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Monsanto社は今–Chromatin社との技術協力が意味する近未来

宗谷 敏

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 今や論争の的である製薬植物をパスして、アグリバイオ一筋を標榜する米国Monsanto社。今後、このバイテク企業の現チャンピオンが、何を目指しどう動くのかは筆者ならずとも気になるところだろう。同社の今後の方向性を占う上でかなり重要な意味を持つと考えられるニュースが、先週2つ並んだ。今回はこれらの分析を試みる。

参照記事1
TITLE: Monsanto Partners With Chromatin Inc.
SOURCE: AP, by Christopher Leonard
DATE: May 22, 2007

 最初は、Monsanto社が、Chicago大学により開発されたミニ染色体技術に特許権を持つ米国シカゴのChromatin社との間に、3年間(延長可能)の非排他的研究協力(Chromatin 社が他社とも技術協力する権利を阻害しない。ミニ染色体技術は、農業以外にもエネルギー、製薬、化学品分野にまで広く利用が期待されるため、この点は重要である。)で合意したという2007年5月22日の報道だ。

 ミニ染色体技術は、染色体から不必要な部分を遺伝子組み換えや突然変異を利用して外し、目的に合致した最小の遺伝子領域を確保した小型の染色体を作って植物に導入する技術である。Monsanto社がミニ染色体技術に目をつけたのは、トレイトの多様化に伴いますます増えていくスタッキング作物を効率的に生産しようとする狙いがあるらしい。

 現在のところスタッキングは、除草剤耐性と害虫抵抗性、複数の害虫抵抗性など限られた組み合わせしか行われていない。しかし、栄養改善や干ばつ抵抗性などの新しいトレイトが今後次々に開発されれば、特許権の問題は措いて、理論上その組み合わせは飛躍的に増加していくことが予想される。

 「我々は農家が我々のすべての新しいトレイトへのアクセスを持つことを望む。Chromatin社 のユニークな技術を当社のリソースに結びつけることで、もっと速く、いっそう効率的にこれらの高付加価値トレイトのスタッキングを届けることが可能であると信じる」と、Monsanto社のCTOであるRobert Fraley氏は述べている。

 Monsanto社が持つ作物パイプラインには、トウモロコシ、ワタ、ダイズおよびカノーラが並び、ミニ染色体技術はそれらすべてへの利用が可能だが、特にトウモロコシについては、Chromatin社に04年から投資してきたトウモロコシ生産者団体であるNCGA(the National Corn Growers Association)から、熱い期待が寄せられている。

参照記事2
TITLE: New Gene Technology May Improve Corn Traits
SOURCE: USAgNet
DATE: May 25, 2007

 ミニ染色体技術は、一トレイトの研究開発から商業化までの予定を2〜3年(25%から40%)早めると推測されるが、それ以外にも利点を持つとNCGAの研究・ビジネス開発部長であるNathan Fields氏はコメントする。導入される植物体本来のゲノムに干渉しないから、新しいトレイトは発現する能力をより強く保ち、より正確に導入されるし、遺伝的組み換えされたトレイトを識別することもより容易になるというのだ。つまり、速さと信頼性を併せ持つ技術である、と。

 因みにMonsanto社は、去る07年3月にはドイツBASF社とも最大15億ドルのベンチャーを共同で立ち上げ、研究開発チーム同士の情報を共有して干ばつや土壌など環境ストレスに耐性を持つ作物開発を早めると公表している。

 2つ目のニュースは、Monsanto社が持ち株会社である米International Seed Group(ISG)社を通じて買収したヨーロッパの果菜種子会社2社に対し、資金投資と技術開発を支援する計画を発表したというものだ。

参照記事3
TITLE: Monsanto buys fruit, vegetable seed firms
SOURCE: St. Louis Post-Dispatch, by Rachel Melcer
DATE: May 23, 2007

 2社は、オランダWestern Seed社とフランスPoloni Semences社であり、詳細については「Monsanto社、国際的な果菜類種子企業に資金および技術支援を行う持ち株会社を設立」というBTJの記事も参照願いたい。

 06年2月に、主要穀物や油糧作物より売上高が小さい果物と野菜への遺伝子工学の適用の難しさに触れたNew York Timesの論評を紹介したが、これからはたとえ細かいビジネスでも、抵抗の強い米国以外でも地道に拾っていこうというMonsanto社の姿勢の表れとも取れる。

 こうして見えてくるMonsanto社の戦略は、大規模栽培される穀物においては基盤である除草剤耐性と害虫抵抗性にさらに新しいトレイトを付与させて進化、リファインさせていく一方、従来あまり顧みられなかった果菜種子についても遺伝子組み換えにこだわらず遺伝子工学をキーとする品質向上を目指すという近未来の2つの方向性だろう。

 スイスSyngenta社や米国DuPont社などの追い上げも急ではあるが、さらに先を見越したMonsanto社のリードを保ちたいこれら戦略も白熱している。これから業界地図がどう塗り変わっていくのか、興味は尽きない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)