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GMOワールド|宗谷 敏

飼料についての虚しい検証を試みる〜ロシアのRat Study再び(2)

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2006年7月11日

 昨日に引き続き、ロシアのIrina Ermakova博士が行った妊娠ラットおよび仔ラットに対するGMダイズ飼養実験に使用した飼料について、博士の講演会と書かれた資料から検証を試みる。しかし、論理性と整合性を欠くとしか思えない場当たり的な博士の発言と既に書かれていることとの矛盾、開示されてない情報に筆者は当惑する。

 ともかく、続けよう。(3)GMダイズから分離されたたんぱく質については、博士の「たんぱく分90%」という発言から、この数値に相当するADM社のダイズたんぱく製品も存在はする。しかし、その原料が100%GMダイズだとはカタログのどこにも書いていないし、同社がGMダイズ由来たんぱくだと主張するはずもないので、こういうADM社製品は存在しないことになる。例の幸運や、特注という逃げ口上は依然健在だが。

 (1)GMダイズ粉と(2)Arcon SJとの比較において、博士の書いていることはデタラメだと先に述べた。まず、(2)Arcon SJが在来種のダイズ品種ではないことは既に説明した。「GMダイズと同等の成分および栄養価を持つ」のかどうかについても、既に述べたとおり答えは否である。

 一般に(1)の組成(ADM社のNutriSoyの例)は、たんぱく質40%から42%(乾燥ベース)、脂肪19.5%から23.5%、食物繊維10%から12%なのに対し、(2)(ADM社のArcon SJ)は、たんぱく質68%、脂肪3%、食物繊維19%である。これはもう微量成分が違うどころの話ではない。

 同じGMダイズの世代間摂食実験を行った米国のBrake and Evenson の論文でも、最初に提示されるのはGMとNon-GMのダイズの微量成分比較表であり、両者に有意差のないことが確認されている。同じく論文準備中の東京都の実験担当者も、このGMとNon-GMの飼料に微量成分まで有意差が無いように調整するのが最も大変で、苦労したと聞いている。

 要するに微量成分の領域まで両群に与える飼料に差が無いように調整しなければ、動物摂食比較試験は成立しないのだ。死因が何に起因するのかどうかも正しく特定できない。動物摂食実験は専門外の神経科学者である博士の「簡単よ、食べさせてみればいいだけよ」(06年1月、東京における医療安全国際フォーラム一般発表会後の発言)では、絶対にないのである。

 筆者があれこれ書くまでもなく、この実験は根本的に正しい動物摂食実験として成立していないことは、その道のプロである財団法人残留農薬研究所・生殖毒性研究室長青山博昭氏が指摘され、そのことを松永和紀氏が先週のFOOD・SCIENCEに書かれているので、ご参照頂きたい。

 次に、生ダイズの毒性についての問題は、どう考慮されているのか?ロシア初出の論文中DISCUSSION(考察)の1パラグラフ目には次の文章がある。Since it is well established, that raw soyabean contains a number of antinutrients (such as the lectins, trypsin inhibitors, etc. 〜it was thought to be necessary to compare these data also with those from a positive control group, from animals not exposed to any soya flour supplementation.

 「生のダイズには毒性があるから、(ダイズを与えた群の)データを、ダイズ粉を全く与えなかった群と比較する必要があると考えた」と述べているのだ。この種の摂食実験では、一切ダイズ製品を与えない対照群は当然必要であるが、その理由として、これはおかしい。ヒトが食す状態にするためには、予め加熱したものを使うか、自分で加熱して毒性は除去できるからだ。

 これだと、博士は(1)生のダイズ(粉)には、加熱されておらず毒性がある可能性を想定している。さらに、7月4日の福岡会場で松永和紀氏の質問に(1)生のダイズ粉が、加熱されてあったかどうか知らないと回答している。そして、7月9日のつくば会場では、ADM社に確認した結果、(1)のダイズ粉は食品用で加熱してあると述べ、漸く後出しで本件に決着をつける。

 しかし、何かおかしい。生の毒性を認識しており、加熱してあったかどうか知らない状況で、(1)のGMダイズ粉投与群の死亡率が高かった。であるなら、まず常人なら疑うのはGMダイズ粉が非加熱であった可能性であろう。しかし、博士にはその確認作業を行った形跡や論述はない。いきなり自分が主張したかったプラスミドDNA仮説に飛びつく。

 これでは、はじめから結論ありきである。加熱してあったか、カビ毒や農薬残留はないか、成分に腐敗劣化はないかなどは、サンプルさえ残してあればいずれも比較的容易に事後検証し、結果如何では排除できる推定要因である。しかし、飼料のレビューが試みられた形跡はない。

 さらに、致命的なのは、通常飼料とダイズ製品飼料を、ラットが自由に選択摂取できるような環境で、どの個体がどちらの飼料をどれだけ摂取したかのデータがない。母ラットの乳は仔ラットをすべて育てるには少ないので、間引きもされなかった仔ラットが栄養不良でお亡くなりになったというシナリオも充分ありそうに思える。

 こんなデタラメの実験手順や結果から、何が正当に推論できるのだろうか?筆者が1月に懸念した通り、すべてが曖昧なままに死亡率データの数字だけが一人歩きして、虚しい推測と後出しの論理一貫性を欠く弁解が後を追う。神は細部に宿るが、時にガセに間貸しをされるのか?

 実は、このような虚しい検証をいくら続けても、博士のGMダイズの中のよからぬものが・・・仮説を完全に否定することはできない。しかし、ちょっと考えて頂きたい。商業化されて10年、今や大量生産されているGMダイズの摂取に起因する事故は、人畜とも世界で一例も記録されていない。これが事実である。Brake and Evensonと東京都の反証実験もある。

混乱を避けるために、博士が現在において開示していない飼料に関する情報をまとめておこう。
I.(1)オランダADM社から購入したと述べているGMダイズ粉の商品名および購買記録
II.(3)米国ADM社製だと述べているGMダイズから分離されたたんぱく質商品名および購買記録
III.定量PCR分析の結果、100%GMであったという(3)分離たんぱく質について、ADM社の100%GM製品であるという証明、または原料ダイズとして言及もしくは記録されているGMダイズが100%GMであるという根拠およびADM社の証明

 筆者は、今年1月末、本件についてFOOD・SCIENCEに既に一度書いており、その時、この実験に対する疑問点も整理し提示しておいた。英国の食品規格庁(the Food Standards Agency)はじめ、立場や専門が違っても、この実験レポートを読んだほとんど方たちに共通する疑問だ。

 しかし、今回の来日では、これらの疑問に対し博士からはまともな解答も、目新しい進展も一切示されなかった。筆ならぬキーボードが汚れるから、FOOD・SCIENCEにこの話はもう一切書かないつもりでいた。今回、このあまりに虚しい検証作業を長々行いながら、胸中に去来する諸々の思いは、松永和紀氏が先週余すところなく代弁してくれているので敢えて繰り返さない。

 なお、似非科学の撲滅に尽力されたことで有名な米国の故・Carl E. Sagan博士は、似非科学の特徴をこう説明されている。「不十分な証拠だけでどんどん話を進め、ほかの可能性を示す手がかりには目をつぶる」。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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