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大分涼しくなってきたのでお笑いを一席–タイのGMパパイヤ抗議運動の顛末

宗谷 敏

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 タイにおいては、長らく禁止されてきたGM作物の圃場験栽培再開を望む農業協同組合省によるガイドライン策定とこれを閣議決定に持ち込もうとする動きを巡って、Greenpeace Southeast Asiaの反対運動も一段と激しくなっている。その抗議運動がもたらした思わぬ結末を、2007年8月28日付のBangkok Post紙がスナップしている。

 まず、この国の背景から見てみよう。タイは、1999年10月に国際経済政策委員会(International Economic Policy Committee)がGMOの商業栽培用輸入の一部禁止措置に踏み切り、01年4月3日には、バイオセーフティ法案が完備されるまでという条件付きながら、閣議決定で圃場試験栽培も禁止されてしまった。つまり、商業栽培はもとより試験栽培さえもラボと温室に限定されてしまっているのが現状である。

 これらの背景には、各国のGM反対運動の中でも成功した部類に属すると考えられるGreenpeace Southeast Asiaによる度々の揺さぶりがあった。例えば、01年4月にはタイ国内で販売されていた日本日清食品製カップ麺とスイスNestle社製ベビーフードなどに表示無しでGM成分が含まれていると告発し、タイのGM食品表示制度策定を促した。

 また、04年7月の国営農事試験場で隔離試験栽培していたGMパパイヤが市場に流出したという告発は、GM圃場試験栽培再開を画していたThaksin首相(当時)に方向転換を余儀なくさせた。

 しかし、タイ農業協同組合省の「先進国のみならず途上国でも中国、インド、アルゼンチン、フィリピン、インドネシアおよびブラジルがGM技術を採用したのに、タイのGM植物研究開発は、6年間にわたりこれらの国の後塵を拝する結果になっている」という焦りは深刻であり、冒頭の圃場試験栽培のガイドライン策定、閣議決定へという動きとなった。圃場試験栽培の可能性がある作物としては、パパイヤ、トマト、トウガラシ及びパイナップルが上げられている。

 さて、黙っていられないのがGreenpeace Southeast Asia、これを潰すために立ち上がった。反対運動の一環として、07年8月27日、11トン(たいそうな量である)のパパイヤを、出入り口を塞ぐために農業協同組合省の前にぶちまけたのだ。しかし、この抗議行動は、それを傍観していた群衆からの意外な反応を招いた。

参照記事1
TITLE: GM protest goes awry as passers-by grab fruit, run
SOURCE: Bangkok Post
DATE: Aug.28, 2007

 「群衆は、何年にもわたりGreenpeaceが政府と大衆に浸透させようとしていたGM果実は危険だというキャンペーンを無視して、捨てられたパパイヤを拾い集めて逃げ去った。GM果実については何も知らなかった大部分の群衆は、それの健康リスクを気にかけておらず、彼らがどれだけ空腹かを考えていた。

 信号待ちの車からパパイヤを拾いに飛び出してきた31歳の男性は『私はGMパパイヤを恐ろしいとは思わない。むしろ食べ物がないことの方を心配する』と語った。Greenpeace Southeast Asiaの運動員は、この光景はタイの消費者のGMO問題に対する知識の欠如を反映したとして『これはGM作物の健康リスクの可能性について人々を教育するのに行政機関が失敗した結果である』とコメントした」というのが、笑える記事の概要である。Greenpeaceが自身の啓蒙の失敗には口を拭って棚に上げているところが、巧まずして二重に笑える構造になっている。

 記事中にもある通り、ばらまかれたパパイヤがGMであったかどうかは不明であり、タイの国産であれば非GMであった可能性の方が高い。しかし、Bangkok Post紙には、この記事に関する読者からの投書も後日掲載された。

 「GreenpeaceはGM果実が危険だと主張するなら、この拾い食いされるかもしれないという結果は充分に予見されたことであり、それを阻止するリスク管理を怠ったことは最悪の怠慢行為である。故に、パパイヤを拾った人々はGreenpeaceの主張を逆手にとり、自分たちを危険にさらしたGreenpeaceを告訴できる。

 Greenpeaceは、GM果実が危険だと主張している恐ろしいストーリーの全てはでっちあげであるか、『危険な』食品を配るという自らの怠慢のどちらかを認めざるを得ない。従っていずれにしても、パパイヤが大好きな人々は勝ち、Greenpeaceは負ける。人々はGreenpeaceが禁止しようとしている果実へのアクセスを得るか、デマを飛ばす人々よる怠慢の結果として補償を得るからだ」

 途上国においてさえも、Greenpeaceが仕掛ける理性を欠く扇情的なGM反対運動は矛盾を突かれ、もはや通用しにくい。Greenpeaceが狂信的なGM撲滅に拘泥し、より柔軟な方向への戦術転換を行わないのであれば、局地戦で一時的に勝っても全体的勝利はとてもおぼつかないだろう。

 付言すれば、ハワイで既に商業栽培されており、日本では認可申請中のGMパパイヤはリングスポットウィルスに抵抗性を持つ。民間企業も絡んではいるが、米国Cornell大学とHawaii大学が中心となって開発したもので、Greenpeaceが忌み嫌う多国籍大企業の産物ではない。そして、これがなかったらHawaiiのパパイヤは絶滅していたかもしれないと指摘する研究者さえいる。現在では、一部地域でバナナが危機的状況にある。度々指摘してきたが、GMに限らず技術開発は、いざことが起こってからでは間に合わない。故に、研究開発は過剰に規制するべきではない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)