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GMOワールド|宗谷 敏

間接的影響にこそ注目すべき〜WTOパネルGMO中間裁定

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2006年2月13日

 2006年2月7日、米国などがEUのGMOモラトリアムを提訴していたWTO(世界貿易機関)パネル(紛争処理小委員会、スイス、インド、日本の3名で構成)中間報告をめぐり、久しぶりにGMOワールドは沸騰した。ブリュッセルやワシントンD.C.で、手練れの記者たちが筆を振るい、一言居士の評者たちも各々論説を展開してみせた様子は、なかなか壮観であった。

 しかし、紛争当事者のみに配布された1050ページに及ぶと伝えられるパネルの報告書から、リークされた情報はあまりにわずかであった。このため、いきおい腕っこきの料理人や有名シェフが、500円限定の食材を相手に料理の腕を競い合ったような状態となる。

 これはこれで面白いのだが、結果として、付け合わせに工夫が見られるものの、EUをミンチにし星条旗も立てた「米国勝利!」というハンバーグ中心のお子様ランチだけが、巷に溢れることとなった。もちろんEUがあまり声高に主張しなかったせいもあるが、これだけ海外各メディアの論調が揃って一方向へ流れたのも、GMOワールドでは珍しい。

 事実関係に関する記述はどれも似たようなものが、カバー率の高いAP電を貼る 。98年10月に始まり04年5月のBt11の承認をもって終わるEUのGMモラトリアム(承認手続きの凍結、結果として禁輸措置に相当)は保護貿易主義に基づくという米国、カナダおよびアルゼンチンの主張が認められた。

 また、EUが承認済みGMOの輸入や栽培禁止を継続しているオーストリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリアおよびルクセンブルグの域内6カ国は、EU規則を適切に実行していなかったと判定された。WTOという組織の成り立ちや目的、性格を考えれば、この結論は十分に想定の範囲内である。

 モラトリアム解除の条件として、EUは02年10月の新環境放出指令(Directive 2001/18/EC)や04年4月の食品・飼料規則(GM Food & Feed Regulation 1829/2003)などにより、表示や閾値、トレーサビリティなどの整備を行った。米国側はこれらにも不快ではあるが、時間的順序からも今回の提訴の争点とはなっていない。仮にここまで踏み込んでいれば、帰趨は微妙だが米国側が負けた可能性もあっただろう。

 また、欧州委員会は、GMO規則に不服従の域内メンバー国に対し現在圧力を掛けており、これらの最近の動向からも今回の裁定は、制裁金などの問題を除き当事者間ではあまり直接的インパクトを持たないと考えられる。EUの落ち着き振りに理由のないことではないのだ。当然ながら、EU側の体勢が整うまで、WTOパネルが裁定を引っ張ったという穿った見方もできよう。

 むしろこの予備裁定の影響を間接的に蒙るのは、アフリカ諸国をはじめとするGMOに対する態度を決めかねているグループだろう。特にGMOに否定的な諸国が身を寄せていたEUの傘は破られてしまったのだ。その辺ヘも視点を向けたReuters はさすがと言える。

 予備裁定を梃子に、GM商業化が順調なのは南アフリカ共和国のみであるアフリカが、GMOを受け入れるよう米国は駆り立てるだろう。しかし、ザンビアは徹底的に抵抗するという同国政府関係者などのコメントを、この記事は中心としている。受け入れの諾否は別としても、GMOに対する法規則を持たなかったり不完全だったりする諸国は、その策定や整備が早急に必要となってくる。

 今回のEU6カ国の敗退で明白なように、リスクに関する明確な科学的証拠を出せない以上、GMOという局地戦ではもう反対派には勝ち目がない。WTOが象徴するグローバリズムへの反対など、より広範な理念的方向ヘの戦術転換が求められる。

 折しも、2月10日米国コーネル大学でのイベントに参加しようとしたフランスの戦闘的な反グローバリゼーションの旗手Jose Bove氏は、JFK空港で当局から入国を拒否され、パリヘ去った。火ぶたは既に切られているのだ。

 ところで、バランスのGMOワールドにおいて、WTOと対極的位置に立つのはカルタヘナ議定書である。カルタヘナ議定書第3回締約国会議は、来る3月13日から17日 まで、ブラジルのクリチィバにおいて開催される。懸案の第18条(LMOの取扱、輸送、包装、表示)および第15、16条(リスク評価およびリスク管理)が論じられる予定である。

 筆者は03年5月のWTO提訴の時点で、米国の「苦い勝利」 を予想していたが、メディアがWTOにおける「米国勝利!」を喧伝すればするほど、この締約国会議における途上国勢力の抵抗はいや増す。途上国寄りのスタンスを取ってきたEUは第2回あたりから軟化しつつあり、ややEU寄りのポジションを取ってきた我が国の調整者としての動向も注目されよう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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