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GMOワールド|宗谷 敏

実験室で成功しても〜市場に出ないGM・クローン動物食品

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2006年4月3日

 2004年2月9日、マウスの体内にオメガ-3系脂肪酸を発現させることに成功したという話題を取り上げた。この研究グループは、体細胞クローン技術も組み合わせた結果、今度はブタでも同じ操作に成功したと06年3月26日付の電子版「Nature Biotechnology」に発表した。

 研究グループは、米国ハーバード大学メディカルスクール、ミズーリ大学およびピッツバーグ大学の混成チームで、発表論文には17名の研究者が名を連ねている。食味が良いことで有名なスペイン原産イベリコブタの胎児の体細胞に、線虫シー・エレガンス(Caenorhabditis elegans)のfat1遺伝子を組み込んで、この体細胞を基にクローン技術で仔豚を誕生させることに成功したという。

 EPA(エイコサペンタエン酸)などに代表されるオメガ-3系脂肪酸の利点や、米国の食生活が偏っているオメガ-6系脂肪酸については、重複になるため前掲の拙稿を参照願いたい。fat1遺伝子は、動物体内中のオメガ-6系をオメガ-3系に変換する働きがあることが知られている。

 健康にメリットがあり、食味も良く、価格が安い次世代GM食品開発は、バイテク企業などの目標になっているが、動植物中の脂肪酸組成変更は現在もっともポピュラーな取り組みである。その中でもオメガ-3系脂肪酸関係は人気が高く、30以上の研究施設が取り組んでいると伝えられる。農産物では、米国Monsanto社や同DuPont社の開発パイプライン上にも存在する。

 大企業による植物体での開発を尻目に、動物体ではマウスでの実験成功から2年余でブタが成功した訳だが、今回の研究でスポークスマンを務めたハーバード大学メディカルスクールのJing X. Kang準教授は、ウシやニワトリでの研究も進んでいることも示唆した。オメガ-3系脂肪酸に富んだ牛乳やタマゴの誕生も近いかもしれない。

 しかし、これらの商品化となると、まだまだ道のりは遠いと言われる。健康油脂だ、ヘルシーベーコンだとはしゃぐ報道もある一方、「New York Times」などを代表格として実用化へのハードルの高さに触れる慎重な論調も目立った。

参照記事1
TITLE: Healthy bacon, anyone?
SOURCE: The New York Times, by Gina Kolata
DATE: March 27, 2006

 品質や安全性を向上させるために遺伝子操作することへの意見を求めた場合、食味が悪くならない限り(今までの開発の多くがここでつまずいている)、消費者の受容はかなり肯定的だというカリフォルニア大学デービス校消費者研究センターの調査結果もあるが、動物の遺伝子操作やクローン技術はまた別である。

 まず、動物愛護グループによる倫理観に根ざした反対という相当高い壁が存在する。一般消費者の受容においても、同じく状況は厳しいようだ。去る3月23日、農水省の農林水産政策研究所主催で「農業バイオテクノロジーをめぐる政策と倫理」と題された特別研究会が東京で開催された。

 講演したミシガン州立大学哲学科のPaul B. Thompson教授は、植物の組み換えより動物の組み換えに対する抵抗感がより強く、動物のクローニングを不快と感じる人の数が際立って高いという05年11月にPew Initiativeにより実施された米国消費者意向調査の結果を示された。

 さらに、こと動物となると規制当局の姿勢も極めて慎重だ。FDA(食品医薬品局)は、現在に至るまで食用動物の遺伝子組み換えを1件も認可していないし、クローン動物由来食品自粛要請も、たびたび解除するのではという憶測は流れるが、実現していない。FDAは、今回のオメガ-3系リッチブタに対しても、商品化は何年も先になるだろうというコメントをすばやく出している。

 他の白身魚の遺伝子を導入し、成長ホルモン製造を恒常的に促進させた結果、成長が止まる冬場でも成長を続けるサケが、米国Aqua Bounty Technologies社による最初の認可申請から9年経っているのに、FDAがいっこうに認可しようとしないのは有名な話である。

 これでは開発企業も二の足を踏む。今回のGM・クローンブタが大学の研究室から誕生したことは象徴的だ。そして、おそらくオメガ-3系関連の商品化は、企業が開発・研究している植物体の方が、結局早くなると思われる。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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