ホーム >  FoodScience過去記事 > GMOワールド > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

GMOワールド|宗谷 敏

共同通信でパニくる前に知っておくべきこと–Mon863ラットスタディ

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2007年6月18日

 2007年6月14日、共同通信は「成長や内臓機能に影響か 遺伝子組み換えトウモロコシ」という記事を配信し、一部の一般紙と多くの地方紙がこれをカバーした。例のMonsanto社が行ったMon863の90日間ラットスタディ(02年作成)を巡るデータ解釈の問題なのだが、背景はかなり込み入っているので、流れを整理しておこう。

 本件については、05年5月30日の本稿でも一度取り上げている。Mon863の商品説明などについては、重複を避けるためにも先ず目を通しておいて頂きたい。以下は、この続報ということになる。

 GreenpeaceなどがEUの情報公開制度を理由にMon863ラットスタディの公開を求めた結果、05年6月10日、ケルンのドイツ法廷がMonsanto社に対し資料の公開を命じる。この段階での論争は05年6月24日付のIPSなどに詳しい。

 次に本件が海外メディアに大きく扱われたのは、07年3月である。公開されたMon863ラットスタディのデータを、フランスの反GM的なNGOであるCRIIGEN(Committee for Independent Information and Research on Genetic Engineering)が再分析した結果、上記共同通信が掲載しているようなラットへの悪影響が認められたと発表したからだ。

 CRIIGENによる再分析を指導したのは、フランスのCaen大学Gilles-Eric Seralini教授であり、このペーパーはNew Analysis of a Rat Feeding Study with a Genetically Modified Maize Reveals Signs of Hepatorenal Toxicityと題され、米国のArchives of Environmental Contamination and Toxicology誌宛06年7月18日に送付、同年11月20日に受領され07年3月13日にオンラインで発表された。フルペーパーは同誌07年5月号(ページ596-602)で読める。

 この間の経緯を、我が国において正確にフォローし続けてきたのは、筆者も尊敬してやまない国立医薬品食品衛生研究所安全情報部主任研究官である畝山智香子氏の食品安全情報blogだけである。07年3月16日付では、EFSA(欧州食品安全機関)のCRIIGEN再分析に対するコメントを中心に周辺情報が整理され、さらに3月26日付には背景情報が親切丁寧に纏められている。これらを読まずにMon863ラットスタディを語ることなかれ、なのだ。

 さて、気になるのは共同通信の「欧州委員会は、欧州食品安全機関に研究内容の詳しい分析を要請」という部分だろう。EFSAからは、まだ公式のリリースはなされていないが、07年4月8日には、フィリピンの農業省作物産業局(BPI)が、慎重な言い回しながら03年10月の自国のMon863安全性査定結果を擁護している。

 また、EFSAから新たに意見を求められた域内各国のうち、ドイツ政府機関のBfR(Federal Institute for Risk Assessment)は、CRIIGEN再分析を真っ向から否定し、「観察された統計学的有意差は毒性学的に意味のあるものではないと結論する」との意見書を提出したことが、畝山氏の食品安全情報blog07年4月23日付に拾われている。

 以上から、6月14日付の共同通信及びそのカバー記事でパニくる前に知っておくべきことは、

1.共同通信記事は決して目新しい話題ではなく、溜め記事を吐き出したとしか思えない。
2.本件は、開発メーカー自身による既存の試験データを再分析したものであり、新たに追試が行われた訳ではない。
3.一部のデータにわずかな統計学的有意差があり、CRIIGENはラットへのヘルスリスクの存在を暗示させている。一方、それらは生体の一般的変動の範囲内にあり、摂取量と影響の関係はバラバラであり、一切相関性や法則性が認められないという識者からの反論もある。また、組み換えが有意差の原因となったという確たる証拠はない(故に、哺乳動物への長期飼養試験が必要とCRIIGENは主張)。
4.Mon863に限ったことではないが、遺伝子組換え作物の安全性評価は、たった一つの実験データに基づいて行われるものではなく、より広範なスコープにより総合的に判断されている。従って、Mon863を安全性審査し認可を与えた各国政府のうち、CRIIGEN再分析により見解を改めたところはない。一方、複数の政府機関からCRIIGEN再分析に対する反論や疑義が提出されている。
5.いずれしろ、欧州委員会から委託を受けたEFSAによるCRIIGEN再分析レビューに関する公式コメントが待たれる。共同通信の「日本の食品安全委員会も情報収集を始めた」は、リスクがあるからだろうとも取れるなかなか巧妙な煽り方ではあるが、翻訳すれば「EFSAからのコメント待ちです」程度が正しいと思われる。
 といったところだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

⇒ GMOワールド記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】