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ラウンドアップ耐性雑草解決への鍵となるか?–ジカンバ耐性作物の開発

宗谷 敏

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 2007年5月25日の米国Science誌に、除草剤ジカンバに対し耐性を持つ作物が開発されたという論文が掲載(Vol. 316. no. 5828, pp. 1185 – 1188)され、注目を集めた。開発に成功したのは米国Nebraska大学Lincoln校の開発チームであるが、同チームは米国Monsanto社と同社から最高250万ドルの研究開発費用提供を含む排他的技術使用許諾契約を、05年3月既に結んでいる。今週は、この技術の背景や可能性を関連記事から探る。

参照記事1
TITLE: Nebraska Research Safeguards Sustainable World Crop Yields
SOURCE: MichNews by Dennis T. Avery
DATE: Jun. 29, 2007

 1996年Monsanto社が、ラウンドアップレディダイズなどで商業化したグリフォサート耐性作物は、06年には世界で1億8340万エーカー(約7742万ヘクタール)も作付けされた。同社のバイテク部門売上の84%を占める、まさにドル箱である。

 しかし、農薬ラウンドアップの特許は00年8月に切れ、欧州特許庁(EPO)はラウンドアップレディダイズへの特許を新奇性に乏しいとして、特許獲得から13年後の07年5月に取り消している。こちらの特許も08年には切れるため影響はないが、Monsanto社も安閑としてはいられない。

 さらにもう一つの深刻な問題は、時折米国内での発生が伝えられるグリフォサートへの耐性雑草問題だ。生物の生きる力は偉大だから、どのような農薬が開発されても、やがてはそれに耐性を持つ生物が誕生するのは避け得ない。イタチごっこであるが、グリフォサートへのモノカルチャー化は、その優れた除草システムの寿命を縮めることになる。

 このような背景から、グリフォサートに代わる、あるいは併用することでグリフォサートへの雑草の耐性獲得を遅らせる、次世代の除草剤耐性システムが渇望されていた。Nebraska大学チームの研究はこのニーズにマッチした。上記記事を書いた米国Hudson Instituteのアナリストも、「他の除草剤耐性遺伝子の発見に希望を与えた」とチームの実績を高く評価し「次の40年間急増する世界の農産物需要に対し、持続可能で、土壌浸食の少ない高反収の農業の継続的拡大を許す技術」と絶賛を惜しまない。

 このアナリストは、同じ持続可能性を目指す有機農法を、一般的に反収が低く、不耕起栽培を禁止しているために結局は土壌流亡を招くものとして認めていない。さらに、GM作物は近隣の有機農家の作物に交雑するという環境安全性を理由にGMを禁止すべきだと長年主張してきた活動家たちにもジカンバ耐性がボディーブローとなり、武装解除を促すという。ジカンバ耐性は植物の葉緑体を通して働くため、花粉による風媒や虫媒からの交雑懸念がないからだ。

 このNebraska大学チームによる研究は、10年ほど前にスタートした。先ず土壌細菌を調査し、ジカンバを分解して植物体に無害な化合物に変換できる能力のある酵素を発見した。この酵素の遺伝子を種々の作物に導入したところ、ジカンバをスプレーされた植物体で、この酵素にはジカンバが有毒な濃度に達する前にそれをブロックする働きがあることが確認された。

 広葉植物に有効な安息香酸系除草剤ジカンバは、現在トウモロコシやムギ類などに広く使用され、低コストで土壌中に長期間残留しない比較的環境に優しい除草剤であり、野性動物やヒトに対してもほとんど毒性を示さないと評価されている。しかし、ダイズ、ナタネ、ワタなどには有害であるため使われてこなかった。

参照記事2
TITLE: Monsanto, UNL Sign Agreement to Develop Dicamba-Tolerant Crops
SOURCE: The University of Nebraska-Lincoln
DATE: Mar. 23, 2005

 いろいろな意味で大きな可能性を持つこの技術にMonsanto社も飛びついた訳だが、Nebraska大学側も調査結果を実用的な種子製品に育てるために、Monsanto社との協定は主要なステップであると述べている。では、ジカンバ耐性ダイズやワタなどMonsanto社の商品化はいつ頃になるのか? 栽培を含む確認すべき試験や規制をクリヤーするためのデータ整備の必要性から、Monsanto社CTOのRobert Fraley氏は、早くとも2010年からと05年のインタビューでは慎重だ。

 ラウンドアップレディの代替需要や交雑抑止から導入作物によってはヨーロッパ向けの需要喚起も期待できるジカンバレディであるが、これらは脂肪酸組成改変と共に先進国向けの手堅いビジネスだ。バイオフューエルブームによるトウモロコシ種子販売で第3四半期の業績も絶好調のMonsanto社が、食糧危機回避や飢えへの戦いを社是に謳うのであれば、干ばつ耐性など途上国にも役立つトレイト開発にも全力で取り組んでもらいたいと筆者は思う。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)