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喰うか、燃やされるか?〜Food vs. Fuelというシナリオの現実性

宗谷 敏

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 2006年1月31日の一般教書演説で、Bush米大統領はトウモロコシをはじめとするバイオエタノール製造技術の開発を推進し、中東からの石油輸入量を25年までに75%削減したいと述べた。今週は、拍車がかかったバイオ燃料への切り換えが、米国の食糧生産部門にどう影響するのかという関心に基づく記事の紹介である。

参照記事1
TITLE: US farm economy revs up ethanol-fueled engines
SOURCE: Reuters, by Sam Nelson
DATE: May 9, 2006

 「エタノール業界によれば、昨年57億ドルで世帯収入を引き上げ、15万3千人の雇用を創出して急成長するエタノール産業が、米国の地方経済の風景を変えている。現在、米国内で利用可能なエタノール生産工場が97、能力45億ガロン(1ガロンは約3.8リットル)あり、35工場が建設中で、能力22億ガロンが1年〜18カ月以内にこれらに加わる。

 若干の専門家がエタノール産業の急成長が食糧供給量を減らすかもしれないことを懸念している。Cargill 社の会長CEOは、『農地使用には価値のヒエラルキーを考慮すべきであり、最初に食品、次に飼料、最後に燃料』と述べた。

 一方、Archer Daniels Midland(ADM)社会長は、『食物を作るための能力は充分にある』としてこの食糧消費対燃焼議論を否定した。ADM社は、既存のエタノール生産工場に加え年産2億7500万ガロンのエタノールをトウモロコシから得る工場増設を計画している。

 Cargill社の言うfood-versus-fuel のシナリオが起こるには、エタノール用途がさらに増大しなければならないであろうと、アナリストが言う。『エタノール生産用に使われるトウモロコシが15%の現状は、重要な政策的考慮には当たらない。しかし2010年までそれが25%以上に達し、さらにトウモロコシが少ない収穫状況になれば、我々はこのシナリオに直面し、重要な問題になるだろうと思う』

 米国農務省は、エタノール生産に使われるトウモロコシの量は、今年の16億ブッシェルから来年20億ブッシェルもしくはトウモロコシ産出のほぼ20%にはね上がるだろうと推測している。米国エネルギー省は、昨年のエタノール生産が39億ガロンでレコードに達し、07年の終わりまでにエタノール生産が52億ガロン以上になるだろうという予測する。

 Cargill社CEO は、補助金がエタノール経済学をゆがめていると指摘した。政府はガソリンに混ぜる燃料用エタノールの精製業者に優遇税金措置やガロン当たり51セントの補助金を与えている。さらに、先週Bush大統領は、ガロン当たり54セントのブラジルからのエタノール輸入関税を撤廃すべきであると発言し、物議を醸している。

 『我々は輸入エタノールを必要としないし、ブラジルにもエタノールが余っている訳じゃない』エタノールの草の根のサポーターたちは、米国の生産者が単独で十分な量の『緑の燃料』を作り出せると主張する。

 計画立案者は、エタノールと農業の明るい未来を見るが、米国が高騰するエネルギーコストと外国の石油依存脱却に取り組む道は平坦ではない。それは、農業関連産業にいくつかの非常に挑戦的な質問を課す。『エタノール工場の利潤差額は現在目を見張るようだ。大きい工場が1年以内に買収されている』と前出のアナリストが言う。

 いつかエタノール需要が、農民のトウモロコシ生産能力より速く進むかもしれない。このシナリオが、エタノール工場ための原料の鍵としてスイッチグラス(キビ属の牧草)に依存するビジョンを現出させる。『究極的にはこのバイオマスが、それを解決すると思うが、キーイシューはどれだけ速く安価に酵素技術を得られるかだ』、とアナリストが言った。」(記事抄訳終わり)

 これに答えるかのように、Biotechnology Industry Organization (BIO) は、同9日付のリリースで、バイオ工学を利用した酵素が、エタノールをガソリンとコスト的に競合させ得ると発表した。

 エタノールの盛り上がりの陰で、ヨーロッパに比べると米国では植物油を利用したバイオディーゼルの方は、イマイチの感が強い(ヨーロッパのバイオディーゼル生産は06年の約450万トンから10年までに1,350万トンに達するとの民間予測もある)。

 しかし、こうなってくるとアメリカ大豆協会(ASA)も黙ってはいられない。翌10日付のリリースで、ダイズ農家だって、ダイズ油バイオディーゼル生産を通して、立派にお国のエネルギー需要を満たすお手伝いができますよ、と主張する。

 さて、米国からの農産物輸入に大きく依存する日本、産地側の経済・産業構造の変化には敏感にならざるを得ない。農水省は、ナタネが買えなくなったら意味がないこぼれ落ち調査だけではなく、このあたりのシミュレーションも怠りなく進めていることと思う。「買ってやる」から「売って頂く」という時代への移行は、案外早く訪れるかもしれないのだから。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)