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GMイネ商業化@アジア〜IRRIからの進軍ラッパ

宗谷 敏

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 11月19日から23日までフィリピンのマニラにおいて、第5回国際米遺伝学シンポジウム(the 5th International Rice Genetics Symposium-RG5)が開催された。5年毎の開催のため、イネゲノム解読完了後としては初の集会となり20カ国700名以上の科学者が参加、メディアでもGMイネを巡る話題が目立った先週だった。

 RG5のホストは、国際イネ研究所IRRI(the International Rice Researching Institute?IRRI)が努めたが、まずは同所Mahabub Hossain博士の研究に基づくリリースから。

 「世界のイネ栽培面積は、直近33年間で1億4900万ヘクタールに拡大したが、コメ生産量は5億8900万トンであり、13年間で14%しか増えていない。在庫率は下落しており、水資源の欠乏と耕地転用がイネ栽培の機会を減じている。

 人口増加率を考慮すれば、2010年には世界的なコメ不足が予想される。これに対するブレークスルーは、干ばつや土壌による高塩分に耐性のある品種、病気と害虫に対する抵抗性を持つ品種の開発だ。特に、熱帯地方向けの新しい品種とハイブリッドイネの採用は決定的だ。」

 ごもっともだが、トウモロコシやワタと異なりコムギ、コメなど純食用植物のGMには依然Greenpeaceなどからの抵抗が強い。このあたりを、IRRIのコンサルタントGurdev Singh Khush氏に取材したのがReutersだ。

 「現在30億人のコメの消費者が、2030年には10億人増える。その70%を占めるアジア人のために耕地面積の限界を考慮しつつ十分な食糧生産を維持するには、バイオ工学が非常に重要となりつつある。最良の品種により、ヘクタール当たりの平均反収を現在の3トンから4トンに増やせるだろう。

 Greenpeaceなどが反対したにもかかわらず、フィリピンでは02年にGMトウモロコシが商業化された。アジアでは、次の2年でBtイネ米が商業化され、白葉枯病に抵抗性を持つXa21遺伝子導入イネや、ビタミンA強化米のゴールデンライスが次の数年で実用化されることが予想される。今後の5から7年で、これらへの反対は消滅すると自分は思う。」

 たしかにGreenpeaceも、ゴールデンライスへの反対には腰が引けている。これを先兵とした方が一般受けはいいと思うが、反収向上に直結するBtイネの魅力には抗しがたい面も理解できる。推進派から食糧保全問題を前面に押し出されると、環境問題が主要武器の反対派はちょっと苦しい。ここからは、注目されるアジア2国の状況を眺めてみよう。

 最初は、10年の研究の後、04年にGMイネの商業化に踏み切ったイランhttp://www.mb.com.ph/(05.11.25. Iran releases world’s first Bt rice)。「イランが商業化したのは、Tarom Molaiiという香り米にcry1Ab遺伝子を組み込んで茎に潜むコブノメイガの幼虫に抵抗性を持たせたBtイネだ。

 しかしながら、この品種の反収はヘクタール当たり2トンと低い。通常25%がコブノメイガの被害を受けるが、 Btイネはヘクタール当たり2.2トンの収穫をもたらし、農家に10%の産出利益を与える。2シーズンに数千ヘクタールが商業栽培された。

 イランの次のターゲットは、高反収GMイネの開発である。自給が可能となる(現在イランは、60万ヘクタールにイネを栽培するが、自給率は3分の1で、100万トン程度を輸入に頼る)ようコメの平均反収をヘクタール当たり6トンに上げるのが目標である。多くの国がヘクタール当たり10トンの平均反収を実現しており、これは可能だと思われる。

 Btイネは10年に及ぶ厳しい安全性審査を受けた。Btイネは農薬スプレーから農家を解放する。毎年、殺虫剤の誤用事故による死者が報告されている。この10年はあまりに遅すぎたかもしれない。中国はGMイネでいい仕事をしているが、我々がしたように大衆と良く話し合うべきだ。」

 その中国であるが、11月23日から3日間の予定で、北京で開催されている中国国家農業GM作物バイオセーフティー委員会が注目を集めている。4つのGMイネの品種に関する商業化申請が提出されているらしい。しかし、委員会内部で合意を得るのは難しいだろうというのがReutersの観測だ。

 昨年12月、委員会が了承したXa21 GM米を、中国政府は認可しなかった。また今年4月の湖北省などで違法にGMコメが販売されているというGreenpeaceの告発と、それに対する日本、韓国などの反応が、中国政府に二の足を踏ませているとみられる。

 人口増加はかなり確実性の高い予測であるから、アジア諸国のGMイネへの傾斜も理由のないものではない。GMへの社会的受容が進まない日本は、Non-GMコメの自給は可能だろうが、周辺諸国のGMイネ包囲網にどう対応していくのだろうか。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)