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GMOワールド

残暑厳しい折からミステリーを一席–米・韓FTAにGMO覚え書きはあるか?

宗谷 敏

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 2007年4月2日、韓国は米国の間の自由貿易協定(FTA)交渉が妥結したと発表した。長期にわたったこの交渉過程で、もっぱら注目を集めたのは米国BSE発生に伴う牛肉貿易の問題だった。しかし、米国産GMO輸入の韓国側規制緩和についてもある重要な覚え書きが交わされたと、韓国の一メディアが当時報じている。

参照記事1
TITLE: S.K. reportedly agrees to nix testing U.S. genetically modified crops
SOURCE: The Hankyoreh
DATE: Apr. 4, 2007

 「情報提供者によれば、韓国政府は韓国産繊維製品(の61%)の輸入関税を即時撤廃する見返りとして、GMOを含む米国産食品の安全性審査を免除する決断を行った。このことは、従来4品目しかなかったGM農産物への表示規制強化を打ち出した韓国政府の3月29日の発表と矛盾し、国民の健康を『売り渡す』という韓国の環境保護主義者たちからの政府批判を確認するものだ。

 さらに韓国政府はバイオセーフティ(カルタヘナ)議定書を批准しようとしているが、世界最大のGMO輸出業者である米国のGMOからFTAにより安全性審査を免除するなら、カルタジェナ議定書への署名と実行はおざなりな行為になるだろう」というのがこの記事の概要である。

 この記事の重要な部分は全て伝聞であり、メディア自身による確認もなされていない。もちろん米・韓両政府からこの覚え書きに関する公式リリースやコメントはないし、有力メディアによるフォローもない。これだけでは、ダメ記事である可能性も高い。

 だから興味深い話ではあるが、これだけではGMOワールドには書けない。しかし、最近になって米国のシンクタンクが「U.S.-Korean Food Fight」という米・韓FTAによる韓国農業や食品安全規制へのインパクトを論じた論文の中で本件に触れていたので「一つの謎」として紹介してみる気になった。

参照記事2
TITLE: U.S.-Korean Food Fight
SOURCE: Foreign Policy In Focus (FPIF), by Christine Ahn
DATE: Aug. 24, 2007

 この論文では、後ろから7番目から6番目のパラグラフにかけて、「覚え書き」に関する記述があり、FTAは韓国農業を衰退に追い込むばかりか国内食物安全規制をも浸食しているという論旨展開の中で、BSEと共にGMOが触れられている。ただし、依拠する情報源としては上述の「The Hankyoreh」だけだ。いや、もう一つ、ちょっと弱いが傍証が挙げられていた。

参照記事3
TITLE: BIO Commends USTR for Successfully Concluding U.S.-Korea Free Trade Agreement
SOURCE: BIO, Stephanie Fischer
DATE: Apr. 17, 2007

 これは、米バイオインダストリー協会(BIO)のCEOが、07年4月17日に発表した米・韓FTA成立を寿ぐリリースである。この3パラグラフ目に、「いくつかの農業バイオテクノロジー問題についての『個別の了解』について交渉した米国側農業交渉者を、BIOは祝う。BIOのサポートにより米国は、韓国の農業バイオテクノロジー規制が科学ベースであり、バイオテクノロジーから得られた農産物・食品・飼料が中断されることなく継続されることを保証されるよう過去1年にわたり韓国と共に働いてきた。」とある。

 このパラグラフから、『個別の了解』が安全性審査免除の「覚え書き」に関連すると「U.S.-Korean Food Fight」は推測している。米国とカナダが、北米自由貿易協定(NAFTA)の下で、メキシコに対し既に同様の権利放棄を成立させているとも述べる。ただし、もしこの論者が03年10月の三国間合意のことを指しているなら、最大5%までの「GMOを含む可能性がある」と表示された不分別の輸入トウモロコシをメキシコは受け入れるという協定なので、記事中の韓国の場合とはちょっと異なる。

 筆者の推測を以下に述べる。韓国ではバイオセーフティ国内担保法が準備されていたが、環境問題を超えて既存の食品安全担保法にまで踏み込み、全船検査まで要求するような極端に厳しい案だったと聞く。米国側農業交渉者は、これのなんらかの懐柔に成功したのではないかと思う。この覚え書きが存在するという仮定で、米国韓国のFTAに反対する同盟が懸念している通り、バイオセーフティ議定書を実行する韓国立法の権威が劇的に弱められるかどうかは、内容が明らかにならない以上今は断定できない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)