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今後の政策にどう反映されるのか?〜EUの共存問題会議

宗谷 敏

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 2006年4月5日と6日の2日間にわたり、欧州委員会と現大統領職にあるオーストリアの共催により、「遺伝子組み換えと慣行および有機農産物の共存−選択の自由」と題された会議が開催され、共存問題を論ずるためEU加盟25カ国がウィーンに集結した。

 5日の全体会議で注目を集め論議を呼んだのは、欧州委員会において農業・農村開発を担当するMariann Fischer Boel女史(デンマーク)と、同じく環境を担当するStavros Dimas氏(ギリシャ)のスピーチとコメントである。案の定というべきか、GM安全性に対する両者の見解が見事にすれ違ったのだ。

 普段からGMOに対しネガティブな見解を採る国であるギリシャのDimas氏は、EFSA(欧州食品安全庁)が実施しているGM食品の安全性評価そのものに対する疑義を表明した。バイオ産業によって提出された情報に頼り過ぎであり、長期にわたるヒトや動物の健康と環境影響についての懸念さえ述べた。

 一方、Boel女史は、EFSAによる科学的安全性評価への信頼に基づき、完全に安全性が証明されないGMOはEU市場に入ることを許されないから、共存は健康や環境保護の問題ではないし、リスクマネージメントのツールでもないと主張した。すべてに適合する唯一絶対な共存へのアプローチはないので柔軟性が必要だが、GMOは既にここにあり、ヨーロッパの人々はそれらに慣れるべきであるというのだ。

 良くも悪くもこの会議におけるスポットライトはDimas氏の爆弾発言に集中してしまったようだ。5日の午後開催され、6日に結果報告された各論を論じる3つのワークショップは、ほとんどメディアから取り上げられることはなかった。

 当然ながらDimas氏の発言に反応し強く反発したのは、バイテク企業の連合体であるEuropaBioなどである。もともと彼らは、このイベント自体へ不満を露わにしていた。スペインなど既に共存農業の経験がある農家や、英国などで共存問題を実際に研究してきた専門家が呼ばれていないという理由による。

 Dimas氏は明言こそ避けたが、発言の延長線上には現在安全性承認済みのGMOの安全性再評価という問題も見え隠れするから、EuropaBioとしては心中穏やかではない。現在の安全性評価システムを継続するよう早速ロビー活動に入った。

 この共存会議に先立つ4月3日、EFSAはGMトウモロコシのスタック(掛け合わせ)4系統に関してのリスク評価を公表し、パブリックコメントを求めている。例のRat Studyでいわく付きのMon863×Mon810ハイブリッド系統も含まれており、EuropaBioの心配も分からないではない。

 一方、Greenpeaceなどの反対派は大満足なのかといえば、もちろんDimas発言を歓迎しはするが、実はそうでもない。Greenpeaceは英国のGeneWatchと共同で、GM Contamination Report 2005 を、この共存会議に先立つ3月8日リリースした。世界中でGMのコンタミが起きており、共存なんて不可能、ナンセンスだというアピールである。

 GreenpeaceやFriends of the Earthの基本姿勢は、ヨーロッパからのGMO完全追放であるから、地方がGMOフリーゾーンを設ける権利を否定し続けたBoel女史は目の仇だし、GM汚染とそれを防ぐ方法を見いだし得なかったこの会議は失敗だったと評価しているのだ。

 前から思うのだが、こういうまとまりそうにもない会議の結論を書かせると、玉虫色に輝いてヨーロッパ人は実に上手い。反対派のガス抜きをDimas氏に一手に演じさせて、細かい議論から目を逸らさせたとするなら、シナリオや演出も巧みである。

 この共存会議の結果も踏まえて、欧州委員会はGMO政策レビューのために近々会合する予定だ。その経緯や結果を見れば、ウィーンの千両役者や曲者たちが、どこまで本気で、どこまで演技だったのか、ある程度明らかになるだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)