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GMOワールド|宗谷 敏

先週のFSメルマガは「?」–マヨネーズ値上げの理由

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2007年5月14日

 GMOワールドの読者は、2007年5月9日のFoodScienceの定期メールマガジン「マヨネーズ値上げの理由を考えてみよう」を受け取られたことと思う。一部読者は既にお気づきと思うが、残念ながらこの内容にはいくつか事実誤認がある。しかし、ほかの読者のためにも、FoodScienceのためにも、一刻も早く情報提供すべきだと筆者は考えるので、今週は心ならずも身内の記事を検証することに……。

 FoodScienceのWebmaster中野栄子氏は、食用油高騰の理由について、食用油の原料である「ダイズやナタネは米国をはじめとする外国からの輸入もの」で、そのほとんどが遺伝子組み換え作物で、プレミアムを必要とする分別流通により非遺伝子組み換えダイズを輸入してきたことが、食用油の高騰の一因となったと指摘する。しかし、これにはちょっとムリがあると筆者は思う。

 先ず、マヨネーズの原料として使われる食用油は、ダイズ油ではなくナタネ油が主体である。ダイズ油には特有の臭いがあることと、消費者が冷蔵庫保存した場合固まり易いためマヨネーズなどの原料としては嫌われる。サラダ油(ダイズ油とナタネ油を混合)でも、ダイズの配合率が低いスペックがマヨネーズメーカーから製油メーカーに対し特別に注文されているはずだ。

 次に、4百数十万トンの輸入ダイズを用途別に見れば、サラダ油を作る製油用が約300万トン、豆腐・納豆・味噌などの原料となる食品用100万トン強、飼料用他10万程度となる。これらのうち、非遺伝子組み換えダイズが用いられているのは、もっぱら食品用(食用油以外)の世界である。

 なぜ、製油用には非遺伝子組み換えがないのか?遺伝子組み換え作物が本格的に商業栽培された96年、製油業界もほかの食品業界同様その受け入れに関し、経営リスクマネージメントとしての激論があった。しかし、海外事情に詳しい製油業界では、年間500万トンから600万トンに達する原料のダイズ・ナタネを全量非遺伝子組み換えで調達していくことの将来的困難さに気づき、敢えてその道を選ばなかった。

 製油業界は、日本政府により安全性が確認された遺伝子組み換え作物は原料として使用することにしたのだ。仮に製油業界が非遺伝子組み換え調達に動いた場合、対EUに先駆け米国からの対日WTO提訴があったかもしれないので、この決断の持つ意味は大きかった。

 そして、2000年施行の遺伝子組み換え食品表示制度では、消費者が購入する精製油中の組み換えたんぱく質やDNAは消失するか破壊されており、非遺伝子組み換えの油脂製品と実質的に差異がなく、科学的に差異が検証できないという理由から、植物油脂は義務表示対象から外された。科学的にも、経済的にも割高な非遺伝子組み換え原料を使う理由がない訳だ。

 もっとも、非遺伝子組み換え原料由来の食用油がないことはないが、ナタネ(オーストラリア産)が主体であり、一部生協や健康食品向けなど差別化されたニッチな市場向けでしかない。植物油の大口ユーザーの全需要を満たす生産量はないし、仮に量があったとしても価格的にも引き合わないから使えない。

 このように食品用とわずかな製油用を併せても、分別流通される非遺伝子組み換え作物は、世界的市場から見ればミクロな特殊市場でしかない。そして、作物のベース価格にプレミアムをオンするという価格決定構造から、非遺伝子組み換え作物の方の価格が、作物全体のベース価格に影響して、作物価格の全体を先導して押し上げるようなパワーは当然持ちえない。従って、プレミアムを必要とする非遺伝子組み換えダイズを輸入してきたことは、食用油原料高騰の原因にはなりえない。

 食用油原料高騰の原因は、5月10日の朝日新聞など各紙が分析している通り、米国が中東原油依存を脱却するため、国を挙げて取り組みだしたバイオ燃料に求める方が自然だ。米国産ダイズに絞れば、ガソリンに添加するエタノール特需向けトウモロコシの栽培面積増大がダイズ栽培面積を圧迫(イネやワタの栽培面積も軒並み減少している)し、ダイズを使った食用油価格の世界的上昇を招いた。

 米国農業の中核を担う中西部コーンベルト地帯の農家は、販売するときの経済性や連作障害を避ける目的で複数作物のローテーションを行うのが一般的だ。エタノールブームからトウモロコシの作付けを増やしダイズを減らすのは当然の判断である。ダイズ価格高騰に関しては、加えるに国際的には中国の不気味な輸入増加が潜在的に影響しているし、我が国固有の事情として円安推移の為替動向も見逃せない。

 また、非遺伝子組み換えダイズの契約栽培については、米国のトランス脂肪酸表示義務化の影響から、これへの対策商品である米国Monsanto社のVistiveダイズに代表されるような低リノレン酸ダイズが、非遺伝子組み換えダイズより高額なプレミアムを農家に提示している。今や非遺伝子組み換えダイズの手当は火の車で、マーケットの存続さえ危ぶまれているのが現実である。

 ナタネでも事情は同じだ。ナタネの価格は食用油原料として競合するダイズの相場に敏感に影響されるから、ダイズに追従して上昇する。産地国個別事情では、主産地カナダはヨーロッパ中心の世界的バイオディーゼル向け需要を見込み、さらに強気な値付けだ。一方、オーストラリアも干ばつによる大減産に見舞われた結果、価格高騰どころの話ではない。非遺伝子組み換えナタネも必要量調達に日本の業界は四苦八苦なのだ。

 以上が、筆者が考える食用油の高騰の理由とその背景である。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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