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GMオメガ-3系油脂植物の開発競争–BASF社とDuPont社

宗谷 敏

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 魚の脂肪に多く含まれ健康に良いとされるオメガ-3系脂肪酸を、GM技術などを利用して植物体から摂取できるようにしようとする計画は、GMOワールドでも過去何回か取り上げてきた。この分野でのドイツBASF社および米国DuPont社の最新動向に関する記事を紹介する。

参照記事1
TITLE: Industry races to get green, GM omega-3 from plants
SOURCE: Food Navigator by Stephen Daniells
DATE: July 31, 2006

 魚資源の減少に対する懸念と水銀などによる汚染問題が、健康に良いとされるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタン酸)などのオメガ-3系多価不飽和脂肪酸を、他の供給源に他に求める動きに拍車を駆けている。

 非組み換えの微細藻類から抽出されたDHAが既に販売されており、植物体からも、DHAやEPAに体内で代謝されるα-リノレン酸を多く含むアマニ油やシソ(エゴマ)油がある。しかし、これらは生産量も少ないやや特殊な油脂であり、短鎖オメガ-3系脂肪酸であるため、魚油由来のEPAなど長鎖オメガ-3系脂肪酸に比べて効率は落ちる。

 そこで、遺伝的組み換えというタグは消費者から受け入れられると想定して、ダイズやアブラナ類など他の植物体で、DHAやEPAを持続的かつ汚染なしに作れないかということが考えられてきた。

 DHAとEPAの両方を増やすことを狙うDuPont社は、GM技術により重量比で最大40%の長鎖オメガ-3系重不飽和脂肪酸(VLC-PUFAs)を含むダイズを開発し、栽培試験を目指していることを発表した。ダイズなど植物体に通常含まれるオメガ-6系脂肪酸を、菌類(Saprolegnia diclina)から得られた酵素を付加的に用いることにより、VLC-PUFAsへ変換させることに成功したという。

 一方、BASF社はEUが後援しヨーロッパ25の研究機関がコンソーシアムを組むLIPGENEプロジェクトに参加している。LIPGENEプロジェクトは、通常魚が含む脂肪酸レベル(10%から20%)を越えるEPAが含まれる植物体群を既に開発している。それらの植物には、アマニ、ダイズ、シロイヌナズナ、カラシナおよびナタネが含まれている。

 これらの植物体が脂肪酸を生産するとき、化学的なステップを付け加えるため植物体のゲノムに遺伝子を挿入することが計画される(記事にはその詳細に関する説明があるが、紙数の関係とかなり専門的な記述なため省略)。EPAレベルを上げる技術開発の報告は多いが、さらに手間のかかるDHAの方はより少ない。

 DuPont社とBASF社はこの分野での主要なプレーヤーだが、米国Monsanto社など、他社も関心を示している。Monsanto社について、この記事ではオメガ-3系GMナタネの開発について触れられているが、同日付の他の記事で、同社CTOはオメガ-3系GMダイズの開発の方がむしろ進んでいることを示唆するコメントを出している。

参照記事2
TITLE: Monsanto Chief Technology Officer Set to Present Mid-Season Results on Next- Generation Research Projects
SOURCE: SeedQuest
DATE: July 31, 2006

 また、オーストラリアのCSIROにおいても、ナタネやアマニのような油糧種子植物に挿入できる5つの遺伝子を、オーストラリア領海の海藻から識別したと伝えられる。7年ほどで商品化できる見込みである。

参照記事3
TITLE: Algae genes boost plants’ omega-3 levels
SOURCE: ABC
DATE: April 24, 2006

 油糧作物などの脂肪酸組成改変は、開発各社にとって割とポピュラーなパイプラインであるが、それらのうちでもオメガ-3系脂肪酸の導入・増産は頂点に君臨する技術開発だ。消費者の受容がどう動くのかは興味深いところである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)