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GMOワールド|宗谷 敏

やはりカルタヘナ議定書より強い?〜WTOパネル裁決

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2006年10月2日

 2006年9月29日、WTO(世界貿易機関)GMOパネル(紛争処理小委員会)から1000ページを越える最終報告書が公表された。2月の中間裁定から結論がそう変わっている訳でもないというので、メディアも2月当時ほどは沸騰していない。控訴期間は60日以内だが、原告・被告側双方からそのような動きは無いとの観測がもっぱらである。

参照記事1
TITLE: WTO allows time for appeals before final GMO ruling
SOURCE: AFP
DATE: Sep. 29, 2006

 上記の添付記事は標準的内容のAFPだが、筆者の目を引いたのはIATP:The Institute for Agriculture and Trade Policyからの下記リリースである。EUのモラトリアムは解除されたからこの提訴は無意味だった、EU側も現行GM規制は認められたのだからこの裁定は痛み分けだろうという一般論に、IATPは本当にそうなのだろうかと疑問を呈する。

参照記事2
TITLE: WTO Biotech Ruling Threatens Precautionary Approach-Decision Challenges Europe’s Biotech Regulations – More Litigation Likely
SOURCE: IATP
DATE: Sep. 29, 2006

 IATPは、EUのバイテク規制の一部がWTO規則に違反するかもしれないとう可能性を残したままにしておいた点で、パネルの最終結論は2月の仮の結論とは異なると指摘する。付属文書(K)で、パネルは予防原則のアプローチに「重大な関心」を示した。

 「仮と最終の裁定の結論の比較が、米国、カナダ及びアルゼンチンが成功裏にパネル裁定を変えて、EUをさらにWTOバイオ工学提訴にさらすように圧力をかけた。」とIATPの上級政策アナリストが言う。「規則への予防原則のアプローチが、さらなる提訴の脅威の下で残っていることは非常に残念だ。」

 EUは、モラトリアムを解除したから提訴は当初の意味を失ったと論じ、科学的な不確実性がある場合、署名国に対しGM作物規制に予防原則のアプローチを認める国連カルタヘナバイオセーフティ議定書に言及することによって、WTOに対しその規制システムを弁護した。

 130カ国以上がバイオセーフティ議定書に署名したが、米国は署名していない。WTOパネルは、米国がバイオセーフティ議定書に署名していないことから、EUが議定書ベースの防御策を使うことができないと裁決した。「パネルの法律上の推論は、バイオセーフティ議定書を切り落としてしまう。」

 「多くの議定書の署名国、特に貧しい国が、GM農産物を規定するフレームワークを準備しなかった。もし彼らが、議定書の付託に従ってバイオ工学製品を規制するなら、そして、もし原告が議定書のメンバーではないなら、議定書ベースの規制による防御策がWTOでは勝てないという議定書メンバー国への警告がこの裁定だ。」

 ヨーロッパは、GM農産物だけではなく、有毒性を持つ化学薬品を規制するためにも、予防原則を利用している。しかし、WTOパネルは、予防原則がパネル裁定の基礎とするには国際公法上であまりにも論争的であり、不安定であると裁決した。

 この裁定は、米国とEUの貿易には、ほとんど直接的効果を与えないだろう。EUのシステムは、GM食品と農作物に表示を要求し続ける。EUの消費者は、過度にGM農産物に反対であり、GM食品がスーパーマーケットの棚には見当たらない。(抄訳終わり)

 IATP については、そのサイトを参照願いたいが、このリリースの最後にもあるように「承認済みGM食品表示と、農家、食品加工業者及び消費者に拒否されたコムギのようなGM農産物の商業化への反対を支持」しており、GMに対しては、ニュートラルというよりむしろネガティブな色彩が濃い組織である。

 USDA(米国農務省)やUSTR(米国通商代表部)は、今回のWTO裁定に満足の意を表明しているが、どうやら意味がないことではなさそうだ。一方、the Friends of the Earthの「勝利者も敗北者もいない、何も変えることのない無意味な貿易紛争だった。」という分析は甘いのではないか。WTO提訴とバイオセーフティ議定書の相克及び他国へ及ぼす影響に注目してきた筆者はそう考える。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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