの蒸し返しだったということにもなりかねない。

 このEFSAリリースには、Mon863×Mon810ハイブリッドについては前述の通り、EFSA内部でもまだ意見が纏まらず、ネズミヘの飼養試験を含む追加データがMonsanto社に要求され、これらを現在レビュー中であり、既にRat Studyも含め安全と結論したMon863単体との混同を懸念する記述がある。

 例えば、5月23日付のAFPが取り上げている、EFSAのメンバーでもあるイタリアのGiorgio Calabrese教授のコメントなどは、後段からMon863×Mon810ハイブリッドに関するものだと伺えるが、上述の背景を知らない一般読者にとっては実に紛らわしく、極めて分かりにくい。

 一つのデータに対する解釈が、研究者個人の見解あるいはその扱う専門領域の差異によって意見を異にすることはままあることだろう。それらを集約して全体的合意の下に総合的判断を下すのがEFSAの役割ではないのか。Calabrese教授のコメントにあるように、5月17日の投票の結果が、各国で割れている個別の意見を反映しているならば、せっかく鳴り物入りで創り上げ、教授自身も属するEFSAの存在理由自体が問われるような気がするのだが。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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